互いを知り合うためにできること(暗闇公視点)

第36話 これは……思いがけない結果だったらしい

 彼女は言った。

「魔力灯がどうして光るのか不思議だったのです」

こうも言った。

「時を刻む魔素時計の仕組みが気になって仕方がなかったので」

その結果についても語った。

「子どもの頃の私って、家では悪戯ばかりしておりましたの。幾つもの魔導具を分解したまま組み立てられなかったり、爆発させてしまって壊したりもいたしましたわ」



 俺は思った。

今の彼女は真面目そうで、ちょっと信じられないのだけれど、きっと好奇心旺盛こうきしんおうせいな子だったんだろうねって。

こうも思った。

自分は大人になった今もそんな感じだよなぁって。

そして、彼女に聞いてみた。

「もしかして君は、今も魔導具に興味があるのかい?」




 師匠であり職場の上司でもあるアメーリ・リア……アメリは、興味津々きょうみしんしんで俺たちの会話を聞いている。

俺の問いに対して、彼女の答えは肯定こうていだった。

「はい。昔の悪戯の成果でおおよその基本的な構造などは理解しておりますので……私にとっての魔道具は身近で気になる存在ですわ。実家では魔導具の故障に対応するのは何時いつも私でした。部品が壊れたとかの修理などできませんが、本体に損傷がなく不具合だけの場合ならば、大抵は何とかできましたし……そのうちに、ちょっと触れたりでてみたり、コンコンって軽く叩くだけで思った通りに正常に稼働するようになったので、けっこう重宝されていましたの。だから、可能ならばもっと色々と知りたいですし、やってみたいですわ」

故障の対応が雑すぎて……むしろ、なんでソレで直るのかと内心で頭を抱えた。

アメリはといえば、笑いをこらえるためか口元をおさえている。



 俺は更に、魔導具のどこが魅力なのかと聞いてみる。

「王城でも貴族学園でも深く魔法を学びませんでしたので、私は自分で魔法を使うことは出来ませんの。でも、魔導具は魔法の能力や知識がなくても同じような現象を引き起こすことが可能なことに気がついたのです。そうしたら、気になって仕方がなかった。色々と使ってみて試してみるうちに仕組みも気になり始めて、内部はどうなっているのかとか確かめたくなって……気がついたら、とうとう秘密の趣味になっていましたのよ」

どうかとは思うんだよ、分解したり壊したりするのが趣味ってさ。

いや、個人的な趣味にケチをつける気はないんだけども。





 そんな会話の中、とうとうこらえきれなくなったらしいアメリの笑い声がひびく。

「プッ……フッ、ふはっ。フハハハはははっ。じつに興味深いじゃないかっ」

俺が一言。

「え。……どこが?」

隣に座る彼女は怪訝けげんそう。

「うーん? そうでしょうか……家族には女の子らしい刺繍ししゅうとか観劇かんげきとかの方が楽しいんじゃないかって言われていましたけれど。……私、そんなことを言われたのは初めてですわ」

甲冑ごしでも何となくソワソワしていて、ちょっと嬉しそうにも見えるけど。



 第一に……っと、師匠は言った。

「魔導具の専門家から言わせてもらえば、ハッキリ言ってありえない。ちょっとばかり叩いたり触っただけで不具合が直るのならば我々は苦労しないんだよ。だがしかし、おそらく貴女が言っていることは事実なのだろうね。ソコが興味深いと言っている」

第二にと、話が続く。

「魔導式自動人形たちと交流をもてるのは登録された者だけなはず。そんなの関係なしにアレらに指示を出し実行させることができている。これについて、弟子から聞いたときには驚いたよ。だから何がどうなっているのか、アタシも知りたい。今日は是非とも色々と調べさせてほしいと考えてお呼び立てしたというわけなのさ」

それからね……と、更に続ける。

「話によれば、あのいけ好かない魔法公爵の出来損ないポンコツ魔導具でひどい目にあわされているのに、貴女はちっとも悲観的な考えをもってはいないようだ。その辺りについても、じっくりと語り合いたいと思ったんだよ。アイツの悪口ならば、アタシはいくらでも並べてののしってやれるからねぇ……」

その様子だとはげます必要はなさそうだから、アタシの愚痴話ぐちばなしにでも付き合ってほしいと言ってきた。

彼女の首元に取り付けられている魔導具の状態は筆舌ひつぜつくしがたいものだったから、俺も師匠の意見には賛同一択だ。

愚痴は程々にしてほしいけど、今日は師匠にその件も相談しようと思っていたからね。






 アメリは学長の権限を活用して、クラウディーラ嬢についてのあれこれを徹底的に検査する準備を整えていた。

主だった項目は……魔力保持量や最大出力時の影響力、魔法属性、特殊技能の有無などについてだが、それぞれの関係部所に最優先で検査予約を入れたのだそうだ。

はじめこそ人前で甲冑を脱ぐことに躊躇ちゅうちょしたものの……彼女も自身の状態が気になっていたのだろう、渋々と骸骨の姿をさらけ出したのだった。

「こんな姿を皆さんにお見せしてしまって申し訳ないですわ……」

終始そんな風にしょげていたのが、気の毒であり可愛らしくもあった。



 彼女は半日以上をかけて思いつく限りの検査を受けさせられた。

その結果……属性魔法の適正は植物と光で、魔力保持量は王族と並ぶほどに大きいことがわかった。

「おぉ、お嬢はだてに新緑色の瞳をしていたわけじゃなかったんだなぁ。貴族は瞳の色で属性がわかるなんていう奴もいるが、けっこう的を得ていたのかも知れねえな」

「たしかに、うちの閣下も赤い瞳で炎属性持ちですしね。学長殿とお揃いの属性だったのが弟子入りの切っ掛けみたいですよ。……でも、閣下は多属性を操る類稀な才能をお持ちで研究者としては狂魔術師マッドマジーの異名持ちですし、学長殿は一点特化の極炎の魔女ポゥラフレムなどと恐れられていらっしゃる。どちらも特異な存在ですが、しかし……うちのお嬢様も、ひょっとしたら何かあるのかも知れませんねぇ……」

護衛役のシルバと執事のエドが、待ち時間で暇そうに雑談している。

俺も待っているだけの付き添い状態なものだから、退屈しのぎに聞き耳を立てているんだよ。



 それから、驚いたことに彼女は俺でさえも馴染みのない特殊技能を保持していることも判明したのだ。

「うゎぁ。……何だコレは」

師匠の一言に、その場の皆が注目する。

クラウディーラ嬢なんて他ならぬ自分のことだから、切羽詰まった雰囲気だ。

「あの、私……何か良くない結果なのでしょうか……」

骨だから顔色が良いのか悪いのか、いまいちわからないけれど……肩に力が入ってて緊張しているのがわかる。

思わずその小さな肩を後ろからそっと支える。

たぶん、俺も少しは緊張した面持ちだろうと思う。

そんな感じで師匠の次の言葉を待つ。



 師匠は検査結果の用紙を真剣な眼差しで読み込んでいて、それきり少しの間考え込んだ。

「あのぅ。心の準備は出来ましたので、どんな結果でも大丈夫です……どうぞ仰ってくださいまし」

皆が心配そうに見守る中で、再びクラウディーラ嬢が結果を尋ねた。

「いや、……心配には及ばない。ただ、アタシも初めて見る結果でねぇ……」

皆の注目の中、師匠が言った。

「術式強化、構築自在、解析、改変……まぁ他にも色々と並んでいるんだけれど。アタシも長年生きてきて、一人分の検査用紙にこんなに沢山の特殊技能が並んでいるのは見たことがないね」

術式強化・構築自在・解析・改変・保守・点検・接続……全部で七つ。

特殊技能を持った人に初めて会ったのだけれど、それが自分の奥さんなうえに七つの技能持ちだなんて……唖然とするしかなかった。

本人も驚いているみたいだけれど、この様子だとワケも分からずびっくりしている感じだね。

そんな彼女を見て、それで少しだけ冷静になれた俺だった。



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