侵入者はスケルトンみたいな令嬢だった(暗闇公視点)

第15話 才能故の過去

魔法には性質があるという。

空間を通る風を操る『風』魔法。

大地に干渉する『地』魔法……またの名を『土』魔法ともいう。

炎を発現させる『火』魔法に、水を呼び出す『水』魔法。

じつに多種多様な性質を持った魔法があるのだ。

もしかしたら、魔法学者たちが未発見の魔法もまだまだ存在しているかもしれない。


そして、人間の住む王国で魔法の才能をもって産まれてくるのは百人のうちの数人程度。

そのうちの多くが王族や旧家の貴族家に連なる血統の子息子女なのだった。

王家の末っ子で十二番目の王子として生まれた俺にも、たしかに魔法の才能があった。

知られている魔法属性をほぼ網羅もうらするような才能を備えてはいたのだが。

ただし、そのうちの一つの種類と性質がまずかったのだ。



 明暗魔法の闇属性。

五歳で魔法能力を発現したとき、俺を産んだ母は絶望のあまり病に倒れた。

数年の療養期間の後に呆気なく儚くなってしまったために、俺は彼女との思い出があまりない。

自分のせいで母が命を縮めてしまったのではないかと、ずっと心の底で悔やんではいるが、どうすることもできないままで大人になった。

ただ鬱々うつうつと、自問自答じもんじとうり返す。

俺なんか……生まれなければ良かったのではないかと。






 明るさに関する魔法では、明暗魔法の光属性が有名すぎるほどに有名だった。

たかが明るくする魔法とあなどるなかれ。

強力な魔法を行使できるのならば、生き物の怪我や病を治し心に明るさと温かさをもたらす。

それ故に光属性魔法の才能を持つ者は、医療を司る治療師や看護師を志す者が多いという。

ただ、ちょっと珍しいっていうか、数万人に一人いるか居ないかの希少な存在だったりするらしい。

宗教的な話になると……どこぞの協会では、正魔法とか聖魔法なんていって有難がっているらしく、強力な術者は聖人や聖女なんて呼ばれて敬われているのだそうな。



 一方で、同じ明暗魔法だというのに闇属性はしいたげられた。

聖の対局が悪ならば、光の対局である闇も悪……そういう理屈で。

少しばかり短絡的じゃないかと俺は思うのだが、世間の見解ではそういうことになっている。



 そんなわけで、俺の魔法能力は嫌悪の対象となり存在そのものも忌み嫌われる事となったのだ。

闇属性が光属性よりも稀有けうだったことも災いしたかも知れない。

国内では俺の他に同じ属性の魔法使いが居ないのだとか。

過去にさかのばれば闇賢者やみけんじゃと恐れられていた大罪人の存在が明らかになったのだが、まったくもって何の救いにもなりゃしなかった。

むしろ、滅茶苦茶足を引っ張られてるというか……最底辺に引きずり落とされている気がしてならなかったりさえする。



 尊き王族として生まれながら、悪しき闇に属する者。

暗闇を想起そうきさせる黒髪に血のような暗赤色あんせきしょくの瞳も、見る者たちを気味悪がらせたようだった。

城内では、誰一人として俺に近づいてくる者は居なくなっていた。



 いや、ただ一人だけ……一番年上の兄だけは、何故か親身に接してくれた。

それは今でも変わらない。

兄の存在が俺の子ども時代を平穏に保ち、救っていてくれたのは確かだと思う。

そのことには、とても感謝しているのだ。






 俺の母は、父である先代国王の二番目の妃であった。

彼女が儚くなって直ぐの頃、王国内に疫病えきびょうが流行した。

裕福な者たちは医者や治療師にかかり薬で事なきを得た。

だが、貧しい民たちの多くが病に倒れ苦しんだという。

幼く城内に閉じこもっていた俺に詳細なことは知らされなかったが、流行がおさまるまでに数年の月日を要したということだった。



 国史を辿たどれば、明らかにその病は数十年おきくらいの周期で国内に蔓延まんえんする流行病りゅうこうびょうだった。

だがしかし、当時は貴族層を中心にただの流行病ではないという意見が、無責任かつ頻繁ひんぱんささやかれ…………ついには、凶事きょうじの原因が王族の一人にあるという話が、人々の間をまことしやかに堂々と行き交う程になっていた。



 その王族というのが嫌われ者の俺であったことは明白で。

既に母親という後ろ盾をなくしていた俺は、更に追い詰められることになったのだった。

その結果、ある日突然わけも分からないまま謁見えっけんの間に引っ立てられ…………国王である父によって生涯幽閉しょうがいゆうへいを言い渡されたのだ。





 それ以来の十数年、ずっとこの場所に住んでいる。

時が経ち、父王から一番年上の兄へと王位が受け継がれても貴族たちの俺に対する認識は変わらないし、間違っても奴らと親しくしたいなどとは思わない。



 誰に何を言われるわけでもなく、誰も俺のことを見聞きすることもなく。

そんな暮らしが、かえって有り難いとさえ思うようになった。

もちろん幽閉当初はうらつらみでひどい有様だったさ。

薄暗い場所で唯一人ただひとり……ずいぶん荒れた。

まあ、俺にもそんな時期があったんだ。







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