第26話 お兄様からの手紙
暗い赤色をしたスライムを手のひらに乗せて、魔力灯の光にかざす。
「ベリーって、こうして見れば案外と
我が相棒兼ペットとなったダークベリースライムは、クネクネっと身を
言葉をかわすことは出来ないが、感情豊かな動きを見せてくれる。
そのせいなのか、何となくこの子の主張がわかるような気がする。
気のせいかも知れないけれど。
自室の扉がコンコンコンっとノックされ、カチャリとスケルトンさんが入室してきた。
スイっと差し出された
「カタッ。カタタタタ」
相変わらず何を言っているのかまではわからないけれど、あのカタカタ具合から推測するに、どう致しましてとかかなと……近頃では勝手に判断して納得することにしている。
私がここに来てから見る限り、彼らが悪態をついたり暴れたりする様子はない。
見た目はアレだが、意外と
召使いスケルトンが届けてくれたので当然なのだが、受け取った封書は私宛だった。
粗い紙質の封筒に差出人の署名はなく、
表側に受取人として“スクリタス公爵夫人”と
「よくこんな宛名だけで届いたわねぇ。我が国の郵便組織は、それほど優秀なのかしら」
思わずこぼした独り言は、その郵便組織へのちょっとした嫌味だったりするのだが。
ほんの少し不備があっただけで訂正を迫られなかなか受け付けてくれない事務的な窓口を思い出し、通常の郵便物とは違うルートがあるのかしらと首を傾げる。
そもそも、こんな見た目が廃墟な塔に配達係はやって来ないだろうと思い至った。
なにはともあれ、おそらくは執事エドさんがチェックしてくれているはずなので、不審に思いながらも開封することに。
*****
拝啓 若葉色の君
ご
当方、
異国の地を
遠方の方より、一同が貴女様の無事と多幸を願っています
敬具
同色の
*****
中身は小さな紙片が一枚だけ。
公爵夫人である私宛なのだから、“若葉色の君”が指し示す人物は私なはず。
そして“同色の落人”の
ならば
落人と称される人物は、戦に負けて人目を避けて逃れゆく人ということだろう。
我が実家である侯爵家も政争という戦に負けたと捉えられる。
そこから導き出される人物は…………。
「これ、お兄様からなのね……。ご無事なようで、良かったわ……」
かつての自分と同じ明るい緑色の瞳を思い出す。
うっかり気を抜くと涙が出てしまいそう。
流浪の旅路を終えたということは、何処かに拠点を構えられたという知らせ。
蘇りし二人の貴人って、お父様とお母様ね。
二人とはちゃんと合流できたみたい。
異国の地を踏んだ……これは、国内にはとどまらず外国へ出国したわけなのね。
最後の一文は、私を気遣ってくれている。
家族が私を思いやっているよと知らせてくれているんだわ。
私も、いつも思っているわ……皆の無事と幸せを。
でもね、皆が行ってしまった。
私だけがここに居る。
執事さんやシルバさんも良くしてくださるし、こうして可愛い相棒とも出会えたのは幸運なこと。
わかっているのよ?
公爵閣下がここに私を受け入れて置いてくださっていることには感謝しかないけれど、家族との隔たりが大きく遠くなっていることを改めて実感してしまった。
己の立場や、いかに恵まれているかもわかっている。
ただ寂しいだけ。それだけなのだ。
慌てて
何も持たない私にエドさんが用意してくれた沢山の物たち、この
小机の上には、公爵閣下が貸してくださった数冊の本たち。
この子はシルバさんが縁を
何ていうか細長く背伸びの姿勢で、クイッと先端だけ首を傾げるように曲げている。
ちょっと可愛すぎるのよ、その仕草。
思わず泣き笑いになっちゃったじゃない。
心配ないわ、大丈夫。
これはね、安心した証拠なの……嬉し涙なのよ。
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