第52話 兄弟




 兄陛下の宣言で、中間裁定会議がはじまった。

円卓の上座に長男の陛下が、あとの兄弟には左右に振り分けるように年齢順で座席が割り当てられている。

そんなわけで俺は入口付近に座っているが、気楽なこの場所にはおおむね満足である。

年の近いクソ兄貴が隣りにいるのだけは不服だが。

できれば向かい側の一番遠い席だったら良かったのにと思っている。

いや、正面からギロギロにらまれ続けるのも嫌だよな。

いっそのこと自主的に腹でも下して欠席しておけば良かったかと、ノコノコと素直にここまできたことを後悔していたりする。

正直言ってフィランツがどうなろうとも、さして興味はない。

うちのクララさんを大事にできなかった時点で、彼奴あいつの将来に夢や希望があるとは思わないしヤツのことを考えるのも面倒だ。

ヤツがやらかしてくれたからクララさんと出会えたわけなのだが、それはそれ。

兄上が機転を利かせてうちに寄越してくれてなかったら、彼女はどうなっていたのかなど考えたくもない。

隣のクソ兄貴に手籠めにされたり、どこかで儚くなっていたかも知れないなどど思うだけで、肝が冷えるし腹が立つ。

とにかく、誰がなんと言おうと俺と彼女を引き合わせてくれたのは兄上であって、フィランツの功績ではない。ないったら、ない。




 隣のクソ兄貴以外にも、俺に嫌な視線を向けてくる奴らが三人ほど。

第三妃の息子たちで、年の順からオッズモール公爵、ヴァロッソ侯爵、ハムネー侯爵。

オッズモール公爵は狡猾な第三妃が前王に取り入って叙爵にこぎ着けた。

ヴァロッソ侯爵とハムネー侯爵は、配下の家に婿入りして今の地位を得ている。

兄弟揃って子ども時代の俺をネチネチ甚振いたぶって楽しんでいた、じつに根性曲がりな野郎どもだ。

昔はやられっぱなしで悔しい思いをしたが、今は三倍以上に利子を付けて借りを返す方針なので、すでに積年の鬱憤うっぷんは晴らしたとは思う。

前王に寵愛され権勢を振るっていたとう第三妃も、王権の移り変わりにより今ではすっかり権力を衰退させている。

彼女と俺の母親との間には確執やら嫉妬やら陰謀が絶えなかったが、全て向こうからの一方通行だった。

傍目はためには女同士の熾烈しれつな争い。

よくある寵愛を奪ったの何のといった言いがかりである。

望まぬ寵愛の末に俺が生まれたわけなのだが、俺まで一緒に恨まれていたから尚のこと厄介やっかいだった。

色々あって、挙句の果てに母は毒に倒れ体を壊し……徐々に衰弱して帰らぬ人となったのだ。

当時の俺は無力な子どもだったし、今となっては証拠がないから執拗に追求しようとは思わない。

けれど、俺と奴らとは、そういう間柄なのである。

それはこの先も変わらない。

まぁ、睨んではくるがもはや相手をする価値もない。



 ちなみに、第三妃による毒牙の犠牲者は俺の母だけではないらしい。

母の前にも第四妃が若くして亡くなっている。

食事の後に倒れてそのまま儚くなったとか。

こちらも証拠不十分で、病死とされている。

たしか心の臓に不具合があったとかなっていたが、誰も信じちゃいないだろう。

そして彼女の三番目の息子も病死、四番目の息子は消息不明となっている。

末の子どもである王女は隣国の公爵家へと嫁いでいるが、一番目と二番目の息子たちは揃って国外に移住していて連絡の取りようもないらしい。

当時の王城の危機管理体制は、いったいどうなっていたのだか。



 まぁ……色々あって、王侯貴族の奴らに対しての俺は、今でも兄陛下以外は信用ならない奴らだと思っている。

うーむ、やはり下剤を飲んで欠席の理由をでっち上げておけば良かったな。

まぁ来てしまったものは仕方がないから、大人しく座ってことの成り行きを見ておくことにするか。

おそらく碌な話ではなさそうだけど。






 記録者であり議事録担当のオーダストッツ辺境伯は羽ペンを手に持ちスタンバイ。

彼は王家の三男で、前辺境伯爵のご令嬢と大恋愛の末に結婚したロマンチストで有名だ。

現在は入婿いりむことして辺境伯爵を継いでいる。

無口な実力派で、文武両道タイプ。

北方辺境の護りは彼の両肩にかかっているらしい。

俺と彼とは親しく付き合ったことがないので、これは社交界での噂なのだけどね。

俺が生まれる前には王位継承権放棄を宣言し独立して王城から出ていたので、直接の接点はなかったのだ。

こうして社交界や王城で顔を合わせることはあっても、今までほとんど交流を持ったことがなかったな。



 陛下から進行役を仰せつかったのは、次男のツゥオーク公爵。

宰相として兄上の補佐を務める頭脳派だ。

本人の申告によれば勉強や書類仕事や交渉事は得意だが、剣術や馬術などの体力系はからっきしらしい。

立場上、俺にも色々と小言や苦言をビシビシ言ってくるような口うるさい人物である。

案外世話好きで、事務官たちからは実家のお母ちゃんみたいだと例えられる。

俺はキャンキャン吠える小さい愛玩動物そっくりだと思っているけどな。



 進行役の宰相殿が、先ずは設題者の現状報告をと促した。

そのためか隣の視線が俺かられる。

やれやれ、やっと気楽な体勢になれるというものだ。

体の前で腕を組み、俯いてかるく両目を閉じた。

もちろん、ちゃんと話は聞いている。

聞きたくなくても隣のクソ兄貴の甲高い声が耳に直撃してくるからね。

宰相殿といい、クソ兄貴といい、気が立っているとどちらもかんさわるうるさい話し方になるんだよなぁ。










▷・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・◁


いつも作品を読んでくださりありがとうございます。

またしても補足というか作者の呟きをボソボソとダダ漏れさせちゃったのを、良かったら見てやってくださいませ(^^ゞ

ラス君の回想だけだと心許ないので、彼の兄弟姉妹をこちらにコッソリ掲載しておきますね。


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  【当代国王と王弟王妹一覧】

  (前国王の子どもたち)


[長男] 当代国王

 正妃の息子でフィランツ王子の父親


・第二妃の子どもたち

[長女] 隣国の王家に嫁いでいる  

[次男] ツゥオーク公爵(宰相)     

[次女] 国内の公爵家に嫁いでいる  

[三男] オーダストッツ辺境伯 


・第三妃の子どもたち

[四男] オッズモール公爵

[五男] ヴァロッソ侯爵

[六男] ハムネー侯爵

[三女] 国内貴族に嫁いでいる

[四女] 国内貴族に嫁いでいる


・第四妃の子どもたち

[七男] 国外に移住

[八男] 国外に移住

[九男] 病死

[十男] 行方不明

[五女] 隣国の公爵家に嫁いでいる


・第五妃の息子

[十一男] グリアド公爵 ←魔法公爵


・第六妃の息子

[十二男] エンダー公爵 ←ラス君


─────────────────────────────


こうして一覧にしてみるまでもなく第四妃たちの災難がヤバいですね。

作者のクマ的には嫉妬深い第三妃が格下の側室にやらかしている設定なのですが……この辺りをクローズアップすると、もう一つくらい別の話ができそうですねぇ。

なんちゅうか、ドロドロしいやつとか。

……いや無理だ、オイラにゃ書けなさそうww

女の嫉妬、怖いわぁ……((゜∀゜;)))ブルブル ←オイ 自分で考えた設定やろw



  

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