第82話 進行役の宰相補佐がやり難そうだが、見ているぶんには楽しいな
宰相補佐のドルノー殿の手引によって厨房側から扉のない出入り口を抜ける。
そうやって華やかな会場内に入り込み、飲み物を運ぶ給仕係に紛れて目隠し用の
貴族連中は召使いや使用人の動向に無関心なので、誰もこちらを見ている者が居なかったのは幸いだったよ。
目立つ格好の俺達を見咎めて騒がれたら面倒だからね。
俺とクララさんは貴族の奴らの背後から招待客の集団に何食わぬ顔で近づいて、彼らの仲間入りを果たしたのだった。
一緒に入場した給仕係が気を利かせてくれて、二人とも手には果実酒が入った細身のグラスを持っている。
場内はザワザワとした高揚感に包まれていて、パーティーの始まりを待っていた。
ここに案内してくれた宰相補佐官殿は、素早く会場の脇を通り抜けて颯爽と最前列の司会者席に。
その姿を目にした貴族たちのざわめきが少しだけ大きくなった。
「皆さまご静粛に。国王陛下ならびに王妃殿下のご入場でございます」
彼が、最上位の方々がやって来ることを皆に知らせた。
各々が腰をかがめ敬意を示すなか兄陛下が王妃殿下とともに優雅に入場し、ゆったりと最奥に設えた豪奢な椅子に着席する。
それから側近にグラスを渡され立ち上がり、会場内の招待者たちへと呼びかけた。
「皆、楽にせよ。今宵は我が第一王子の祝いの宴に集まってくれ感謝する。新しき王族を迎え、王城内も益々賑やかになるだろう。彼女も合わせて今後とも我らをよく支えてほしい」
陛下がグラスを掲げれば、会場内の皆も同じようにグラスを持ち上げ呼応する。
「「「我が国と国王陛下の
さてさて、いよいよ始まるようだね。
宰相補佐であり宴の責任者でもあるらしいドルノー殿の、魔力をのせた声が会場内に響く。
「お集まりの紳士淑女の皆さま、私は国王陛下より司会進行の栄誉を賜りましたダーヴェルト=ドルノーと申します。この度、フィランツ=ハロルガ=ルドル=ローゼルロード第一王子殿下とリヴィエール=ジアーナ=エリバスト侯爵令嬢のご婚約が正式に整いましたこと、ここに祝宴の開催を宣言いたします」
彼の宣言には
次に婚約者となった令嬢のご両親が紹介されようとした……のだが、何やら姿が見えない様子。
側近の係員と小声でゴニョゴニョ話したあとで、ドルノー殿が小さく息を吐きだしたのに気がついた。
「えぇぇと、予定では婚約者となられたエリバスト侯爵令嬢リヴィエール様のご両親よりご挨拶をいただくところなのですが、……御母堂様の侯爵夫人が体調を崩されまして控えの間で休んで居られるとのことでして、……先に第一王子殿下とエリバスト侯爵令嬢のご挨拶を……」
と、進行役が話をしている最中に主役の二人が乱入してきた。
会場の最前列中央部にしゃしゃり出てきた第一王子たち。
偉そうにふんぞり返るフィランツの腕に絡まりながら満面の笑みな侯爵令嬢の登場に、呆気にとられて開いた口が塞がらないドルノー殿。
招待客たちもざわついた。
そんな会場の空気などおかまいなしに侯爵令嬢が嬉しそうに言葉を発した。
「皆さん、私たちのためにお集まりいただき誠にありがとうございます。私、ご紹介に預かりましたフィランツ殿下の婚約者で、リヴィエールと申しますの。どうぞ宜しく~」
あちゃぁ、王子殿下を差し置いて率先して挨拶しちゃったよ。
普段はともかく、こういう場でこういうのは王子を蔑ろにしたカタチになるんだよなぁ。
フィランツの方も、そんなことなど気にもせず得意気に胸を張って会場内をを見まわしてるし。
俺と目があったら、フイっと視線をそらしやがったよ。
んで、さっさと引き返しちゃったんだ。
場をもたせるとか空気を読むとか、取り繕うとか一切なし。
会場中央に陣取って、勝手にあとは無礼講だとか言ってるんだが、お前らが仕切るなよ。
司会者が泣きそうな表情になってるのが見えないのかよ。
そのうち二人でイチャイチャしはじめた。
それを見た取り巻きの仲良したちまで無駄話に花を咲かせ始めたんだ。
パーティーといっても、いちおうは公式行事だからさ……本来ならばひととおり堅苦しい挨拶やらの形式美的な過程を経てからの立食パーティーとなるはずだったんだけど、ねぇ。
何ていうか、これではどこかの酒場での飲み会みたいだなぁ。
ちらりと進行役席を見てみれば、ドルノー殿が両手で頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
ありゃりゃ、可哀想に。
いつの間にか隣に来ていた宰相に肩を叩かれ、……うん、あれは慰めてもらっているようだ。
まあ、大変そうだが……二人ともせいぜい頑張ってくれ。
俺は部外者の
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