第10話 新居の探索

 窓のない部屋でただひとり。

少しの間は静かでゆっくりできると思っていたのだけど、だんだん退屈になってきた。

数体の骸骨たちがバスケットを運んできてお茶とタルトケーキを供してくれたのを美味しくいただいてから、ただぼんやりとほうけているだけだった。

疑問や不満や考え事はたくさんあるけれど、今すぐ解決できる質のものではないし……グルグルと考え込むと気分が沈む。



 誰が居るわけでもない自室でひとりごとを呟く。

「ええと、食後の運動は必要ですわよね。ちょっと今後に備えて周辺を探索しても構わないかしら」

当たり前だけど、誰も何も言わないんだもの……きっと大丈夫。

これからここに住むのだから問題ないはず。

くして私は、新居の探索に乗り出すことに決めたのだった。








 


 フラフラとあてもなく通路を進む。

住居区よりも上には行かないように気をつけなければ。

大蜘蛛にも怪物にも会いたくないもの。



 歩きつつ考える。

できればなのだけど、書物があれば読みたいと思い始めていた。

執事さんに聞けばよかったが、あのときはこんな風にひまを持て余すなんて考えてもみなかった。




 通りすがりの骸骨たちにも聞いてみる。

「何か本を読みたいのですけれど、こちらに図書室とか書庫なんてございますの? もし、知っていたら教えていただきたいのです」

「カタカタ? カタタタタ」「カタタタタ」「カタタタタ」

どの骸骨もフルフルと首を横に振るばかり。

彼らが言葉を理解して身振り手振りで意思表示をしてくれることに気がついたのは良かったのだけど、本の在処ありかはわからずじまい。

もちろん執事エドさんの姿も見かけない。

「むむぅ。これでは、なにが何でも自力で見つけなくてはなりませんわね」

フンスと気合を入れ直し、一体の骸骨を捕まえてお供をお願いしてみた。

カクカクと頷いた彼か彼女は半歩後ろをついてきてくれて、私が確認したいと言った扉を開閉してくれたのだ。



 鍵がかかっていて開かないと思っていた木製の扉たちだが、どうやら自動施錠じどうせじょうの機能がついているらしい。

魔法陣か術式などに登録した者だけが開けたり締めたりできるみたい。

未登録な私では押しても引いてもびくともしなくて、登録されている骸骨たちは何てことなく出入り自由だったのだ。





 自室の近くは客室が並んでいて、下層には物置や食料庫などの倉庫類と台所や洗濯室もあった。

何体もの骸骨たちと出会ってはお疲れさまと声をかけた。

我ながら、すっかり見慣れて馴染んでいる自分に驚きだ。








 そんな感じで何層か下に降りてきた居住区の、最下層だろうと思われる場所…………ここの階層には他よりも大きな扉が一つだけ。

お供の骸骨と扉の前に立ち、期待に胸を膨らませる。

「なんだかここが一番あやしいですわ。見た目からして広そうな部屋ですし、なんとなく本の気配を感じるような……」

「カタカタ……カタタ、カタカタカタタ……カタタ?」

かたわらのお供が何かをうったえてたずねているのはわかるのだけど、残念ながら詳細まではわからない。

「ごめんなさいね、貴方の言いたいことがわからないわ。……でも、ここを確認したら探索は終わりにして部屋に戻るので、この扉を開けてみてくださいな」

「カタタ⁉ カタカタカタ、カタカタタカタ……」

こころなしか骸骨さんが困っている様にも見える。

カタカタとあごを鳴らして、身振り手振りで私のことを気づかってくれている?

でも、ここまで来たのに中を確認しないだなんて、ちょっと気になって落ち着かない。

「ちょっとだけで良いので、どうかチラッと中を見せてください。できれば一冊だけでも本をお借りできたら嬉しいのだけれど」

「カタタ、カタカタ」

もうっ、ちょっとだけですよ……とでも言うように、骸骨さんが扉に触れる。

開いた扉の、その向こう側は…………。










 眼を見張るような絶景だった。

「まぁ素敵、すごいわ。素晴らしい……」

建物の構造を無視したように高い天井。

二階層か三回層分の高さがあって、全体がけになっている。



 外から見たよりも広くて大きな部屋だった。

円形空間を囲む壁沿いには下から上まで隙間すきまなく本棚が並び、彼方此方あちらこちら梯子はしごけられている。

中身はギッシリと、書物書物書物…………何処どこまでも書物がズラリ。

中央部にも沢山のたなつくえ椅子いすが配置されている。

探索の果……求めていたものが、ここに沢山あったのだった。





 思わず室内に吸い込まれた。

「骸骨さん、ありがとう。おかげで探しものが見つかりましたわ」

「カタタ?」

「ううーん。こんなに沢山の本の中から読みたいものを選ぶのは至難の業ね。このお部屋にもう少し滞在したいのですけれど大丈夫かしら?」

「カタタタタ。カタカタタ」

コクコクと頷いて扉の向こうに去ってゆく骸骨さん。

お仕事中に私の用事に付き合っていただいちゃったので、しかられたりしないかしら。

いえ、上司がエドさんならばきっと大丈夫よね。

もう一度、お世話になりましたと後ろ姿にお礼を言った。




















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