第84話 魔導公爵がおきあがり仲間になりたそうにこちらを見ている!?
国王夫妻への挨拶も済ませたし、これで貴族としての体裁と役割は果たせただろう。
この場に長居をしても面白おかしく社交のネタにされるだけ。
王城は、今の俺たちにとって居心地の良い場所ではないのだ。
会場内を移動しながら、隣の彼女に聞いてみる。
「俺としては義理は果たしたので帰宅したいが、クララさんはどうだろうか?」
「ええ。私も帰りたいです」
同意とばかりに頷いたクララさん。
あんなふうに陛下とお話できて来て良かったとも言ってくれたので、そうだねと俺も頷いた。
クララさんが兄陛下の胸の内を知ることができたのは
どちらともなく出口を目指す。
だが、前方に邪魔者が立ちはだかった。
「おい。いったい、どういうことだ! 身体の方は問題ないのか?」
案の定、さきほどから
気づかうような、それでいて
クララさんは真正面から向き合って、
「これはグリアド公爵閣下、私のことをご心配くださっているのですか? 誠にありがとうございます」
堂々とした態度に些か面食らったようだが、すぐに思い直したように喚き立てた。
「心配でなく、単なる疑問だ! その首に着けられている魔道具の効果で、お前はとっくに干からびて絶命しているはずなのに……」
クソ兄貴はクララさんの首元を指さして、ワナワナと唇を震わせる。
「それに、その装束は何事だ! ソレの中身が本物のクラウディーラなのか怪しいぞ。そうだ、お前は偽物に決まっているっ!!」
どうやらここでも甲冑姿は不評のようだ。
そのうえ言うに事欠いて、うちの奥さんを偽物呼ばわりし始めた。
魔導公爵は勢いづいて、ズンズンとクララさんに攻め寄ってきた。
「怪しい侵入者め!
「えぇっ!? どうしてそんな発想になるのです? 嫌ですっ。絶対に、嫌ですわっ!!」
クララさんは慌てて、俺の背後に隠れようと後ずさる。
俺も魔導公爵とクララさんの間に割り込もうとしたが、遅かった。
バッチーーンっと
気がつけば、クソ兄貴は出口の扉の向こう側まで弾き飛ばされていた。
これは、クララさんの甲冑が
本来ならばちょっと火花が散る程度の効果しかなかったはずなのだが、おそらくは魔導公爵に対するクララさんの拒否感が相当なものだったのだろうと推察される。
彼女の切迫した精神状態の影響なのか、どうやら無意識でかなりパワーアップしてしまったようだ。
魔導公爵は通路に倒れたままプスプスと細い煙を吐き出しているが、ヒクヒク痙攣しつつアバババっとか声が聞こえるので生きているようだ。
しぶとい奴め、あれでいてなかなか生命力が強いらしい。
クララさんは、すっかり慌ててしまって狼狽えている。
「きゃー! 大変ですわっ。何方かお医者様はおられませんかーー!!」
彼女の声に素早く近衛隊が駆けつけての応急処置。
それから宮廷医務官が呼び出され、手当というか回復魔法が使われた。
奴を医務室へ運ぶための担架を待つ間に、俺たちに話しかけてくるもの好きが居た。
「あのぅ。もしかして、貴女がクラウディーラ様でしょうか……」
声に振り返れば、青白い顔で目の下に隈をくっつけた不健康そうな男が立っていたので、俺は思わず問い返してしまった。
「ええと、君は誰だぃ?」
彼は自分を魔法塔の魔術師だと言った。
「名乗りもせずに大変失礼いたしました。私はアルポルト=ハーウィルと申します、……どうぞお見知りおきを。ええと、新しく魔導塔に創設された部署で王城内の魔道具を管理している者です」
詳しく話を聞いてみると……彼の役割は、魔道具管理課の魔道具管理責任者という王城内で使用されている魔道具の保守点検を担う担当者なのだとか。
それで、今現在で魔道具管理課に在籍しているのはアルポルトただ一人で、連日王城や魔導塔に泊まり込んで激務に耐え忍ぶ日々なのだそう。
「今夜は照明魔道具に不具合があれば直ちに対応できるようにとグリアド公爵閣下に連れ出されまして、身の程もわきまえずにパーティーに参加していて肩身が狭かったのです。でも、……そのおかげで、こうしてスクリタス公爵ご夫妻にお目にかかることができました」
「それは、何ていうか、……お疲れさまっていうか、災難だったねぇ」
俺は労いの言葉をかけてやることしかできなかったが、クララさんは何やら嬉しそうに話しだした。
「まぁ、嬉しいわ。貴方は魔道具のお仕事をなさっておいでなのですか? 私は仕事にしているわけではございませんが、とっても魔道具に興味津々なんですの。これから仲良くしてくださいねっ」
アルポルトとやらの両手を握って、ぶんぶん上下に振り回していたのだった。
これが友好の握手なのは理解している。
だが、気安く他の男の手を握らないでほしいんだよ。
「……」
でも、せっかくクララさんが楽しそうに話をしているのだからと……俺は無言で二人の様子を見守っていた。
ふと、何の気なしに扉の向こうを見てみれば。
「……」
担架の上にのせられた魔導公爵と目があった。
「「……」」
上半身だけ起き上がり、奴もクララさんとアルポルトのやり取りを羨ましそうに見つめていたのだ。
担架を持ち上げようとして奴を囲んでいた近衛隊の肩を掴み、何やら言いたげであったが、そのまま有無を言わさず運ばれてゆく。
その後を魔導塔の坊っちゃん貴族たちがゾロゾロと騒がしく追いかけながら退場していったのだった。
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