第54話 可及的速やかな帰宅




 招集された兄弟たちは、陛下の閉会宣言と宰相殿の近日中に仕切り直しましょうという宣言でグダグダの親族会議から開放された。

クソ兄貴はまだまだ喚き足りない様子だったが、誰もが知らんふりで貴賓室をあとにした。

もちろん先頭を切って退出したのは俺である。

アレに時間を費やすのはもったいないからね。

逃げるが勝ちだ。



 侍従や護衛役の待合室までやって来たところで、シルバが慌てた様子で駆け寄った。

「エドから通信で連絡が……ついさっき、お嬢が倒れたって……」

やっと聞き取れる声量で、誰にも聞かれないように耳打ちされる。

「!!……、すぐに帰ろう」

「……ああ」



 色々と聞きたいが、悠長に話しながら歩いている場合じゃない。

それに、何処で誰が聞き耳を立てているかもわからない。

無言で、できる限り素早く移動する。

転移魔法が使えれば一瞬で移動することも可能だが、あいにく王城敷地内での魔法魔術の使用は緊急時以外禁止とされている。

それもあって必要以上に魔道具類が多用されているわけなのだが、魔術塔謹製のヤバい品ばかり配備されているために使い勝手は微妙なのだ。

転移の魔道具もあるにはあるが、よく誤作動を起こしていて行きたい場所にたどり着かないような不良品である。

要するに、歩いて移動する方が無難なのだった。

もちろん誰も居ない通路は駆け抜ける。

城から出たら全力疾走だ。











・◇・◆・◇・  ・◇・◆・◇・




 寝台に寝かされている彼女には、涙目のアメリが張りついていた。

クララさんの意識は未だに回復していないようで、俺やアメリが近くに居ても目を覚ます様子はない。

「おっそーい。ノロマどもめっ……クララちゃんの一大事だっていうのに、何をやっていたのかね」

グチグチと文句を言いつつも、アメリが甲斐甲斐しくクララさんの看病をしている。

額の汗を拭いたり脈を確認したり、体温を測ってみたりと手際も良い。

「アメリ、クララさんに何があったんだい?」

いきなり倒れたことしか聞かされていなかったので、先ず状況を教えてもらわねば。

シルバはしかめっ面で部屋の入口付近で待機しているし、フェル殿やエドも心配そうにこちらを覗き込んでいる。

病人の枕元で騒ぐのはまずいので、場所を応接室へと移してから話を聞くことにした。



 全員が椅子やソファーに座ったところで、アメリが彼女と闇苺を採りに行っていた話をくわしく聞いた。

「ベリーを連れて、クララちゃんと話をしながら闇苺を摘んでいたんだが……急に彼女の様子がおかしくなって、喋り方がたどたどしいから驚いてさ。よく見れは顔色が真っ青になっていて苦しみだして……駆け寄ったところで意識を失ったんだよ」

場所は、この塔の地上階でいう中腹辺り。

そこで二人と一匹で闇苺狩りをしていたら、クララさんの容態が急変したという。

「あの、ええとな、こんな時に妙な質問かもしれないが……ちょいと良いだろうか?」

フェル殿が、ちょっと気まずそうにアメリに問うた。

「えぇと、何でしょう?」

「アメリ殿は嬢ちゃんの顔色が真っ青になったと言っておったが、何故に判断できたんだ? とてもじゃないが……ワシには頭蓋の顔色が良いかどうかはわからんぞ。骨に血色も何もあったもんじゃなかろうに??」

問われたアメリは首を傾げる。

「んん? ……たしかに彼女の見た目は骨だが、関係ないだろ。アタシにはクララちゃんの可愛い素顔から一瞬にして血の気が引いたのがわかったんだ」

「「「「「えええっ!?」」」」」

「んんん??」

アメリ以外が驚く声。

対する彼女の戸惑いの声。



 整えられた指先を軽くあごもとにあてて、しばし考えるアメリ。

そしておもむろに、自分が視えている現状を皆に確認するかのように語る。

「アタシにも彼女は骸骨の姿で見えてはいるんだがね。こう、何ていうか、ジィーっと集中すると本質というか素顔も視える…………若く麗しい乙女の姿がね」

だから表情だって顔色だってわからないはずがないと、彼女は言った。



 そうだった……、すっかり忘れていたんだよ。

「あぁっと、そうだった。師匠には俺たちが見えないものが視えていたんだね……」

極炎の魔女ポゥラフレムは魔眼持ちだ。

だから、俺が魔具で見た目を変えても彼女にはお見通しだったりする。

長い付き合いなせいか、今更になって髪の色や瞳の色について話題にすることもないし、彼女の前ではどんな姿であっても俺なのである。

魔眼で他に何が出来るのか知らないが、アメリに偽装魔法は通用しない。

要するに、クララさんの本来の顔色だってお見通しなのだった。



 知れば納得の魔眼持ち。

ホントにうっかりしていたよ。


 





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