悪因悪果 善因善果
破壊された高峰の自室から、見慣れないメモが見つかった。それは服巻が高峰の皮を被っていたときに書き込んでいたものだ。
高峰がそのページを丁寧に読んでいくと、服巻の文字がどんどん乱れて、とげとげしいものに変わっていく様が克明に刻まれているのがわかった。それは服巻がもともとの自分自身を思い出していく過程で刻んできた一文字一文字だ。
そして最後のページを見た時、思わずメモを閉じた。
「俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない。俺の人生じゃない」
そう、書かれていた。
もう一度ゆっくりとページを開き、その混乱と絶望に満ちた文字の一つ一つを眺めて、高峰は唇を一つに結んでまたメモを閉じた。
入れ替わって彼はどこに行ってしまったのだろう。それを突き止めなければと思った。
どうしても心が覚えているあの感覚が消えうせるうちに片付けなければならないと思って動いたが、シーズンが始まり、移動日でない月曜日に、さらに澪が休みの日を狙うのは並大抵のことではない。
だから澪の都合にできるだけ合わせて、奇跡的に日中のスケジュールを確保した。
「……それで、何でおれが入れ替わったって判ったんだ?」
ティガーの運転席から助手席を一瞬見ると、澪が何の表情もなく言い放った。
「女の勘」
短すぎてよく聞き取れない。
「ええ、何だって?」
「車に乗るときは前見て!」
「おお、ごめん」
正面を見るとちょっとした渋滞に差し掛かるのが見えた。
「入れ替わってすぐに三条さんに電話したでしょ。その変なおじさんの声で」
「そうだっけ?」
「うん。多分覚えてないもんね。話聞く限り」
「知らない」
「三条さんって誰だ?」
「私のマネージャー!知らないの?」
「ああ、ごめん。そうだ、ロングヘアーで茶髪の……」
「そうそう。やっと思い出したね。……それで着信が入ったの。『澪ちゃん、高峰さんに起こったこと、マジかもしんない』って。私も半信半疑だったよ。そんな事起こるわけないからさ普通」
「俺だって信じられないよ」
「三条さんに感謝してね。あれがなかったら会ってない」
全く覚えていないが三条さんに何らかのアクションを取ったのだろう。不幸中の幸いだ。
「それと、麻元さんにも協力してもらってた」
「え、麻元さん?」
「だから前見て!」
前の車との距離が空いていて、そろそろ進まないとクラクションを鳴らされそうだ。ほんのりとアクセルを踏んで車を前に出す。
「すまなかったな」
「大丈夫。修は口が下手で、すぐわかった」
「ん。確かに」
「何あのヒーローインタビュー」
「やめろ」
顔が赤くなるのを感じる。
「本当のこと伝えようとすると、いっつもああなっちゃうのよね。本とかちゃんと読んだほうがいいよ?」
「……読んでるつもりだけどな」
と言ってふてくされると澪は言った。
「ホラ!その顔、ちょっとふてくされた感じ!久しぶりー」
「おちょくるな」
「あの時の修はおじさん臭くて、変に口がうまかった。なんか違うななんて、すぐ思ったの。中身違くない?この人ってさ」
「マジか……」
修は頭を抱えた。
「どうしたの」
「やっぱりその人にはなれないんだなって思ったんだ。俺も入れ替わってる間、相当下手クソだった気がするんだよ」
「無理よ。修だもん。営業?ムリムリ」
渋滞が解消されて、道路にあるすべての車が順に動き始める。
「ま、俺も分かってたけどな」
「何を?」
「君は週刊誌に軽々しく、本音をばらすような人間じゃない」
「プロですから」
「お互いプロだ」
ふと気づいて斜め上を見る。そこにはちょっと背伸びをして鏡に合わせた澪が、ミラーを通して修の目を見た。
「その眼が修だよ」
「ありがとう。何だか、人生を二回転半して戻ってきたような……三六〇足す三六〇足す百八十で……」
『目的地、右側です』
「はい着いたよ。そのお店」
セリフは今ひとつ、決まらない。
「ヤリミズディーラーズ川口店……間違いないな」
高峰はそう言って、車の速度を落とすとステアリングを右に切り、店へと入っていく。
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