01 王の遺骸
「バっ!!なあッ………マジかょ!?とうとうアイツが殺されたぞ!うお…。よっしゃあああ!!!」
「え、なによ!?急にそんな、人聞きの悪い…喜ぶことじゃないよ、誰かの
「まあ、いつもならこんな事言わねえけどなぁ?こりゃア
「あぁ…。フーン…誰が殺されたの?死刑囚か何か?」
「ははっ、ラーザの野郎さ!報道によれば、民衆のリンチに
「え、本当!?…まさか、最ッ高じゃない!ようやくあの悪政野郎から解放されるのね!」
「ああぁそうさ!まさに吉報だろ!フッフー!!!」
「そうね、やったわ!!!御近所にも知らせないと!アハハハ!!」
*
…………
あと一か月で
さっきまで”ヴリーダ帝国71代目皇帝”だった…ラーザは、もう
俺はなんで、皇帝なんて夢見ちゃったんだろう?
馬鹿みたい…いや、本当にどうしようもない馬鹿だ。神様も何を考えて、俺みたいな奴に”
(あまりに無様だ…。我ながら、まったく同情もできねえ)
自責と絶望で一杯になった胸が空っぽになるまで息を吐き出すが、すぐに息苦しくなって咳込む。これは、もうダメだ…そろそろ本当に死ぬな。さっきから、痛みさえ全く感じねえよ――。
(はァ…俺もここで終わりか。つまんなくて短けぇ、最低で最悪な…人生だっt…………あれ?ん…?)
いや、なにか、なにかがおかしい。
(待ってくれ、俺は…)そう、ついさっき…死んだはずだ。間違いなく、黒装束の野郎に銃で額を撃ち抜かれた。生きていられる筈がない。なのに、この…自我は一体…?
(——は?は??もしかして…これから、その…転生ってやつでも起きる…のか?わからない…。それとも、ここが既に…あの世なのか………?)背筋が冷たくなる。このまま目を
(チクショウ…なんで死んだ後まで…こんなに悩まされるんだよ…)訳が分からない。俺には政治すらも分からなかったのに、人間が死ぬことの真理なんて理解できるかよ…。神はいったい、俺に何をさせるつもりなんだ――。
「ハァ――」
(これが俺の、罪の行き先ってか…。あぁもう…それしか頭に浮かんでこねえ。もう俺は何したって、自分の尻拭いァできないのかもな――)
全てを諦め、心が深く深く沈んでゆく。もう自分の人生なんてどうでもよかった。ラーザにとって、愛する国に何をしたのか考えるのは何よりも辛い拷問であり、それを突き付けている相手が自分であることも――とんでもなく下劣な事実として受け入れるしかないのだ。
「うゥ、なんで…なんで――」目元が腫れてきた。地面に擦れた脇腹がズキズキ痛み、小さな嗚咽にうめき声が混ざる。
「なんで…俺にクッソみてえなスキルを寄越しやがったんだ…!もう、やめてくれよ!!姿を見せやがれ!!ガぁあ、おい――!!!誰か………」
喉を軽く潰す勢いで叫び始めるが、むろん何の反応も返ってはこない。数秒の沈黙を感じ、それに耐えきれなくなるとまた、ラーザは狂ったように喚き散らして泣いた。
そうして胸の内に溜まったものを吐き出し続けていると、彼の中にあった底なしの
(アァ、駄目だ…結局なんなんだよこれは…あの国は、あの国は…俺が……)
涙が乾き、目が強くひりつき始めた。だが、少しは頭が冷えてきたかもしれない。
(チクショウ――。えぇと…なにを!?なにをすればいいんだ?えぇと…だから…え………。クソッ!)
ラーザは手を顔面から離し、空いた両拳を頭上で強く握る。気の迷いから、このまま終わるなんて絶対に嫌だ、とでも思ったのだろう。彼は力を振り絞って両目を恐る恐る開くと、地面に両手をついて力なく立ち上がる。今、目の前に何があろうと構わない…。顔を上げ、不格好な仁王立ちをして真っすぐ前を見つめた。
「何が何だか分からないが――また生きれるのなら………。駄目だ、死にたい…けど、死にたく…ねえよ…」
数分かけてようやく目を開いた彼の、頼りない視線の先にあったのは、完全な灰色になるまで古びきった祭壇と、その周りに転がる何百もの頭蓋骨。ステンドガラスの窓はススがついて変色し、壁と床には無数の亀裂が入っている。どう考えても教会の見てくれをしているものの、本来あるはずの椅子も十字架もそこにはなく、代わりに無数の埃と人骨が空間を覆いつくしていた。
「な…え?………く、ウゥッ」ひとしきり見渡すと、ラーザの喉に何かがこみ上げてくる。ここは…本当に地獄なのかもしれない。恐怖で息が詰まり、足の力が抜けてその場にへたれ込んでしまった。空間の禍々しさに圧倒された彼は、全身に鳥肌を立て、動かせる体がここにあるという事実を信じられずにいる。
(クッソ、なんだよここァ…早く、早く脱出しなきゃあ…)体中に埃を付けてじりじりと這いずりながら、祭壇に背を向けて扉へと向かう。すこしでも動かなければ…たぶん、窒息するか凍え死ぬかの二択だ。それでは話にならない。
「ぐが………あァ”啞aAぅ――」異常に冷たい人骨に阻まれ、言葉にならない叫びを幾度となく上げつつも、なんとか玄関の鉄扉へ辿り着くと、彼は腰に手を当てて震えながら立ち上がる。
(いったい、この扉の外には何があるんだろう?まさか、外に出たら死ぬのか…?もしかするとここが、俺が生きる最後の場所になるかもしれない――)悍ましい想像にぎょっとしたラーザは、体をよじって後ろを振り向く。しかし建物の中は先程となんら変わらない、汚れた骨の山だ。ああ、そうか、こんな状況じゃ何処にも正解はない…。それなら、ここにいたって…しょうがないじゃアないか。
ラーザは扉へと視線を戻し、2m程の高さにあるドアの取っ手に指をかける。ああ…それじゃあ、見てやろうじゃないか。糞のような大罪人が死んだらどこへ行くのか。
かつての糞皇帝は強く打つ自らの心臓を抑えながら、微かに光沢のある扉を出来る限り強く引っ張った。
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