第64話 三人揃えば、内緒の話




 自室でベリーをツンツンしながら思う存分にグルグルうだうだ考えて、それからアメリ様のところへ相談に行ってみた。

「おや、クララちゃんじゃないか。どうしたの?」

部屋の中に招かれて、何か聞きたいことがあるのかいと促された。

「そうなのです。じつはご報告とご相談がありまして」

「ほうほう。何だろう? ラス坊との茶会で何かあった?」



 私は椅子に座って、膝の上にベリーを抱いている。

アメリ様はニコニコ笑顔で寝台に腰掛けて、身を乗り出して問うてきた。

「えぇと、あの……ですね……じつは、……」

モジモジと言葉を探していたら、いきなりの先制攻撃。

「……もしかして、熱烈に告白でもされちゃったのかい?」

「っ!!」



 ピクリと肩があがる。

ポヨリとベリーも揺れた。

「えっと、じつは……私の、……ほうからっ……。ぅぁぁあ、もう、駄目です。恥ずかしすぎますっ……」



 私の応えに、軽く目を見開いたアメリ様。

次の瞬間には愉快そうに笑い声をあげいていた。

「ふっ。ははは〜、はははっ!! 近ごろの貴族のお嬢さん方はひたすら受け身一辺倒なのだと思っていたが、……ほんとクララちゃんってば意外性があって見ていて飽きないなぁ。それく比べてラスの奴は、情けないねぇ〜」

ヘタレめ、と彼女は笑う。



 アメリ様は、やたらと続きの話を聞きたがった。

「それで? それから、どうなった?」

根掘り葉掘り詳しく聞き出されて、顔面温度が上昇しまくり困ってしまう。

頬が熱くて仕方がないけれど、とにかくアメリ様には包み隠さずことの経緯と自分の気持ちを伝えてみた。

「ほほう、なるほど。それは彼奴あいつと話し合ってクララちゃんなりに考えて、それで出した結論なのだね?」

「はい。私なりに考えて納得っていうか、そうありたいと思いましたの」

でもちょっとだけ不安になって、アメリ様に相談したかったのだと打ち明けた。




 それから少しばかり思案顔だった美貌の魔女様に、それは綺麗な笑顔で確認された。

「これから君がどうしたいのか、ラスの奴は知っているのかい?」

「いえ、まだ自分で結論を出しただけなので。彼には知らせておりませんの。やはり大事なことですし、前もって伝えておいた方がよろしいのでしょうか」

 私の言葉に、ニヤリと目の前の笑顔が深まった。

「いや、必要ない。っていうか、知らせないで奴を驚かせてやろうじゃないか。塔の中での暮らしは楽しいが穏やかすぎて些か退屈を感じていたところだし、ちょっとした悪戯があっても良いと思うのだよ、アタシはっ。クララちゃん、我々は君に全面的に協力させていただくよっ。……ただし、ラスには内緒でね」



 アメリ様の迫力に負けてしまった私は、不覚にも不穏な約束をさせられてしまったのだった。






 それからすぐに、アメリ様に連れられてフェル様のところへ。

彼女は言うには、今の私には巨匠様フェルさまのバックアップが欠かせないらしいのだ。

「おやおや、魔女殿に嬢ちゃんと苺ちゃんか。揃ってワシに何のご用かな?」

「フェル様、いきなりお邪魔してすみません。ちょっと、こちらでお話をよろしいですか?」

「もちろんだとも。お嬢たちならば喜んで」

「ありがとうございます」



 私たち二人と一匹は作業場も兼ねた広めの室内に通された。

「公爵閣下が塔の中でも仕事ができるように配慮してくれてな、皆よりも広い部屋と作業台などの設備を貸してくださったんだ。おかげで定期的に引き受けている仕事を恙無く仕上げることが出来て助かっているよ。配送や連絡なんかはエドが素早くこなしてくれるし、もしかしたら自宅よりも作業がはかどるかも知れん」

 なるほど。フェル様ったら、案外居心地が良いらしい。

こちらに長居しすぎると奥方様がさみしがるんじゃないかしら。

そんなことを思いながら、アメリ様とこっそり目を合わせて笑いあった。



 椅子を置いて大きな作業台の周りを三人で囲む。

ベリーは台の上でコロンコロンとひとり遊びを始めている。

その様子を皆で愛でてから、おもむろにアメリ様が話題を切り出した。

「クララちゃんが身につけているチョーカーネックレス型魔道具について、他ならぬ巨匠殿に力を貸していただきたく……」

「あぁ、ああ、みなまで言うな、わかってる。安請け合いはできんが、ワシにできるだけのことはさせてもらうつもりだ。とにかく詳しい話を聞かせてみろ」



 アメリ様をさえぎるように言葉をくれるフェル様に、思わず二人で感謝の言葉を述べた。

「ありがとうございます」

「アタシも感謝するよ」

「いやいや、そのためにワシが呼び出されたんだろうが。それに今回はじつに興味深い案件じゃから、ぜひとも協力させていただくよ」

ワシにとっても良い経験になりそうだと、フェル様は仰ってくださったのだった。






 


 自分の気持ちを語るのは思ったよりも照れくさいと悶えつつ、何とか要望を伝えてみた。

 商人さんへの発注やドレスのデザインならば難なくこなせていたのだけれど、自分の恋愛絡みとなると別問題である。

アメリ様はともかく、殿方にそんな話をしなくてはならなかったのには我ながらほとほと弱ってしまったのだった。



 なるほどと、巨匠がうなった。

私の話を真面目に聞いてくれたあとで、彼からの質問にいくつか答えた。

「フム。お嬢の望みを叶えるのはちょいとばかり難儀だが、やって出来ないことではないと思う」

「ほ、本当ですの? かなり我儘なことを言い出している自覚があるのですが、本当によろしいんですの?」

「やれやれ、自分で言っておれば世話はない。旦那と並び立つために、自信をもてる自分になりたいのだろう? ……それには骸骨のままというワケにいかんちゅうことだな? ワシだけでは不可能だが、学長殿も居るしお嬢の能力もあるし、三人集まれば良い知恵も出ようて。のう? 学長殿よ」

「ああ。クララちゃんが決心したのなら、協力は惜しまない……っていうか仲間に入れてくれないとねるよ、アタシャ。それから、まだラスたちには内緒で事を運びたい。いきなり披露して驚かせてやろうじゃないか」

「先ほどそれを約束させられて罪悪感があったのですが、フェル様がお仲間に加わったら少しだけワクワクして来ましたわ」

「ハハハ。まったく、悪戯好きな淑女レディーたちだわい」




 打ち合わせの最後に、楽しい企みも私の努力次第だとフェル様が仰った。

「お嬢のスキルを使いこなせればというのが、企て実現の条件だな。それにワシの知識と経験を加えて色々とやってみれば何とかなるはずだ。そしてアメリ殿には、魔法魔術大学の設備や影響力で助力を頼みたい」

「もちろんさ。そっち方面は任せてほしい」



 それから二人で声を揃えて私に言った。

「「あとは勉強と実践あるのみだな!!」」

 プレッシャーを感じて、ちょっと仰け反っってしまったのは秘密にしておきたい。

アメリ様たちに心構えがなってないって笑われちゃうもの。

 今すぐには無理だけれど、私はラス様たちを驚かせたいと心に決めた。

ありのままで旦那さまとともにあるために。



 そんな経緯で、私のひたすら学ぶ日々が本格的に始まったのだった。








・ー・ー・ー・ー・ー・ー・



 気まぐれ三連投にお付き合いくださり、誠にありがとうございます(_ _)☆

ここまででクラウディーラ視点のお話が一区切りとなりました。

 次章のお話はグラース視点での予定で、クマ作者がノロノロながらも執筆生産に勤しんでおります。

仕上がり次第になりますが、またこちらで皆さまとお目にかかれたら嬉しいです。


 本日投稿の近況ノートにて、いただいた第一主人公クララさんの素敵なイラストを載せておりますので良かったらぜひ覗いてみてください(〃∇〃)♪


 いつも読みに来てくださり、ホントに感謝です。

皆さま楽しい創作&読書活動を🍀✨













 

 






 

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