聖夜
残り香
雪降る聖夜はこんなにも暗かっただろうか。
誰も俺の隣を歩く人は居ない。
いるのは、彼女の残り香だけだ。
気分転換に、ある教会へ行ってみる事にした。
そこには沢山の明かりが灯った蝋燭が、床一面に置かれていて、どこか神秘的な空気を思わせるような場所に感じた。
その蝋燭に導かれるようにして教会へと進んでいくと、ステンドグラスから漏れた光が1つの像に集まっている。
何処か浮世離れした幻想的な世界にいるかのようだ。
そんな中、ある出来事が起こった。
今となっては信じられない事だが、あの時、あの瞬間起こったのをこの目で見たのである。
瞬く間に強い風が吹いてきたと思えばその瞬間、俺はまだ知らない、未知の世界に立っていた。
すると、何処からか彼女の香りを纏った暖かい風が俺に抱き着くように吹いてきたのだ。
その出来事に俺は驚くばかりで、声すら出なかった。
よく目を凝らしてみてみると、目の前に彼女がこぼれんばかりの笑顔で立っているではないか。
その後、他愛もない話をしながらお互いその時を楽しんでいると
「今日は会えて嬉しかった。私の想いが届いたんだね。まだまだ一緒に居たいけど、此処にずっと居てはダメなの。私はもうこっち側だけど、向こう側の人間でしょ?だから……お別れをしなくちゃ。——また会う時は、おじいちゃんの姿になってからが良いな。いつも私は傍にいるから。また今日と同じように教会に来てくれる?話しかけてくれる?クリスマスの夜、待ってるね。大好きだよ。——また会う時は年を老いてからね。それまでは幸せな人生を歩んで——」
そう彼女は言った。
俺は幾つも言いたいことがあったが声にはならなかった。
彼女は言い終えるとすぐに光の粒となり、消えてしまった。
その光景を唖然として見ていると、いつの間にか教会に戻ってきていたことに気が付いた。
今の出来事が嘘だったかのようにひっそりとしている。
信じたくても信じられない。
しかし、今は外を見ても暗くは見えない。
雪に光が灯ったかのように明るい夜に見える。
今までの聖夜とはまた違った聖夜だ。
心の中で彼女にお礼を言う。
「ありがとな。幸せな人生が歩めるように頑張るよ。」
すると彼女からの返事が聞こえた気がした。
(独りじゃないからね。頑張って。大好き。)
「あぁ、俺も大好き。」
◆◇◆
エピローグ
その後、俺は彼女の言う幸せな人生を送ることが出来たのではないかと思っている。
これはあくまでも推測だが。
そして、しわくちゃになった顔でまた彼女と再会を果たすことが出来た。
これからはいつも一緒に居られる。
その幸せを二人で噛み締めながら。
ほら今も……
二人の幸せそうな笑い声が聞こえてくる。
もしかすると、貴方にもこの声が聞こえてくるかもしれない。
耳を澄ましてみて……ほら、きっと聞こえてくるから。
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