Ⅶ 回天:百八十度

夢幻



 この場所のピッチャーポジションは、広大な円形のドームの中心から、全天周に広がる

 すべてを見渡すことができる。

 屋根は開き、頭上には巨大な円を作る構造物の向こうにすっぽりと抜けた紺の空が見える。

東京都内ど真ん中のはずなのに、今夜は砂漠の夜のようにたくさんの星が瞬いている。


 そのもとには清潔な白いスポットの光がいくつも点いて、自分の体も真昼のように照らし

 出されていた。

 しかし、誰もいない。

席の一つも埋まらない静けさの中に、気が付くと高峰は、アベンジスの真新しいユニフォームを着てそこに立っていた。


 ハッとして思わず身体を両手で叩き、そして頬を両手で覆い……そして理解した。その気配に振り返ったとき。

 そこに立っていた待ち望んだ女性は、整地されたマウンドにはふさわしくなかった。



 白い光沢のドレスとヒールのパンプス、美しくつやのある黒い髪。

 そして、待ち望んだ瞳。

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