第71話 いざ行かん
パーティー当日までの時間は案外と忙しく過ぎていった。
そして、いよいよ今日が招待状に記載されたパーティー開催日。
せっかくアメリが用意してくれた揃いの衣装だが、今は俺だけが着用だ。
甲冑姿のクララさんも、ちょっと良い感じの俺の手持ちのマントを纏っていつもより豪華な出で立ちではあるので、夫婦揃うとなかなかに迫力のある絵面になっているかと思うんだよ。
クララさんが皆さまにお見苦しい姿をお見せするのは申し訳ないと言い張ったので、アメリもはじめほどドレスでの参加を無理強いしなかった。
残念だが次の機会に二人で着てくれればアタシは満足だよと言っていた。
むしろ、今回はドレスの出番がない方が平和だろうとも。
「でもね、いいかい? 誰が何と言おうとも、クララちゃんは見苦しくなんかないからね。胸を張って堂々と行っておいで」
「はい。アメリ様、わかっておりますわ。私、何だかんだ言っても今の自分も気に入っておりますもの。ただ、無用に皆さまのお心を乱してしまうかも知れないと考えると、少しだけ心配だったのですわ」
あとは二人でこそこそ話。
そこにエドも混ざって、三人で何やら話し込んでいたのだが、……俺は蚊帳の外だった。
塔の地上階から馬車に乗り込む。
黒塗りの四頭立て高級馬車が一度裏門から出て、王城の外周を回り込み正門から入場する。
我が住処は王城の敷地内という恵まれた立地なので、普段は基本的に徒歩での移動なのだが、他の貴族家と足並みを揃えて馬車を手配しての登城である。
なにせ受付が正門でのみという効率の悪いやり方なものだから、徒歩で敷地内をウロウロするよりも馬車での移動の方が面倒がないというわけだね。
車内の座席に座るのは俺とクララさん、それからエド。
御者席にはシルバが陣取っている。
俺の隣で姿勢良く座っているクララさんを、向かい側のエドが気づかう。
「お嬢様、車酔いや緊張などでご気分が悪くなったら仰ってください。無理をしては駄目ですよ。お酒を召し上がるのならば前もって服用する胃薬がありますし、冷たい水や気付けの薬も用意してありますからね」
「エドさん、ありがとうございます。ええ、今のところ問題ないですし、胃薬も大丈夫ですわ」
その会話を聞いた俺は、何となく彼に突っかかる。
「俺用に景気付けの酒はないのかい?」
エドは呆れたように、これから会場で飲み放題ですよねと正論で返してきた。
そこに景気付けなど不要でしょうと付け足してきやがる。
「閣下はたらふく飲んでも全然酔わないじゃないですか。それに、パーティーには不景気な顔をして参加するのが暗闇公爵のイメージです。社交界で威勢が良かったり機嫌が良かったりする閣下なんて見たことも聞いたこともないですし、もし見かけたとしたら、それは偽物に決まっていますね。そんなあり得ないのが居たら気味が悪いですもん」
陰気で不機嫌で薄気味悪いっていうイメージのせいで貴族の皆さまに恐れられちゃってるんでしょうがと続き、今更イメチェンしたって手遅れでしょうから諦めたらいかがですかと、
「おい。お前の俺のイメージが酷すぎて不景気極まりないんだが」
「それは重畳。それでこそ閣下ですね」
「……むぅ」
業腹だが、
俺たちの会話にクララさんがクスクス笑う。
うちに来たばかりの頃よりも更に屈託なく笑ってくれるようになったのが、俺的には少し嬉しく思っていたりする。
皆との外出にはしゃいだベリーが彼女の膝の上でクネクネダンスを披露したものだから、クララさんはもっと笑い声を大きくしたのだった。
うんうん。どちらも可愛いくて癒やされるなぁ。
以前は野郎ばかりで同居していたからか、塔の中も船も馬車も、今思えばやはりむさ苦しかったんだよ。
ときにはアメリが遊びに来ることがあるにはあった。
だがアレは、自称美磨女だが俺たちと同類だから。
師匠に癒やしを求めると、めっちゃ裏切られるんだ。
今までさほど気にしたことはなかったが、クララさんとベリーが一緒に住むようになって住処がパッと華やいだと思うのだ。
なんてことのない無駄話をしているうちに王城の正門前に到着だ。
ちょうど招待者が集中する時間帯だったようで、門前には何台もの馬車が並んで順番を待っていた。
もう暫くは無駄話に花を咲かせるのも良いだろう。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
[ クマな作者のひとり言……(*´(ェ)`∩) ]
なんと、ラスが酒豪だったことが判明しましたw
作者もビックリな後付け設定でございますぜ
馬車の車内でのエドとラスの会話を、もうちょっと面白くしたくて足掻いてみました(笑)
いつも読みに来てくださり誠にありがとうございます
じつはあと一話分で暗闇公視点の章が終わりまして、作者のクマはまたしても書き貯め生活に突入なのでございます💦
休み休みの投稿で申し訳ございませんが、気長に続きをお待ちいただけたらホントにほんとにありがたいです
今後ともどうぞよろしくお願い致します(_ _)
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