最低の評価


 早速コンビニで正体がばれ、逃げ帰った。

 まだへたくそ過ぎる。

 以前にあった用心深さを取り戻すにはもう少し時間が必要なことを痛感する。

 ユニフォームに着替え、ブルゾンを羽織る。高級マンションのドアロックを解除し、ティガーXLに乗るまでと、そして運転するのには苦労した。以前の体だと多分オートマに乗っていて、操作に慣れてしまっていたからだと考える。操作の仕方は知っていても、気分がそうではないからシフトチェンジを忘れてしまいがちだ。


「モニターはついてるな。ああ、良かった」

 と言いながらハンドルを切り、教習車両のような操作で球団関係者用駐車スペースに車を入れ、ドアを開いて荷物を持ち、歩く。

 清潔な緑色の空間、そして真っ白い照明はプロ仕様で、一切の不備がない。

 九時。

 すでに四、五人が到着して道具をメンテナンスしたり、ウォームアップを始めている者もいたが、目が合うなり印象がいいとはあまり言えない苦笑いをされて押し黙ってしまった。

「麻元さん」

 思わずそう言うと、すでにプロの仕事師の凛とした顔になって、機敏に歩いてくる麻元は答えた。

「おはよう。高峰。大丈夫か?」

「はい」

 麻元は自分の準備をしながら、準備のできた高峰に尋ねた。

「何が起きた?」

「言っても、あまり納得されないとは思います。でも事実です」

 簡単に説明すると、麻元は顎に手をやってうなった。

「身体が入れ替わった?」

 はい、と頷いて高峰は言った。

「それまでは確か……車に関する仕事をしていた気がします」

「信じられんが確かに気配が違う気がする」

「信じてくれますか?」

「俺はキャッチャーだ。人の目を見て仕事をしてる」

 と言って麻元は足の先から頭のてっぺんまでを見まわした。

「全体から出てる気配も読む」

「昨日までの自分はどんな感じでしたか?」

「荒れてたよ。そうとしか表現できん」

 高峰は表現すべき言葉を失って黙った。


「知ってるかもしれないが、ペナント開始早々やらかしまくってる。ここから挽回するのは並大抵じゃない」

「行きがけにネットニュースを見ました。理解しています」

「追い詰められてるぞ。今日の試合で結果を出さないと」

「やってみせます」

 その言葉は以前から使っていたようで、口に出してももうすでに力を与えてはくれなかった。

「ああ。小畑監督にも話を通せよ。何せお前に一番頭を抱えていたからな」

 複雑な気分を飲み込んで、再び高峰は頷いて答えた。

 昨日の成績は、三回に二失点。交代し席を奪われていた。


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