白い私と赤い俺

00 子守リ唄

 夜闇を染め上げる炎が、頬を焼くように燃え上がる。誰もいない庭の中、芝に乗った露だけが、月の明かりで輝いている。


 王は、そっと息を吐き出した。浅く折れ曲がった低い背に雨を受け、その頭は更に下へと垂れる。分厚いスーツに乗った真白の髪を覗かせて、彼は孤独に拳を握りしめていた。


 止む兆しのない雨音。王は迷子の子供のように歯を食いしばる。髭の先から、微かに濁った雫が落ちた。


 雨がさらに強くなる。慈悲のない水に叩かれる背中は異様なほどに縮こまり、落ち切った肩からは微塵の気力も感じられない。



 王は、いつまでも動くことはなかった。しかしどれくらい経っただろうか、地面が雨を弾く音の中、誰かの歌声が彼の耳を震わせる。


「らんらんららんら、らんらんらん」


 それと同時に、何かがこちらへ駆け寄ってくるような気配。


(なん…だ――?)王は、おもむろにそちらへ手を伸ばした。




 と、銃声。


 頭の中が雨水に打たれる感覚。


 目に染み込んでくる赤黒い雨。


 そして、全身が芝に包み込まれる。覗き込んできた男の耳から落ちるアクセサリーは、王が最期に目にしたものだった。

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