近ごろの、何かと騒がしい王城事情
第73話 外交文官と財務文官の茶飲み話
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クマな作者のつぶやき ……
この章は各話ごとにモブキャラさんたち視点でお送りする予定です
(>(エ)<)ヨロシクオネガイシマスー
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王城内の喫茶室では、城仕えの貴族たちが其々に休憩時間のひとときを過ごす。
王族や高位貴族の侍女や侍従が情報交換に勤しんでいたり、官僚たちが仕事の合間にお茶を飲んだりしている場所だ。
王侯貴族たちがサロンでお茶を嗜むようにとはいかないが、この場所で供される飲み物や料理も庶民の食事から比べれば贅沢なものだといえるだろう。
そんな広い室内の一角で、疲労感を漂わせた二人組が休憩時間を共にしていた。
一人は前髪を七三分けにした若い男。
もう一人は少しばかり年上で、銀縁の丸眼鏡をかけている。
七三分けが大きなため息をつく。
「……っはぁ〜〜っ」
大きく肩で息を吐き出したものだから、手に持ったままの紅茶が揺れる。
「どうした、随分元気がないようだが。外務局で何かトラブルでもあったのかい?」
丸眼鏡が心配そうに尋ねると、彼はココだけの話なのだがと前置きをした。
「これはくれぐれも内密で頼みたい話なんですがね、ちょっと聞いてくれますか?」
「ああ、口は堅いほうだと自負している。安心して話してくれよ」
「それならば……すみませんが、ちょっと愚痴らせてください」
「おう、何なりと言ってみてくれ。私にも何かしら協力できることもあるかも知れんしな」
「ああ、ありがとうございます。その気持ちだけでも嬉しいです……」
広い喫茶室の壁際席で、七三分け男が語る。
「昨日うちの外務局で、隣国との共同事業についての合同会議があったんです。そこで新人の職員が相手国の担当責任者に暴言を吐いたもんだから、そこで話が頓挫して、……もしかしたら、隣国との事業がたち消えになるかも知れないんですよ……」
その会議はたしか、七三分け君は自国側の担当責任者として抜擢されたと張り切っていた事案だったはず。
丸眼鏡氏は数ヶ月前の彼との会話を思い出していた。
憔悴しきっている眼の前の男に、何と言葉をかけたら良いのか戸惑いを隠せない。
自分もそれなりに長く財務局に勤めたベテランを自負しているが、彼もまたやり手の外交職員なはずなのだ。それが、一体全体どうしてそんな事になったのだか。
眼鏡氏は、かろうじて慰めの言葉を捻り出す。
「それは、何ていうか……災難だったね」
「ええ、もうあれは人災だと思うんですよ。補佐として同行させていた新人がプライドばかりで使えないのなんのって。両国の持ち寄り費用が莫大で、ただでさえ難航することが予想されていた事業だったのに、折衷案や代案すら提示せずに相手国側からの提案をそんな条件は飲めないとぶった切りやがったんですよ。隣国は去年の大水害で甚大な被害がでていて無理のできる状況じゃないというのに、何の配慮も気遣いもなしで今すぐに予定どおりの予算でやるのが当たり前だと大声で怒鳴りやがったんです。相手側はここ数年は予算が厳しいので数年延期してほしいという要望だったのですが、待ったなしだって突っぱねたわけですね。責任者だったはずの私を差し置いての大暴挙、いくら有力高位貴族の子息だからといっても新人のヒヨッコが、です。もう……あり得なさすぎて、私はどうやって収拾をつけたらよいのやら……」
七三分けの声がちょっと涙声になってきた。
「部下の暴挙は私の監督不行届だと上層部に責め立てられるし、隣国からは交渉する気がないのならばいったん帰国すると言われるし、もう散々なんです」
丸眼鏡氏も言葉をなくすほどの憔悴ぶりである。
七三分けの泣き言はまだ続く。
「最近の新人どもは私たちのような下位貴族の助言や指導を喧しいと言うばかりで、学ぼうともしない。ですから成長なんてするわけないんですよ」
「まあ、たしかにそうだねぇ……」
近ごろの王城職員を目指す若者たちは、矜持だけが一人前だ。
それには丸眼鏡氏も同意する。
「以前までの補佐役はどうしたんだい? 大事な会議に新人が同行するなんて、君が了承するとは思えないが」
「数ヶ月前から補佐を頼めなくなったんですよ。ほら、例の第一王子の祝賀会で………………」
「え。もしかして、トワイラエルの?」
「ええ。大事な外交会議にはずっと彼女が同行してくれていたんです」
「なるほど、そうか。急な追放だったものなぁ……」
「そうなんですよ。勉強熱心で国外の事情に詳しくて、それでいて気配り上手で、今思えば彼女は最高の補佐役でした」
「なるほど、なぁ。うちでも彼女が居なくなった影響が出始めているよ」
「えぇっと。もしかして、財務の方でも彼女が仕事の補佐を?」
「ああ。そこいらの事務官よりバリバリ書類を捌いて、ミスだって殆どなかったと聞いているよ。私は直接の関係者ではなかったが、財務でもかなり広範囲で重宝されていたらしい」
そこまで話して、大きなため息をつく丸眼鏡氏。
「重宝は良かったが、失った人材は大きかったな。この短期間のうちに、彼女が抜けたあとを引き継いだ職員たちの計算ミスや小さな不正行為が次々に発覚してね、うちもなかなかに不安定な状況だよ」
七三分け氏も一緒になって大きく肩を落とした。
「トワイラエル嬢は、もう現場に戻ってくることはないのでしょうねぇ……」
「まあ、な。あの夜会の茶番劇は酷かったからなぁ。散々な目に合わされたトワイラエル嬢は国王陛下の王命で公爵家に嫁入りなさったそうだし、何より王城内外で彼女の酷い噂が垂れ流しで居心地が最悪だろう」
「ああ、……あの、呪われたとかで醜い姿で廃墟塔に閉じ込められているとかいうやつですか?」
「そう、それだ。それに、トワイラエル侯爵家は犯罪に手を染めて取り潰しになったとかで、現場に復帰どころではないだろうな。大っぴらには言えないが、それが事実なのかもわからんし……誰もが口を閉ざして
「彼女が仕事を任されていたのは、たしか……第一王子の婚約者としての公務見習いの傍らで、現場の様子を学ぶというのが前提条件でしたものね」
「そういうことだ。彼女が今どうしているのかわからないが、我らとはキッパリ道が分かたれてしまったのだろうなぁ」
ともに国を支えてゆく未来は消えてなくなったと、丸眼鏡氏がしんみりと呟いた。
そして、憂鬱そうな二人組が何度目かの大きなため息を吐き出したのだった。
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