第12話 お化けさん?
一際明るい装丁の本が目にとまる。
一人ぼっちだった少年が仲間と出会って世界中を旅して回る……そんな内容だって、子どもの頃にお兄様が教えてくれた物語。
「あら、コレって『ボンバの冒険』だわ。寝るときにお兄様がざっくりと大雑把に読み聞かせてくれたことがあったわね。懐かしいな……」
手にとって
我が国の公用語ではなく隣国の言語で書かれているものだった。
本は高価なものだけど……子ども向けの物語や絵本などは、紙の質を安価なものにしたり製本を簡略化したりと工夫がなされている。
そのせいか、比較的手に入りやすい価格で流通しているのだ。
それでも
とりとめのないことを考えながら、好みの
「えっと、ボンバの隣の……これに決めたわ」
退屈しのぎが目的だったので、気楽に読める子ども向けの物語を借りることに。
それにしても、子ども向けから魔導書まで充実の品ぞろえぶりである。
図書室というよりも、本棚に囲まれた居室といった
これから趣味として読書を楽しみたい私としては有り難い。
一冊の物語を手に、
すると、通路の奥におあつらえ向きのソファがあった。
……ただし、既に先客が居たようで。
これは??
この大きなコレって……何だろうと観察するべく、思わず動きを止めたのだった。
黒檀に布張りのフカフカなソファ。
そこには、スッポリと白い毛布を
近くの書架に身体が軽くぶつかってしまい、カタリと物音をたててしまった。
……ぁっ!!!!!
驚いたらしく、ガバリと起き上がりソファの
!!!!! ガサササッ!!
生き物、だったのね。
繰り返すのだけれども、私はその存在に驚いて動きを止め凝視した。
はじめは高級ソファに白いモフモフな敷物がかけられているだけだと思っていた。
それが急に素早い動きをしたものだから、ビックリしたのなんのって……はっきり言って心臓が口から飛び出るかと思った。
幸いなのかなんなのか、今回は王族教育で
投獄初日は、大蜘蛛や怪物にギャーギャー大騒ぎした挙げ句、涙も鼻水も垂れ流し放題とひどい有様だったけれど……本来の私は可愛げのない澄まし顔が標準装備なのである。
簡単に本音を
お陰様で誰にも自分の本当の思いを理解されなかったし、家族以外にはその必要性すら感じなかった。
貴族社会、とりわけ社交界においては致命的な交流下手と言えるだろう。
王族の振る舞いとしては正解なのかもしれないが、交渉と交流は別物だと思う。
家族には素直になれるのに、他人には分厚い壁を間に挟む習慣が身に染み付いていたりする。
良くも悪くも、教育の賜物なのだった。
……っと、うっかり過去の記憶を
とにかく今は、眼の前の
子どもの頃に夜更しをしたがる私をお母様が脅かしたことがあったっけ。
悪い子は怖いお化けに夢の国へさらわれてしまいますよって。
深夜の真っ暗な屋敷を歩き回る白いお化けに起きているのが見つかってしまうと、遠い世界へ連れて行かれてしまうらしいという話。
さすがに大きくなってからは作り話だってわかっているけれど、当時は暗闇とお化けが怖くて素直に寝台に潜り込むようになったのだった。
私が知っているお話の中の想像上のお化けは、白いシーツのような布を被ってフワフワと空中を漂うような
うぅーん……ここには骸骨や大きな蜘蛛が居るのだもの、お化けが存在していても不思議じゃない……のかしら? どうかしらね?
被っているのは、白いのだけれど布というよりも厚手の毛布。
空中を漂うどころか、ソファに埋もれていて丸くなって震えている。
ええ。思いきりびっくりした様子で丸まったあとで震えているのよ。
そのせいか、不思議なことに驚いたけれど怖くない。
むしろ、自分と同じように怖がりなのかと妙な親近感までわいてきたかも。
身体の大きさは、たぶん私よりも大きい。
それで、震えながら何かをブツブツ言っているみたい。
内容は、もうちょっと落ち着いて話してくれないと聞き取れないわ。
一生懸命に喋っているみたいなので、申し訳なくて首を傾げて聞き返してみるのだけれど……一向に震えてばかりで
ちょっと困ったわね。
とにかく、かなり存在感のあるお化けだと思うのだ。
読書の予定はそっちのけ。
私、お化けさんに興味津々になってしまったみたい。
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