第63話 ありたい姿とありのままの姿と
自分の気持ちを自覚するとともに、思いきり告白してしまった。
淑女ならば殿方からのアプローチを待つべきだとか、女子の方から思いを告げるなど破廉恥なとか、はしたないなどどいう考えが先行してしまう。
少し前までの私だったならばあり得なかったことだろう。
でも、今の私はこれで良い。
後悔なんてこれっぽっちもないし、むしろ大満足だし。
だって、彼と思いを繋げることが出来たのだもの。
取り繕って上辺だけだった以前よりも、ずっと良い。
お茶会から自室に戻って、あの後で彼に言われたことを考える。
王弟でありながら最低限の社交の場にしか参加していなかったというラス様と、社交界の
だから、私の以前の姿をラス様は知らないと仰っていたのだ。
ーーーー「本来の、君の姿を見てみたいなぁ」
ポツリと呟いた彼の言葉を思い出しては、それってここに来る以前の姿っていうことよねと思い返す。
ほんとうに骨じゃなくても良いのよね。
はっきりと、私にそう仰ってくださったもの。
そっか。……そうよ、ね。
彼を信じるべき、なのだ。
胸の辺りが、ほわほわしている。
えぇと、嬉しいのかしら。
これって、きっと嬉しいのよね。
私、とっても嬉しい言葉を貰ったの。
さらに思い返せば、現状に甘えていた自覚がある。
背伸びをして張り詰めて、やっとの思いで維持し続けていた過去を取り上げられたら、……骨っぽい身体以外、何も残らなかった。
その唯一と向き合ってくれたのがラス様で。
ちょっと冷静になって振り返れば、狡賢くも私はラス様の骨好きにつけ込んでいたのだと思う。
ラス様が一緒にいてくださるのなら骨のままでも良いじゃないって、本気で思っていた。
私は本当に
このままでは
私はラス様の真っ当なパートナーでありたい。
そのためにどうするべきかなんて、明らかなのだ。
私は、私のままで。
正々堂々と彼と向き合うべきなのだろう。
テーブルの上では、ベリーがふるふると身体を揺らして寛いでいる。
いつの間にか食事を済ませたらしく、体内で闇苺も揺れている。
何をするわけでもなくぼんやり彼女を眺めるのも癒やしのひととき。
こういうときのこの子ったら、パッと見は苺が封じ込められたデザートゼリーみたいなのだもの。
「ねぇベリー、私に勇気をわけてくれる?」
「……?」
どうしたの? とでもいうように、クイッと半透明なドーム型ボディの上半分を傾けるベリー。
「骨じゃない私にラス様がどんな反応をするのか怖いのよ」
自己主張するみたいにフニフニと私の手の平によじ登ってプルプルと揺れるベリーは、まるで私を励ましてくれているようで。
「それに……私ね、今まで心からのお友だちが居なかったの。いつも大勢の人たちに囲まれてはいたけれど、あの方たちはただの取り巻きだったもの。おそらく今回のことで皆が離れていったはずよ」
「……」
無言だけれど、ご機嫌そうに揺れる紅いゼリーっぽい子をツンツンつついてみる。
「表面上では社交辞令で皆が私を褒めそやしてくれたわ。いちおうは王族の婚約者だったから。でもね、陰では散々だったのよ。御高くとまってるとか冷淡だとか見た目だけだとか、おそらく誰も彼も……本音はそっち。
王族の婚約者として恥ずかしくないようにと、徹底的にしごかれた辛い日々。
それが済んだら、未成年にも関わらず公務の見習いだと言われて
無表情だったのは、淑女として常に微笑をたたえているように教育されていたから。
歯を見せるほど大口を開けちゃ駄目だとか、感情を悟られるなんて迂闊者だとか叱られて過ごしていたら、どんな表情をすれば良いのかわからなくなっていた。
何を考えているのだかわからないって言われても、貴族が本音をさらけ出すのははしたない真似だと思っていたし。
それに、無口だったのにもワケがある。
だって、立場的にも余計な内部機密を漏らすわけにはいかないじゃない。
何か言えば、言い訳するなとか生意気だとやり込められたので諦めの境地だったのだ。
第一王子殿下と私の政略結婚は王家からの打診によって取り決められたものだった。
フィランツ殿下の後ろ盾として、羽振りの良かった私の家が必要だっただけ。
それは王妃様の当初の判断によるものだったと聞いている。
それでも殿下と国に尽くそうと、私なりには頑張っていたつもりだったのに。
私は良き伴侶として国の働き手としてありたいと思っていた。
もう終わったことだけど。
ありたい姿は跡形もなく消え去って、残されたのは狡賢い骸骨令嬢。
だがしかし、それも魔法の装身具に頼った仮初の姿だったのだ。
ラス様が告げてくれた言葉を思い出す。
ーーーー「………………どんな君だって良いんだよ、骸骨だってふくよかだって何だって。でもね、元気で満ち足りていて欲しいんだ。もっと言えば、無理のない自然な君のままで幸せでいて欲しい」
そうすると、不思議と安心できることに気がついた。
彼の思いがどこまでも優しく私の心を包みこんでくれるのを感じるのだ。
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