第35話 骨 VS 毛皮 と、秘密だった趣味

 魔素が魔導回路を滞りなく駆け巡る。

それは魔導具が動くための基本原理なのだとか。 



 魔素とは、世界に満ち溢れるエネルギー。

その力をもとにして、あらゆる魔法現象が発現される。





 魔法魔術大学の学長であるアメーリ・リア=フレルイ様が、そんな初歩的なことを話してくださる。

身の回りに魔導具が溢れる近ごろでは誰もが知っていることでもあり、これについては未知の部分が多く、今もなお様々な研究が進められているという。

「誰でも知っているであろうこの原理、この魔法のからくり仕掛けで魔導人形たちが動いているということも理解してもらえるだろうか」

「えっと……はい。事実を知った今となっては、怪奇現象だと言われるよりも魔法現象だという方が説得力がございますわ。私ったら、どうしてスケルトンさんたちがそちら側のお仲間だと思ったのかしら……」

彼らを思い出せば思い出すほどに、あの善良そうな働き者たちが亡者の仲間だとは考えられなくなった。

「たしかにちまたではスケルトンをはじめレイスやゾンビなど、そういったアンテッド系の魔法生物が存在するかも知れないと話題になることも有るにはあるが……物語やデマ情報ばかりで、今のところは確証がない。我が弟子は骨好きが過ぎてあのように不気味なデザインの人形を作成しおったが、もう少し人や動物に似せた形の自動人形もあるんだよ」

「まぁ、そうなのですか。私、てっきり魔女さまも骸骨を共同開発なさったのかと思っておりましたわ」

「いやいや、共同開発は技術部分だけだよ。アタシは骨よりもモフモフの毛皮系が好みだね。だから長毛種を作って自宅でペットとして飼っている。従順で可愛い子なんだ……今度見せてあげようか? そっちの骨ばっている味気ない奴らよりも百倍は可愛いはずだ」



 魔導式自動人形が動く仕組みから、見た目のデザインについてと話が移り変わる。

閣下は骨にこだわるあまり骸骨型に、魔女さまはモフモフがお好きで毛足の長い猫の形を選ばれたのだとか。

スケルトンよりも愛猫あいびょうの方が百倍可愛いとおっしゃる魔女さまに、公爵閣下が憮然ぶぜんとした表情で言い返す。

「残念だけれど、師匠にはあいつらの良さが理解できないんだろうね。うちのスケルトンは、高純度の原料……魔長石まちょうせきとか晶珪石しょうけいせき光陶石こうとうせきなんかを贅沢ぜいたくに配合し最高級の粘土生地ねんどきじを練り上げて、それを特殊な透明釉薬とうめいゆやくでコーティングしてから、極限過剰加熱きょくげんかじょうかねつ還元炎焼成かんげんえんしょうせいして作られる、究極の芸術品だ。俺が専用の釜で自ら焼き上げた愛くるしい骨たちなのだから、ツヤと強度ならば毛皮などに負けるわけがない」

早口で言っている言葉たちがマニアック過ぎて、何が言いたいのかよくわからない。

たぶん、だけれど……どうやら閣下が特殊な陶芸の心得があるらしいことと、骨の自慢をしたいらしいことだけは、何となく理解した。



 猫が可愛い、いや骨の方が美しいと言い合いが続く。

どこまでも平行線で歩み寄りはなさそうだ。

らちが明かないので、そろそろ話題を変えた方が良いみたい。

「あのぅ……、それで私とスケルトンたちが仲良しなことが不思議だとおっしゃっていらしたとのことですが、魔女さまはどうしてそれが不思議に思われたのでしょう?」

舌戦を繰り広げていた魔女さまたちも、ようやくそうだったと話の脱線に気がついてくれたのだった。



 はじめに公爵閣下が説明をしてくださる。

「そもそも、うちのスケルトンたちが魔導具であることを理解してもらったうえでの話になるのだけれど……彼らにはそれぞれ特定の役割が決められていて、各個体に内部情報として色々と記録されるように作られているんだ。それから、自分の判断で勝手な行動をしないようにも設定されている。指示を出すことが出来る特定の者を登録することで、彼らが悪用されないようにもしていたのだけれどもね……」

こうして改めてスケルトンたちがそんな風に動いていたのを知って、魔導式自動人形という魔導具の性能の高さを思い知ることになった。

今までのんきに眺めていたけれど、塔に帰ったら彼らを見る目が変わっているんじゃないかしら。

でも、その高性能な魔導式魔導具と私の間にいったい何があるというのだろう。



 閣下の説明にキョトンと首をかしげていると、今度は魔女さまが話し出す。

「うーん、今ひとつピンときていないようだね。貴女は彼らの指示者として登録されてはいないという。それなのに、彼らは貴女の言うことを理解し貴女と交流を持つことが出来ている……これを不思議と言わずに何という?」

魔女さまの説明に、ウンウンと閣下がうなずく。

「そういうこと。俺もこんなことは初めてで驚いたよ」

お二人の話を聞いてなるほどと納得できる部分と、魔導具ならば何とでもできそうな気がしている部分が、ぼんやりと私の中に存在していた。

これは家族意外には秘密だったのだけれど……私にとっての魔導具は、身近な玩具のようなものだったりしていたのだ。



 スケルトンたちを魔導具だと認識したことで、じつは彼らを更に身近に感じている。

子どもの頃から魔法に興味がありながら、それについて深く学ぶことが許されなかった私は、密かな趣味として自宅にあった魔導具を分解したり組み立てたりしていじくり回していた時期があったのだった。

王城で嫌なことがあっても、魔導具を観察しているだけで気分転換になっていた。

新商品の情報が出回れば両親の伝手を頼って入手したり、安価なものならば買い求めて改造なんかも楽しんだ。

そんなわけで、素人知識で大雑把おおざっぱながらも……身近にあるようなちょっとした魔導具の仕組みを理解しているし、何なら簡単な修繕もこなせたりする。

今まで誰にも知られないようにしてきた、たった一つの趣味だった。







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