09 &質疑
「は、はあっ…!?何が…!?」
「おう、起きたかレーナ」
「え…フリーナさん、私は――」
「ああ、エルアちゃんと2人で倒れてたって聞いたぞ。全然目ぇ覚めないから結局家まで送ってやった、感謝しろ」
「そ、そうか…。ありがとうございます………そうだ!え、彼女はどうなったんですか!?」
「エルアちゃんか?さあな…吐血してたらしいから、恐らく内臓にはダメージが行ってるだろうが。詳しいことはよくわからん」
「内臓…。って、大丈夫なんですか…?」
「心配すんなよ。丁度クレインさんが事務所にいたからあの子は助かる…。アンタの体も今、あの人のスキルで再生能力が桁外れに上がってるよ」
「そうなんですね。確かに痛みも引いてるし…ッ――良かった…」
「てかアンタは覚えてないのか?あの子にどういう攻撃したのか、とかさ」
「…?えっと…たしか最後、私が腹殴って『止まれ』って…」
「…いや、それだろ。内臓だけ止めたら――潰れるだろうし、肋骨なんて止めようもんなら直ぐ折れて悲惨な事になるぞ」
「確かに…そうか…。あッ、謝んないと――」
「いや、それは別にいい。…というか謝るな。ヒットマンの訓練ってのは殺し殺されて上等、尊敬こそすれ手心は加えないもんだ」
「そうですか…分かりました」
「ま、アンタが心配ってんなら、明日勝手に事務所行っていいぞ。誰かにつけられたり迷子になるのは勘弁な…。んじゃ私は寝る――明日から、出張だし」
*
フリーナは心配していたが、家から事務所までは殆ど一本道…迷うことはまずない。まあ
「開いてる…。まだ日も上がってないのに。まあいいか…たのもー」
レーナは少し後ろめたさを感じながらも、朝一番に戸を開く。記憶より薄暗い玄関に迎えられ気が引けてきたが、言い訳にならないと割り切って奥へと向かった。
「——グレン、正気か!?全人員の半分さえ使えない状況で、そんな任務は受けられない!ただでさえリスクが大きいってのに…」
なんだ?部屋で誰か揉めている?シークが受ける任務の話か?
「やはりそうだよな…。野郎も無茶を言うもんだ」
お、揉めてはいないみたいだな…。なんの話だ?
「それともあの男を投入するか、あるいは――」
「ヴォルクの事か?俺はアイツをあんまし信用したくねえけどな。どちらにせよこの件の確定は6月まで待つ必要がある…気長にいこうぜ」
誰だ?結局よくわからないな…。まあいい、2階にでも行ってみるか――。
「ああ…。で、要件てのはこれだけか?マーク」
「…そのつもり、だったんだが…。ちょいとした話が増えたみたいだ。おーい!入ってこいガキ!!」
(…え。が、が、ガキ!?…まさか、俺のことか!?)会議室から背を向けた途端に予想外の呼びかけがあり、レーナは飛び上がった。
だが相手が相手、そのまま固まっているとどうなるか分かったもんじゃない。一気に息を吸い込むと、酷く縮こまりながらも白色のドアへ歩み寄る。
「すぅ、すいません…入ります…」
「おう」
歯を食いしばりながらドアを抜けると、赤い机を挟んで座る2人の男が活気のない視線をこちらに向けていた。
「…」
「マーク、この子供は一体?」
「…いや、お前誰だ?見たことねえ面だな、てっきり訓練生かと思ったが…。部外者ならなんでここにいる?早くこの事務所から――」
「あっちょ、待って!!」
甲高い声に応じて3人が一斉に視線を向けると、そこには巨大な鳩を肩に乗せたクレインが膝に手を当て立っていた。
「待ちなさい、部外者じゃないわ…。というか貴方達には伝えてなかったけど、訓練生希望者として迎えることになった――レーナって子よ」
それを聞いた男の一人が溜め息を漏らし、頷きながら苦い笑みを見せる。
「そんなら早く言って下さいよ、危ないじゃないですか…」
「ごめんごめん」クレインは三つ編みを垂らして頭を下げる。
「ええ。…しかも新しい訓練生に…なるかもしれないってことは、空きも出来たんですよね?どの子がいなくなったんですか」
「いや、空きはできてないんだけど」
「??」眼前の机へ腰を下ろしたクレインに顔をしかめながら、男は首を傾げる。しかしクレインは彼の方をちらとも見ることなく続けた。
「寮はもうスペースないから、この子は拾ってきたフリーナの家に住まわせるってさ。ホラ、4日前くらい?ウェイカーさん達がちょいちょい揉めてたでしょ…そん時に決まった」
「え、私そういう扱いだったんだ…」
「なるほどね」
「ふぅん…フリーナの奴も、もうそんな事ができる年か…」
マークと呼ばれたその男が、神妙な顔で煙草を口に戻す。すると彼は何か思い出したように首を捻らせ、「いきなりですが、まだ聞き込まないといけないんで、俺はこれで」と言って部屋を後にしていった。
「お疲れー、頑張りなよ!グレン、君も10時に落ち合う相手がいるんじゃ?新聞ばっか見てないで準備しなよ」
「…へいへい」小言を流して新聞を畳むと、その男もぶっきらぼうに背を丸めたまま机だらけの部屋から出ていった。
「よっこいしょ…さて」
2人を見送るとクレインは机から降りてこちらに向き直り、襟を正しながら口を開いた。
「でレーナ、こんな朝早くにどうしたの?君は」
「いや、朝早いかは分かんないですけど…今日は、エルアって子に会いたくて」
「ああ、そういえばあの子危なかったね…。訓練は9時からだけど、彼女は暫く様子見かな。まあ全然動けるから、一応ここには来ると思う。話はそん時にすればいいよ」
「ありがとうございます」
「うん。それまでどーする?」
「どうしましょう…なんか…聞きたいことがあるんですケド」
「お、なに?」クレインがこちらに椅子を差し出してくる。長話になる予感をひしひしと感じながら、レーナは腰を下ろした。
「フリ-ナさん、貴女がいるからエルアさんは大丈夫と仰ってましたが…あの人がそう確信できる程強力なスキルがなんなのか、私知りたいです」
「ほうほう。つまり私のスキルが気になりますよと」クレインは得意げに腕を組んだ。いかにも話したがっているであろうその仕草を見せられたレーナも、思いがけず口角を吊り上げる。
「はい。私も助けて貰ったみたいですし」
「そっ!私が助けました!危なかったからねえ君も…頭から血を流しすぎててさあ」
「マジですか…」意外にも死の淵だったようで、レーナは背筋に冷たいものを感じた。
「子供にはあんまり殺す気でやらせたくないんだよねえ、歯止めが利かなくってさ。実際に何人か…いや、こんな話聞きたくないよね。そんなことよりガイアだ、メインスキルの話」
「え、いや、ガイア?」
「そ、私のメインスキルはガイア。どういうモノかって言うと……いや、見るまでのお楽しみってことで」
「え」
「他に質問は?」
「ちょ、教えてくださいよ」
「えー、やだ」
「そんな…」
この人の意図が読めない。レーナは追及を諦めると呆れ顔で椅子を引き、頑なに口を割らないクレインへ視線を向けながら次の質問を考え始めた。
「質問、かぁ…」
「お、なんか湧いてきたかい?」
「んー、あのぉ…じゃあ…この国って、アサシンは合法なんですか?」
「——この国?」
クレインが目を丸くする。その場しのぎで言ったはいいもののなんとなくまずい質問であった事に気付き、レーナは即座に「あ、いえ、この国に限らず」と弁明した。
「…なんか知的だね、君。まあ気になるなら教えてあげよう」クレインは目を瞬かせたもののレーナへの疑りはないようで、さして突っかかることもなく語り始めた。
「いい?この国——アラジアは特例で、殺しが正式な職業として許可されているの。でもやることは変わらなくて、遺族や傘下の人からは恨まれるんだけどね」
「——へ、へえー…そゥなんですねぇ」素気なく返したが、なんの気ない質問への答えにレーナは内心酷く動揺させられていた。
今自分がいるのが、ヴリーダの隣に位置する帝国である事には安堵していいだろう。だが、そこに大きな問題が視えた。
まだはっきりと残っている前世の記憶において、アラジアという帝国でアサシンは――
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