第67話 作戦会議は魔女に掌握されました



 


 その日の夕食どき、滞在者全員が食堂に集まったところで第一王子の婚約披露パーティーについての話し合いがもたれた。



 婚約披露パーティーの招待状が届いた件と諸事情を、クララさんには説明しなければならなかったので。

あと、ついでに良い知恵がないかと皆にも相談することに。

「……というわけで、欠席不可な招待状をどうしたものかと悩んでいるところなんだよ。貴族としては王家に忠誠を示さなければならないから気軽に不参加とはいかないから、いっそのことクララさんに仮病という病名の重病人になってもらおうかとも考えたのだけれど……先ずは招待された本人の意見を聞かなくてはと思ってね」



 俺の説明に、各人それぞれの意見が出される。

「けっ。それって、明らかにうちのお嬢への嫌がらせじゃねぇか!」

シルバは、憤懣やるかたないとばかりに語気を強めた。

「むむぅ。ワシら平民と違って、貴族の付き合いっちゅうものは難儀なものだなぁ」

「まあ、……商人や農民だって断りづらい案件とかはありますけれども。どちらにしても国の頂点に君臨するお方に逆らうわけにはいきませんからねぇ」

フェル殿は貴族は大変だなといった具合で、おおかたエドもそれに同意といったところのようだ。

「参加には断固反対!! クララちゃんに元婚約者たちの幸せな姿を見せつけたうえに、骸骨になった彼女を晒し者にするイヤラシイ魂胆が見え見えじゃないか。アタシは参加するべきじゃないと思うね」

アメリは利き手を握りしめて参加反対を表明していた。




 俺としてはできれば参加の方針で、なるべく彼女に負担がかからない方法を皆で考えようと思っていた。

 しかし、アメリからは案の定な反対意見。

「クララちゃんが欠席したいのならば、首に着いている魔道具のせいにすれば良いんじゃないのかい? 今のところ魔道具の性能が改変されていることは他の連中に知られていないのだから、魔力を吸収されすぎて末期症状で苦しんでいるとか何とか誤魔化せるはず。かなり説得力があると思うよ」

ご丁寧に欠席の言い訳まで述べてくる。

 たしかに悪くない意見だが、クララさんの気持ちはどうなのだろう。

皆が同じように考えたようで、自然と彼女に視線が集まったのだった。





 皆に注目されて戸惑うクララさん。

「あの、……私、フィランツ殿下とはもう、えぇと……何とも思っておりませんから。ですので、ラス様がお嫌でなければ参加するのも吝かではありませんよ」

言葉を濁しつつ、少々遠慮がちに意見を言った。

「いやいや、クララちゃんは自分を犠牲にしすぎるんだよ。こんなの突っぱねてやれば良いのさっ」

 断固反対勢のアメリが吠える。

シルバも無言でウンウンと頷いているから、彼もアメリと同じような気持ちでいるらしい。



 困ったような表情でクララさんが俺を見る。

「ええと、ラス様のお立場的にもそういうわけには……いかない、のですよね?」


 それを言われると俺も困るんだよな。

「俺の立場だけを考えるなら、そうかも。でも、君を苦しめるのは本意じゃない。正直に言ってしまうと、アメリの言うように具合が悪いことにしてしまうのが無難な気がするよ」

ウンウンと、しきりに魔女とゴリラシルバが頷いている。



 それなのに、クララさんは少しだけ考える素振りをしてから参加すると言い切った。

「どうして?」

思わず尋ねた。

「この際ですから、あの方たちが私を侮辱したいのならばさせてやろうかと。それに、きっと出席しても欠席しても侮られるのは決定事項だと思うのです」

「そうかな?」

「ええ。フィランツ殿下はともかく彼の婚約者となった方は、以前から私を目の敵になさっていましたから」



 詳しく聞けば、学生時代から因縁浅からぬ仲らしい。

王族の婚約者におさまっていたクララさんに勝手に嫉妬して言いがかりをつけてくるような、くだんの人物はそんな令嬢らしい。

 質の悪いことに、他の令嬢を先導して集団で仕掛けてくるのだとか。

何かと嫌がらせをされたり、悪口を言いふらされたりしていたそうだ。



 今回だってその延長戦みたいなものだろうとクララさんが言う。

「でもさ、何もそれを正面から受け止める必要はないんじゃないかい?」

「そうかも知れませんが、私は逃げたくありません。それに、自分のことならば何を言われてもさほど気にしませんが、ラス様ひとりを晒し者になどさせられません」

俺と二人で立ち向かいたいと、彼女は言った。




 クララさんの意見に、シルバが素早い反応を返す。

「お嬢、うちの閣下は王城の魔窟でも図太く立ち回るから心配するだけ損するぜ。オレは無難に欠席したほうが良いと思うがな」

「そうですね、シルバの言う通りかと。閣下なんて一人で放り投げて置いて、お嬢様は塔で心穏やかに過ごされるのがよろしいかと思いますよ」

エドもシルバに続く。



 ちょっと、何気に二人とも俺への態度がひどい気がするんだよ。

まあ、そこまで言われちゃ俺だって引くに引けないのだけれども。

「うん。わざわざ君が傷つきに参加することもないだろう。クララさん、俺は一人で大丈夫だよ」

って、言ってみたら……バシンっとテーブルを叩く音。

全員が音の原因に注目したのは言うまでもない。 



 両手をテーブルについたままアメリの奴がズイっと椅子から立ち上がり、睨めつけるように俺たちを見回した。

 ちょい、師匠?

どうしちゃったのさ。



 仁王立ちで怒れる姿は悪の独裁権力者のようだ。

米神に青筋が浮き出していて、ちょっと怖いんだよ。

「乙女心を理解できないムッサい野郎どもは お だ ま り!! 誰もクララちゃんの気持ちをわかっちゃいない。このは戦うと決めているのに、どうして一緒に並び立ってやらないんだいっ!!」

 呆気にとられて誰もが黙り込んだ無音の室内で、再び魔女が吠える。

「よくぞ言った、クララちゃん!! 参加するなら、徹底抗戦だよっ。これより此の場は作戦会議に移行する。皆のものっ、心して良案を提供せよ」



 え!?

ちょっと、何を怒ってんのさ。

あんたついさっきまで、参加反対筆頭だったんじゃないのかよ!?



 おいおいおいっ、何かいきなり暴走し始めた。

「落ち着けよ、アメリ。感情的になると道を誤る確率があがるって、あんたがよく言っているじゃんか。クララさんの気持ちはありがたいけれど、だからってクララさんが苦痛な場所に行ってやる義理はないさ」

うっかり宥めようとした俺だが、かえって火に油を注ぐことに。

何ていうか、魔女の瞳が燃えたぎっているんだよ。



 んで、鼻息一つでバシッと却下。

「フンっ。アンタのソレは、まったくもって余計なお世話だねっ!! 鼻垂れ小僧にはわからないだろうが、オンナにはね、己の矜持のために戦うべきときってもんがあるんだよっ!!!」

いやいや、それって男女関係なくね??




 とにもかくにも、魔女さまは完全に戦闘モードなのだった。

「ラスっ! アンタはアタシの言う通りにしな。もうもうっ、見ちゃいられない、今回の件は全部アタシに任せなさーーいっ!!」

塔内に魔女の大声が響き渡った。

















 



 

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