第11話 本の部屋にて
本棚と本棚の間を進む。
王立図書館ほどではないけれど、一箇所にこんなに沢山の本があるのは凄いことだ。
紙が高価なもの故に、本なんて更に貴重なものなのだから。
教本一冊の価値が、時と場合によっては宝飾品を遥かに上回ることもある。
とくに高等魔法関連の教本や実用書などが取引されるときは、金貨が何枚も行き交うらしい。
極めつけは、
そのもの自体に魔力が宿り、持ち主が提示した
力の大きさや実現可能な魔法の内容如何で、それぞれに価値の幅がある。
種別や等級で表されるそれによって、個々の魔導書の価値が表されているともいえるだろう。
こちらはオークションや特別な
かつて侯爵令嬢であった私でも滅多にお目にかかれないような代物だったりする。
書架に並ぶ年季の入った
「ふゎぁ……これは凄いわね。魔導書の多さだけならば王立図書館を
そして、どれもこれもが
それが一挙に
「あらゆる自然魔術が集約されているという『秘術の秘密』、未来を予測するための先読み術の中でも高ランクに位置づけられている『架け橋の欠片』、転移術式を展開するための魔法陣集である『エルベレス転移方陣』の、これは……原本かしら。ええっ、コレがこんなところにあって良いの? 宝物庫に置いておくべきじゃない? 国宝級の価値があるし、きっと値段なんてつけられないわ…………」
興奮気味に書架と書架の間を歩き回れば、『治療術・初級』『呪術・皆伝』『水魔法・中級Ⅱ』と、誰もが知っている本もある。
有名どころはもちろん、収集家連中が
はしたなくも、大興奮を隠せない。
ああっ。なんて素敵な場所なのっ!!!
ずっとこの部屋に住みたいくらい。
家庭教師や皇太子妃教育では政治や教養や人心掌握術などばかり教え込まれてきたが、興味が持てずにやっと及第点を上回る程度な成績だった。
国や王家の歴史とか国際情勢なども、為になったとは思うのだけど……今となっては、すべてが無駄になってしまった。
ふと落ち着いて考えれば、王国にとって大切な情報や機密事項まで教え込まれちゃっている私が無事に婚約破棄だけで済まされるはずがなかったのだ。
即刻処刑とか暗殺とか、当たり前に考えられる状況だった。
「生涯幽閉だって、十分温情をいただいたってワケよね。ものすごく不満だけれど……仕方がない処分だったのかも知れないのよね。家族はともかく、私を野放しにするわけにはいかなかったのだわ」
今ならば、少しばかり冷静に自分の置かれていた状況を振り返ることができる。
ともに歩む将来を夢見て、第一王子を支え国をもり立てようと必死に学び尽くしてきたつもりだった。
でも、それは自分だけの空回りだったのだろう。
肝心のお相手は私など眼中になかったのだもの。
本に囲まれた静かな空間で物思いに
当初は国から望まれて第一王子の婚約者候補となった。
第一王子派閥の大貴族たちが、そこそこ見栄えが良く賢そうな令嬢を数人候補に上げたうちの一人だったのだ。
幼少の頃から魔術に興味を惹かれて国立の貴族学院で学びたいと考えていた私は辞退したいと訴えたし、両親も王家との繋がりに魅力を感じなかったらしく辞退の方向で動いてくれていた。
それなのに。
いったい何の気まぐれだったのか…………第一王子本人が
王命を受け、私は仕方なく王族に嫁ぐ進路に
当時の第一王子が私の何を気に入ったのか、未だにさっぱりわからない。
学院への進学を諦めて王城に通う日々の約八年。
さほど彼と親密になることはなく、年に数回の夜会や茶会で顔を合わせる程度の仲だった。
残念ながらエスコートをしていただいたことはない。
だから、あの成人の祝のパーティーでも……不自然な扱いではあっても、いつものことだと諦めきってもいたのだ。
互いに良い関係を育めないのならば私以外の令嬢を選べば良かったのにと、常に不満を抱いていた。
それでも、未来の王太子妃その先の王妃としての役目を果たすべく、研鑽を積んでいったのだ。
さすがに国宝級の魔導書たちに手を触れるのは
素人が無暗に触って魔術事故など起こしてしまっては取り返しがつかないことになる。
今回は普通の本を貸してもらうことにしよう。
骸骨さんに頼めば部屋の主に取り次いでくれるかも知れない。
学術書や教本なども興味深いけれど、今まで時間が取れずに読めなかった物語が読みたい気分。
恋愛ものはちょっと懲りちゃっているので、冒険譚とか良さそうじゃないかしら。
今は
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