第68話 盛装とは華やかに着飾ること




 アメリ主導で作戦会議とやらが継続された。

「その、超くっだらないパーティーの開催は一月ひとつき後。それまでに王城や貴族連中の動向を今まで以上に詳しく探る必要がある。それと、それまでにこちらの弱みや隙はなるべく解消しておきたいところだねぇ」

腕組みをして、対策するべき案件をあげてゆく。



  魔女の言葉に、クララさんが決意と苦悩を垣間見せる。 

「最大の弱みは私の容姿なのでしょうけれど、今すぐに元の姿に戻るのは無理ですわね。きっと私を大勢の前に晒してさらに貶めるつもりなのでしょう。私は今の姿も気に入っていますから誰に何を言われようと今更ですし、無責任な誹謗中傷に傷ついてやるつもりはございません。けれども……私は、ラス様にも嫌な思いをさせてしまうのが心苦しいのです」

表情はわかりにくいが、眉毛があったならば眉端を下げて困った顔をしているのかも知れないな。

「きっと、骸骨を嫁に押し付けられた気の毒な公爵閣下だと言われてしまいますわ」

心なしか、声音にも覇気がない。




 なるほど、自分の境遇よりも俺の評判を気にしてくれているらしい。

全然問題ないけどな。

「いや、むしろ似合いの夫婦だと言われるさ。俺としては大歓迎だ。大多数の貴族どもは以前から不吉な王弟オレには批判的だったし、面白おかしく噂するためのネタくらいの認識だろうからね」

「ですから、ネタにされるという事態が弱みになってしまうのではないかと……」



 不安そうに言い募るクララさんを手の平で押しとどめ、そんなことはないと答える。

「今までは場の空気を悪くしないようにと、どこか遠慮していたんだ。たとえ誤解でも、疫病の原因だとか闇魔法は災いをもたらすとか……そんな奴と交流したい奇特な者は居ないだろうし。でも今回は向こうから参加しろと喧嘩をふっかけてきたようなものだからね。気をつかったり遠慮する必要はないのだから、どうせならば思いきり目立ってやろうじゃないか。恐怖の暗闇公爵には、君みたいに一度会ったら絶対に忘れられなくなるくらいの衝撃的な淑女レディーが似合っていると思わないかい?」

それを聞いた彼女は、眼窩を大きく見開いた。

たぶんだが、多少は彼女の心に響いたらしい。



 ついでに魔女アメリにもウケたようで、彼女はニタリと含みのある笑顔を浮かべた。

「よく言った。アタシも美男美女のカップルなんて見飽きてるからね。良いじゃないか、骸骨令嬢……いや、骸骨貴婦人かな。ラス坊も、たまには言うようになったねぇ〜」

それから、ただの骸骨じゃ芸が無いねぇと腕組みをして考え事をし始めた。

いやいや、いったいどんな骸骨をお望みなのか。



 俺とクララさんは互いに顔を見合わせて、互いに不安になっていることを確認してしまった。

ほんの一瞬だけど、何となく彼女と気持ちが通じたような、そんな気がした。



 ふん。何が婚約発表パーティーだ。

俺とクララさんを貶めて華やかに社交界を牛耳るつもりだろうが、そうはさせん。

売られた喧嘩は買い占めてやろうじゃないか。

ぶっ潰してやる。







 エドが思い出したように、衣装はどうするかと聞いてきた。

「え。今から大至急であつらえるつもりだけど?」

紳士服を依頼したりで懇意にしている店があるし、そこならば婦人服も扱っていた。

依頼すれば何とか一月後には間に合わせてくれるはず。



 答えれば、いえいえと執事が首を左右に振る。

「既製服ならば適当なものを入手して、多少は私がお直しできるのですが、……盛装用のものはさすがに手に負えません。ですから、専門家に採寸からデザインや仕上げまでの全工程をお願いすることになります」

 そりゃそうだ。エドが器用で塔内の雑務まで何でもこなしてくれているのは理解しているつもりだが、パーティー用の高級ドレスは無理だろうさ。

コクリとひとつ頷くと、執事はため息交じりに俺を見た。

「非常に申し上げにくいことですが……私が思うに、おそらくは何処の仕立て屋も、どんなに気丈なお針子も、初見でクララお嬢様のお姿を見て平常心でドレスを縫ってくれるとは思えないのですよ」

困った顔でクララさんの方にも視線をやってから、申し訳無さそうに言ったのだった。



 それを聞いたクララさんも、やはり申し訳無さそうな困惑気味なような素振りになる。

「そうですわね、どう頑張ってもパーティーには向かない格好ですよね。こちらの皆さんが何でもないように普通に接してくださるので忘れていましたが、一般的には骸骨って不気味でしかないのですわ」

言い難いことを言わせちゃってごめんなさいねと、彼女が言った。



 そうだった。

スケルトンたちで見慣れているものだから、うっかり失念していたよ。

困っていると、シルバの奴がゥオッホンと芝居がかった咳払い。

 いきなり何だよと奴の方を見れば、ここぞとばかりに良い笑顔。

「お嬢には一張羅の晴れ着があるじゃねぇか」

そう言いながら、クララさんの指を指し示した。



 

 ふと見れば、彼女の指には金剛石の指輪が輝いている。

そうだった、コレがあったか。

「そうか。でかした、シルバ。盛装だもの、華やかに着飾れば文句はないだろうよ。 俺の手持ちで良さそうなマントなんかもあった気がするし、上手く合わせれば上品な甲冑貴婦人の出来上がりだ」






 あの甲冑ならば、誰よりも綺羅びやかで注目されること請け合いだ。

どんな素晴らしいドレスにだって引けを取らないはず。


 宝飾品はアメリとエドが選んでくれるらしい。

フェル殿は、それらにちょっとした術式を付与してくれると請け負ってくれたのだった。











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