第37話 なっ……クララちゃん、、、だとぅ!?

 検査結果をかんがみるに……と、師匠が言った。

「クラウディーラちゃんがありえない方法で魔導具を直すのも、魔導式自動人形たちと交流できるのも……おそらく、この特殊技能たちの効果が思いっきり良い方向に発揮された結果なのだろうね」

どさくさ紛れに、うちの奥さんがちゃん・・・付けで呼ばれていることには全員が知らんふり。

気に入った学生をそんな風に呼ぶのが師匠の流儀らしいのは常々承知しているからね。

わざわざ確認するまでもなく、きっと彼女も師匠に気に入ってもらえたのだろう。



 話題の本人はといえば、師匠の言葉の意味を理解できずに首を傾げている。

しかし、なるほど……彼女は類稀たぐいまれな才能を持っていたわけなのか。

……いや、ちがうな。

職人の中で巨匠きょしょうなんて呼ばれるような偉人でも、その分野における一つくらいしか持たないという特殊技能を……なぜか彼女は七つも所持しているのだ。

技能っていうのは、才能の上に積み重ねた何かしらがなければ得られない。

今までの彼女に何があったのかは知らないが、相当の努力の賜物だと言えるだろう。

そして今では、魔法や魔導具に並々ならぬ興味と関心を抱いている。

ならば更に彼女の才能を伸ばしてやりたいものだと、俺はこっそり拳を握る。

とにかく、先ずは師匠の見解を聞くのが大事なのだけど。



 再び甲冑姿になった彼女がたずねる。

「それは、どういう仕組で発揮されているのでしょう? 私はとくに何をどうしようと考えがあって魔導具を直したりはしていなかったのです。だた、ポンって軽く叩いたりしていただけで……それで直っていたのです。分解したり壊れたものは、何をやっても直せませんでした。……あれっ。そういえば……それとこれとは、どう違うのかしら……」 

尋ねるというより、最後の方はひとり言のようにつぶやいていた。

どうやら彼女は、物理的に壊れた物の修復は不可能なのかも知れないな。

推測するに内部の仕組みや設定されている条件などに関してのみ有効な特殊技能なのだろうか。



 彼女の問いかけに対する師匠の答えは、おおよそ俺と同じようなものだった。

「うむ。アタシが考えるに、貴女は物理的な修理をすることは出来ないはずだ。現に分解した物を直せないのだからね。でも、魔導具に付与された仕組みや設定に干渉することができるのは確かだね……専門の知識がなくても、自身の思い通りに作動させる事が出できていた。とんでもない離れ技なのだろうが……おそらくは貴女もご家族も、その現象をもって修理していたととらえていたのではないのだろうか」

「……仕組み、……設定、……どちらについても私にはわからないのですわ。魔導具の本体そのものの存在には干渉できないけれど、中身の働きについては変更することができる……そんな感じでしょうか。えっと、……ベルが鳴る魔導具をブザーの音にするとか、そんな風かしら……」

「今の段階では何とも言えないが……色々と検証を行えば自ずとわかって来るだろう。貴女は、じつに面白い観察対象になりそうだ」

「私が!? ええぇ。……そうなんですの?」

益々ますます興味津々といった態度の師匠に対して、戸惑いを隠せないクラウディーラ嬢は困った様子で固まっていた。



 そういえば……と、思い出したように俺に向かって声がかかる。

「ラスの召使いスケルトンたちの設定には、“相互補助”とか“連帯意識”やら“連携”なんかのチームワーク関連のものが組み込まれていたと思うのだが間違いないだろうか」

「ええ。そんな感じの魔法術式を幾つか組み込んであったはず……んと、それが何か?」

「クラウディーラちゃんの特殊技能に、術式強化っていうのがあっただろう? 今の彼女は自身がスケルトンたちの仲間みたいな認識なのだろうから……おそらくだが、その辺りの術式を強化しているんじゃないかと推測されるんだよ。推測の域ではあるのだが、そう間違った見解ではないと、アタシは思う」

ああ、……そういえば、大勢の仲間同士で仲良く仕事をするようにと、そんな術式を付与したっけなぁ。

まさかソコにつけ込まれて干渉されるなんて、思いもよらなかったさ。

魔導式自動人形スケルトンたちに自分を仲間だと認識させるなんて、それほどまでに心底から己をスケルトンだと思いこんでいるのだろうか。

こんな規格外で骸骨な令嬢がやって来るとは想定外にもほどがあるんだよ。

少しばかり謎が解けてスッキリしたような、こんなの絶対おかしいよって信じられないような……ありえない検査結果に、頭を抱えたくなったのだった。



 そんな俺とは対象的に、早くも師匠は驚きから立ち直っていた。

「フッフッフ。……ちょっと便利だとは思わないか? これって、彼女は出来上がった魔導具に内蔵された術式を、後からいくらでも改変できるということだろう。術式を変更するために一々その都度で分解していたのが、コンコンって叩くだけで……もしかしたら思い通りに書き換えられるのかも知れないのだ。もし、そうならば……ぁぁあっ、アタシもそんな特殊技能が欲しかったよぅ」

いや、立ち直るどころか取り乱しているようだ。

美熟女魔女にすがり付かれた甲冑姿の彼女がオロオロと扱いに困っていて、エドもシルバもそれを苦笑いで見守っていた。



 ようやく落ち着きを取り戻した師匠が言った。

「ヨシ。アタシは、もうひとり弟子を取ることに決めたっ。クラウディーラちゃん……いや、まどろっこしいからクララちゃんで良いよねっ。クララちゃんも、たった今からアタシの可愛い弟子だから、そこんとこヨロシク」

……ちがった。

ちっとも落ち着いちゃいなかった。

何てことだ。この熟女ってば、うちの奥さんを取り込む気満々だ。

俺だって、未だに愛称で呼んだことないのにっ。

何だよいきなり、クララちゃんってさ。

おのれ師匠め、馴れ馴れしいが過ぎるんだよ。

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