魔法と魔術と甲冑と(クラウディーラ視点)

第29話 スケルトンの正体

 塔にやって来てから今まで、あえて深く考えないようにしていた事がある。

そう、……召使いスケルトンたちのことだ。

彼らの見た目は骨なのだけど、生前はどういった人たちだったのかとか何故ここで働いているのかとか、聞いてみてもカタカタ言うばかりでよくわからない。

かなり一生懸命カタカタと語ってくれているので、色々と事情があるのかも知れないが。

私と同じように何かの呪いで骨っぽくなっちゃったとか、お亡くなりになっても墓地で大人しくしていられない理由があるとか、きっと深いワケがあるのだろう。

だがしかし、スケルトンたちがうらつらみを抱えている雰囲気はなさそうで……何だかんだで楽しそうに見えるときさえある。

どういう経緯で召使いになっているのか知らないけれど、今の状態に不満がなさそうなのは救いかもしれない。

立場は違うけれど私も似たような状況だもの、親近感だって感じてる。

そう思って、それ以上は追及してこなかったのだ。 



 そのうち執事さんに聞いてみようと思っていたのだが…………思いがけず今、質問する機会に恵まれた。

なぜ今かというと、私の目の前で一体のスケルトンがぐらりと倒れて動かなくなってしまったから。

心臓発作や脳梗塞こうそくかと、あせりに焦って取り乱してしまって恥ずかしい。

よく考えたら骨だもの、心臓も脳ミソも血管さえも見当たらないことに気がついた。

いきなり機能停止状態になった彼、または彼女に何が起こったのかわからなくて大騒ぎをしてしまったところに慌てて執事さんがやって来た、というわけだった。



 ああ、魔力切れですね……と、エドさんが言った。

「えっ!? 魔力って、あの魔力?」

聞き間違いかと思って、つい聞き返してしまった私。

「はい。その魔力ですね」

何てことないように答える執事さん。

「へ!?」

スケルトンさんたち、魔力で動いていたの?

にわかに信じられなくて、間抜けな音を発してしまった。

「おや?」

エドさんは怪訝そうに首をかしげる。

それから私の様子で説明が要るらしいと察してくれた。

「ここの召使いスケルトンたちは、閣下がお作りになった魔導式自動人形マジカルオートマタなのですよ。ご存知ありませんでしたか?」

そんなの、まったく存じませんとも。

「まじかるおおとまた? 初めて聞いた言葉ですわ……」

唖然あぜんとしたまま執事さんに問う。

なんですかソレ。





 スクリタス公爵閣下は魔導回路マジック・サーキッドの研究にたずさわっていらっしゃる。

それは以前に聞いていて知っていたけれど、魔導回路が何なのかを私は知らない。

ましてや身近に動いていたスケルトンさんとの関連性など、これっぽっちも知るわけがない。

動かなくなって倒れているスケルトンを軽々と担いだ執事さんが、地下深くへと回廊を降りて行く。

好奇心に引きずられるまま、私も彼らのあとに続く。

スケルトンさんがちゃんと元気になるのかも心配だった。

「ご心配なく。最下層のあの場所で魔力を充填すれば、また元気に動き回りますよ」

「そうなのですか。私、てっきりスケルトンさんたちは元が人間だったのだと思っていたので驚きました。彼らが魔力で動いていたなんて気がつきませんでしたわ。ちょっと魔道具と似ているのですねぇ」

「ははは。ざっくり申し上げると、魔道具に更に小難しい仕組みを備えているものが魔導式魔道具と呼ばれるモノですね。スケルトンは閣下が一体一体手作りされた最新式の試作品でもあるんですよ。だからなのか其々それぞれに微妙な個性もありますね。たぶん慣れると見分けが付くようになりますよ」

「えぇ。本当ですの? 私には全員同じにしか見えませんわよ……」

だいたい魔道具の一種だということすら信じられない。

そう言ったら、エドさんがニヤリと笑った。

お嬢様は純真な方ですねと言われて、微妙な気持ちになる。

「まぁ、魔道具の一種だと言う方が説得力はあるかと思いますよ? 幽霊や化物の話はたまに聞きますが……さすがに本物の骨が自分で動いているのは、私も見たことがないですからねぇ」

「ふふふ。そうですわよね……本物のアンテッド亡者に会うなんてことは滅多に起こりませんわよね……」

その滅多に起こらないが起こったと思っていたのは私だが、違っていたわけだった。



 最下層にやって来た私たちは、水路とは反対方向の壁伝いに進んだ。

エドさんがスケルトンを担いでいたので、私が角灯を持って照明係を務めている。

行き着いた場所には石畳いしだたみに幾つもの四角いわくが描かれていて、その枠の一つ一つが魔力充填用の魔法陣なのだとか。

その一つに執事さんが担いできたスケルトンを寝かせてやっていた。

ほんのり光っていた魔法陣の輝きが増して、スケルトンさんを優しく照らす。

ふと周りを見れば、同じように魔力充填中のスケルトンたちが何体か寝ているのがわかった。



 その様子をながめながら、エドさんが言う。

「本来ならば、魔力切れになる前に自己判断でここに来るように設定されているはずなのですが……今回は何らかの不測の事態があったのかもしれませんね。ちょっと調べてみようかと思います」

「そうなのですね。もしかしたら、……私が閣下のお部屋まで本を運ぶのを手伝ってほしいとお願いしてしまったから、無理をさせてしまったのかしら。そうだったら申し訳ないことをしてしまったわ……」

エドさんが言う不測の事態とやらに、私はちょっと心当たりがあったのだった。


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