第65話 [挿話]ネームドスライム☆ぷるぷるベリー ((〃ω〃)) ♪ ( こちらはスライム視点でお送りしております☆)




 気がつけば仲間たちと一緒であった。

酸っぱくて美味しいごはんをモリモリ食べて、陽の光をいっぱい浴びて、葉の陰で昼寝をする。

夜はこの高い建物の、石の隙間に皆でひしめき合って眠る。

朝が来れば草の葉に溜まった露を飲んで、美味しいご飯を身体いっぱいに詰め込む。

毎日毎日が繰り返し。

それが続くと思ってた。






 何とはなしに仲間たちを振り返れば、いつものように闇苺を一心不乱に捕食している。

それは、つい先程までの自分もきっと同じだったはず。

視線を動かせば己の身体にも沢山の闇苺が取り込まれているのだから。



 身体の動きに合わせて体内の赤黒い苺たちがフヨフヨと動く様が面白く、更にぷるぷると揺れてみる。

今まさに発見したのだが、これは実に楽しいものである。



 おや。

一つだけ金色に光っている実が混ざっていたらしい。

綺麗な色の苺の果実は半分溶けかかっていて、自分の体内を明るく照らしているみたい。

どうやら、特別な色の実を気づかずに他の闇苺と一緒に取り込んでしまったようである。

せっかくだから食べる前に綺麗な色をじっくり観察したかったのに、ちょっとだけ残念だな。




 そこまで考えて、ふと我に返った。




 はて。

何故、皆はあんなに必死になってごはんを取り込んでいるのだろう?

何故、自分はこんな風に考え事を始めたのだろう?


 毎日お腹が減ってお腹が減って、来る日も来る日も闇苺を食べていた。

眠くなるまで食べ続け、起きたらまた食べる。

 悩み事も疑問もなかった。

そんなものが入り込める余地はない。

自分たちはそういう存在なのだから。



 仲間たちはいつも通り。

……なのに。

自分だけが突然の変化に戸惑うばかり。



 周りに居るのは同じ時期に生まれたはずの仲間たち。

少し離れた場所を見れば、大きく成体となった同種族たち。

皆が皆で、それぞれの場所で同じように闇苺を食べ続けている。

自分のように周りを気にしているものは誰も居なかった。



 ひとりぼっちになってしまった気がして不安になって、さらに遠くまで見渡してみる。

 すると、一列に並んで餌場を離れてゆく成体の同種族が見えた。

彼らが規律正しく石の隙間を進んでゆくのを慌てて追いかける。

 置いていかれたら淋しいと、そう感じたのだ。

よくわからないけれど、こんなことは初めてだ。











 紅い隊列が颯爽と高い建物を登ってゆく。

待ってよ、置いて行かないでよ。

幼体の自分では思うような速さで動けない。

それでも動きの早い彼らから引き離されないように必死に追いかける。



 大きな石の裂け目をくぐり抜け、暗い通路の端を進む。

段差のある場所をいくつも飛び越えて、何度も材木が閉ざしている空間や明るく開けたところを通り過ぎた。

 そして隊列は、やがてある空間の中へと吸い込まれていったのだった。






 そこは、ピカピカの銀色の塊がズラリと並んでいる大きな場所。

成体の同種族たちは、その場所でピカピカに貼りついたり隙間から出入りしたりと、ことさら忙しく動き始めた。

次から次へと繰り返し、あっという間にすべての銀色をよりピカピカに輝かせたのだ。

何故こんなことをしているのかはさっぱり理解できないが、たくさんのピカピカの銀色と彼らの動きに圧倒されて、ただ見ているばかりだった。




 考え事をしているうちに、大きな二本足と細いヒラヒラがやって来た。

「者ども、集合!!」

大きな二本足がビシッと号令をかけると、ピカピカのあちこちから成体の同種族がわらわらと流れ出てきた。

石の広場に同種族たちがひしめき合って、ドロリと大きな赤いかたまりになった。



 先ほどから大きな二本足が何かの音を出しているが、それはどうやら意味のあることらしい。

見ていると同種族たちと二本足たちは自分の知らない方法で挨拶を交わしたようだった。

「そのまま行進、旋回せんかいして持ち場に戻れ!」

 二本足の音に対して素直に行動する同種族たち。

部屋の入口でグルグル回りながら、やがてピカピカの中に潜り込んで姿を消してしまった。




 自分は無性に細いヒラヒラが気になって、素早くヒラヒラの下に潜り込んでいた。

 成体の同種族たちは居なくなってしまったがかまわない。

だってそれどころではなかったから。

 とにかく細いヒラヒラに近づけば近づくほどに気持ちが安らいで、ずっと一緒に居たいと思った。

突然に湧き上がった不思議な気持ちに抗えなかったのだ。





 ヒラヒラの細っこいのと目があった。

嬉しくなってぴょんぴょん飛び跳ねてしまう。

「おやおや、珍しい。ずいぶんとなつかれたもんだ」

大きな二本足が低い音を出した。

細いヒラヒラに何かを伝えているみたい。

「こりゃ分裂したてのお子さまスライムさ。基本的に臆病な質だからか、成体の大きさになるまでほとんど出てはこないんだが。まさかお嬢に懐く奴が出るとはなぁ……うん。この部屋で働いているスライムたちは、皆がこんな風に我輩に懐いてくれた可愛い奴らなんだよ。他の大多数のベリースライムたちは外壁にへばりついて、闇苺の葉陰に隠れながら気ままに生きているのさ。なるほど……今居る幼体の中じゃ、こいつ一匹だけが勇敢な変わり者なのかも知れねぇぞ。お嬢が良かったらなんだが、こいつの意思を尊重して身の回りに置いてやっちゃくれねぇか? 人になつく個体はとくにかしこいから、お互いに良い遊び相手になるだろうよ」

「え!? よろしいんですの?」

細いヒラヒラも高い音を出す。

それに大きな二本足が応えているようだ。

「ああ。ぜひ頼むよ……あんたの相棒として飼ってやってくれ。餌は外壁の闇苺を勝手に食べるから手間いらずだぜ?」

「まぁ、それは有り難いかも。それじゃぁ……子どもスライムさん、よろしくね?」



 いつの間にか細いヒラヒラに持ち上げられていた。

高い音が心地よくてプルプル震えて応えてみると、細いヒラヒラの音が優しくなった気がした。



 少しの間だけ細いヒラヒラが何か考え事をして、また高い音を出した。

先ほどから大きな二本足と互いに音を出し合っている。

「うーん。子どもスライムって呼ぶのも、ちょっと変ねぇ。そうだわ……名前をつけても良いかしら?」

「ああ、良いんじゃねぇかな。我輩は、数が多すぎるし見分けがつかねぇから、一々名づけることはしていないが、その方が親しみがあって良いと思うぜ」

「そうね、どんな名前が良いかしら…………赤くて丸いから、赤丸ちゃん? スライムだから、スーちゃん? ……どうも、しっくりこないわねぇ」



 細いヒラヒラが動きを止めて、再び考え事をしている。

今度は長めに考えているみたい。

じっとして動かずに様子を見ていると、ウンウンと上下に細っこいてっぺんを動かして音を出す。

「……そうね、わかりやすいし覚えやすいのが一番ですわ。そういうわけで、貴方の名前は“ベリーちゃん”で。可愛いし、良いかと思いますの」

そうしたら、大きな二本足が愉快そうに息を吐きながら音を出した。

「ははは。たしかに一度聞いたら忘れないかもな。良かったな、ベリー」

なんだか知らないけれど祝福された気がしたので、お礼にぴょんぴょん跳ねてみた。



 あのときは何がなんだかわからなかったが、今思えばあれが主人たちとの出会いだった。

ただのダークベリースライムの幼体が、ぷるぷるプリティなベリーとなった瞬間だったのである。




 






 細いヒラヒラが我が主人となり、名前を呼んでもらえるようになった。

彼女が我が名を呼ぶたびに、優しく撫ででくれるたびに、ベリーは強く賢くなってゆく。

 素敵な寝床と刺激的で楽しい日々を手に入れた。



 近ごろではご主人のクララが、午後のお茶の時間にお菓子をくれる。

初めて取り込んだショコラという甘いかたまりは茶色くて艶々つやつやで、トロリとベリーの中へけて馴染なじんだ。

パンケーキとやらはフワフワで、クッキーはサクサクだった。



 酸っぱい闇苺が大好物なのは揺るがないが、思いきって食べてみれば大抵のものは美味しくいただけることに気がついた。

 以来、何でもかんでも食べてみるし興味は尽きない。

そんな関係で厨房にも遊びに行くから、大きな二本足のシルバとも仲良くなった。

「おう、ベリーか。ちょうどチーズケーキが焼き上がったところなんだが、お前も一緒に味見するか?」

ぷるぷる身体を振るわせて、ちょーだいと強請ねだってみる。

「何だかさ、あざと可愛いよな、お前って」

よくわからないけれど、たぶん褒めてくれている。

そういうことにしておいて、美味しいおやつにありついた。






 暴飲暴食。

まさにそれ。

ベリーは、何でも食べてみる。



 今では自分たちの住処すみかが廃墟塔と呼ばれる建物であることを知っている。

その建物が王城という立派な施設群の一部分ということも。

善良な飼い主であり心配性なクララの目をかいくぐり、こっそり出歩き王城内部を単独冒険しているからだ。

そのうちに二本足たちが話しているたくさんの事柄をすっかり身につけていた。





 それから、闇苺以外の獲物を狩ることも覚えた。

王城内部でも北の外れに鬱蒼うっそうとした森がある。

見えない結界で囲まれているその場所では数種類の魔法生物が生息していて、ときには王侯貴族たちの魔物狩りという娯楽に利用されているらしい。



 ベリーはときどき森に行く。

キノコや植物や木の実などを食べたりするし、木漏れ日の中で転がって遊んだりもする。

 気が向けば腕試しとばかりに身体を最大限に広げて、野鼠に似た水属性の生き物に覆いかぶさる。

激しく抵抗されたが有無を言わさず包み込み、徹底的に抑え込む。

そうすると、やがて獲物は静かに動きを止める。



 初めての獲物は半日程度で跡形もなく消化することができた。

森に行くたび次々と狩りをする。

今では山猫みたいな風属性の生き物を、数時間くらいで食べきることができるようになった。



 たまに、猪のような大きくて強そうな生き物も現れる。

そういうときには触手を伸ばし、先端から体液を発射する。

 照準は獲物の眼。

まずは視覚を封じて攻撃手段を奪うのだった。



 色々と雑食にはなったが、あくまでもベリーはダークベリースライムである。

主食は酸度の高い闇苺。

他は前菜やデザートにすぎない。

ゆえに、我が体液の主成分は闇苺由来なのである。



 体内で精製された超強力な消化液。

目つぶしにはもってこいだし、触れれば何でも溶かしてしまう。

要するに、猪如きベリーの敵ではなくなっていた、ということである。



 いつの間にか、森の生態系の頂点に君臨していたベリーであった。



 今日も今日とて森へ行き、どんどん獲物を狩ってゆく。

やりすぎると貴族連中の娯楽に差し障るだろうから、程々に。




 ごく稀に、獲物の中から綺麗な石が出てきたりする。

今日の獲物であった緑色の蜥蜴からは若草色の半透明な石。

昨日の小さな鹿っぽい奴からは、燃えるような紅い石。



 何となくだが、ご主人のクララへ贈り物にしようと思いつく。

彼女が喜んでくれたらベリーも嬉しい。



 そうっと大切に、溶かさないように。

身体の中へ仕舞い込む。

大事なものは奥の方。

誰にも侵せない秘密の場所に、時間を止めて仕舞い込む。



 毎日充実。

 日々冒険。

 ベリーの成長はとまらない。







・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


[クマな作者のひとりごと (//(エ)//)ゝ ]


ふと思いついてスライムのベリー視点でお話を書いてみました(^^ゞ

25話の時点からはじまりまして、本人……じゃなくて本スライム、本スラのたくましい成長をお届けできていたら嬉しいです(*^^*)


現時点では大きさが拳大な彼女?の狩りの様子を想像するに、大きく薄く最大限に広がって獲物をラッピング?

もしかして窒息させるんか!?

うわぁ((( ;゚Д゚)))ww

ちっせぇのに……グロいなぁとドン引きしながら書いてました( →_→)












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る