第60話 即席ですが、在宅研究助手ですって☆
食後の騒動から、ホッと一息。
なぜか自室の隣にもう一部屋いただくことになり焦っていると、部屋は有り余っているから遠慮は無用だとラス様が仰った。
いつの間にか机や書棚などが運び入れられ私の専用研究室が設置される運びになっていて、アメリ様からは研究員用の身分証明書を手渡され目を白黒させた。
「えっ。……魔法魔術大学校、魔力回路・魔道具研究室研究助手って……しっかりと私の名前まで記されちゃってますわね。これって、私が研究室の助手ということですの?」
銀色の縁取りが施された透明なカード。
そこに学校の紋章と私の肩書きが記されている。
銀の鎖で首からぶら下げられるようになっていて、名札兼身分証明証という仕様らしい。
これでは学長の職権乱用じゃないかしらと心配になりアメリ様を見れば、彼女は不敵な笑顔をこちらに向けた。
「クララちゃんが寝込んでいる間に手続きは済んでいるから、安心して魔法魔術大学校の一員として研究に励んでほしい。裕福な貴族や魔法に秀でている者にしか学校に縁がなかったせいなのか、スキルという特殊技術については未だに庶民間での伝承でしか知識や経験が伝わっていない。これからは魔法魔術と並行して研究していこうという方針になったんだよ」
すでに大学の上層部にも通達済みで、魔法魔術とちがって今まで顧みられなかったスキルという未知の分野を紐解くことは学校側としても大きなメリットがあるという。
「えっ、ホントに!? 私が、ですの? アメリ様もご存知でしょうけれど……私、何の知識も技術もありませんわよ!?」
「うん、知ってる。その辺りは、これから追々で大丈夫だからね。貴族でスキル持ち、しかも七つも身に着けている人材なんてクララちゃんしか居ない。だから焦らずに勉強してもらいたいとは思っているんだけど……取り急ぎ、クララちゃんのスキルが問題なんだよねぇ……」
「えぇと。私は研究員というより、どちらかといえば研究対象なのではないかしら? これから私のスキルについて調べなくてはならないということですのよね?」
「うん。現状はまぁ、そんなところだねぇ。色々と落ち着いたらラス坊と一緒に大学にも顔を出してくれると嬉しいけれど、とうぶんは在宅で研究するかたちだね」
「ええ、そういうことならば。承知いたしましたわ」
「お察しの通り、自分を対象にして研究を進めてほしいんだよ。アタシもラスもフェル殿も協力は惜しまないから、支援体制は安心してもらって大丈夫。だからクララちゃんも立派な研究員を目指してね」
「なるほど、自分のスキルを検証するというワケですわね。その前に、調べたり覚えることが沢山ありそう……」
「まぁ、そういうこと。先ずは基礎を習得して、研究コースの知識も詰め込まなくちゃねぇ……」
アメリ様はそっと励ますように私の背中を撫ででから、追加の教本と専門書を取りに学校に顔を出してくると仰って出かけていったのだった。
私は目の前にドンッと積み上げられている書籍を見た。
コレを全部読み込んで知識にできるだろうかと不安になり、それでもまだ足りないのかと頬を引きつらせながら彼女の背中を見送った。
ううーん。読み書きや調べ物は嫌いじゃないけれど、自分の人生が思いがけない方向に急旋回をはじめていることにちょっと恐くなってきた。
婚約破棄と断罪で人が生終わったはずだったのに、じつに驚きの展開だ。
私の手元には先ほどの書類たちが残された。
それから、ラス様から贈られた数十冊もの専門書の山。
まずはこれらをもとに自分の持っているスキルについて、調べたり実験をしてゆくという方針みたい。
身の回りにはアメリ様から贈られた使いやすさ抜群の家具たちが鎮座して、フェル様からいただいた照明魔道具が室内を明るく照らす。
シルバさんからは状態保存魔法を付与された大きな箱にギッシリ詰め込まれた大量の焼菓子各種が届き、エドさんが小物や雑貨や文具を揃えて配置までしてくれている。
至れり尽くせりなうえに、てんやわんやで新しく整えられた自分専用の研究室。
今までも快適な塔の生活だったけれど、更にグレードが爆上がりである。
恵まれすぎた学習環境で、私は午後の勉強時間を過ごすことになったのだった。
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