第63 -潤一25
俺が死んだ時、綾香は自身の運命を捻じ曲げて、俺を救ってくれた。
弾け飛んだカケラに絆を結んで俺を閉じ込めたのだ。
まるで渡したくないおもちゃを避けるみたいにして。
これが俺の健忘の正体だったのだと思う。
不完全な力を使い果たし、俺を死の淵から助けたせいで俺と綾香は結ばれないはずだった。
あのまま生贄を変え、俺を忘れ、幸せに過ごさせていればいいものを、とある目的のために場を動かした女がいた。
自らを友人と位置付け擬態していた幼馴染のクソ魔女様だ。
そのままならいずれ収束して同じ結果を引き寄せる。そう結論付けた未那未によってそのストーリーは変えられた。
綾香が運命を変えたのならばいずれ俺との絆は消えていたのだと思うが、天井にあったカケラは情念に溢れていて、未那未にとってそれはどうにも不安だったようだ。
破壊すりゃいいじゃねーかと言えば、俺の精神に多大な影響を与えかねないと拒否していたのは覚えてる。
俺が閉じ込められている間も破壊しなかったみたいだしな。
というか俺を殺した綾香の記憶消してんじゃねーか。というかお前の記憶も飛んでんじゃねーのか。
いや、これも聖女によるご都合主義か、あるいは魔女による嘘偽りか。
「……」
どちらにせよ、おそらくあれが砕けたのだから未那未も思い出しているのではないだろうか。
それこそが運命だとは思うのだが、厄介なことに、魔女は運命を信じない。
愛は勝ち取るものであって、譲られるものではないのだとか。
普通そうだろと言ったがあのクソ女、聞きやしねぇ。
『舐めないでください。相手は
何言ってるか一ミリもわからなかったし、「だから世論を変えてみせます」、なんて斜め上の馬鹿な発言の意味もわかってなかった。
「サブヒロインだって攻略するべき」そのスローガンで世論を変えると宣っていた未那未が暗躍したのかはわからないが、最近では確かに当確間違いなしの幼馴染ヒロインがよく当て馬にされていた。
全然気づかなんだ。
なんか幼馴染可哀想だろ…。
長年育んだ絆を何だと思ってやがる。
というか自分を見てるみたいでキツいんだが。
「こんなのおかしいと思うのですけど、パパもそうオモイマスヨネ…?」
「ソウデスネ」
アニメでも漫画でも、一度でもそんなシーンを見れば、綾香は少し舌足らずな口調で運命を引き寄せ、俺は期待通りに答えてしまう。
これはいけないと少し古いアニメに変えてみると、数多いる主人公は、いろいろなヒロインに酷い目に遭っていた。
照れで殴られ飛んでいき、壁にめり込んでいた。
1tと描かれたハンマーで床にめり込んでいる奴もいた。
古い。いや違う、これ死んだだろ、なんてシーンに溢れていた。
だが、明らかに致命傷なのだが死んでない。これは俺が体験した祝福で、死ぬと同時に生き返らせているのだろう。
これの正体が、聖女の御技だと知っていると、ラブコメが途端にホラーに見えてしまう。
こぇーよ。
そういえば最近は滅多に見ないな…暴力系幼馴染。
時代や教育もあるのだろうが、魔女が聖女を駆逐していった結果に思えてならない。
「えー、でもこいつらさぁ、面倒くさくない? 振り回されてる風があざといって言うかー。ただ振り回してるだけじゃん。主人公可哀想だし。ネェ、パパ?」
「そ、そうかな」
虹歌の声には抗えそうだ。
それにしても、今を生きる虹歌には、古いアニメは響かないようだ。
あの不思議世界に居たせいか、自らの魂をモノに化したからか、二人には不思議パワーを感じる。
首輪とチョーカーを外すと、まとわりつくオーラと言えばいいのか、アザの周囲に羽衣みたいにふわふわとした何かが彼女達の首の周りを漂っているのがわかってきた。
なるほど、これが…。
おそらく未那未が見ていた世界なのだろうが、俺こんな年でこんな変な力に目覚めたり感じたりしたくないんだが。
魔力とか知りたくなんてないんだが。
そういうのは中学生とか高校生にくれてやれよ。マジで。
◆
目覚めた俺の感性だけは未だ15年、いや30年も前のまま止まっていて、サブヒロインの扱いはともかくとして、例えば同性の権利や、性に対する事細かい定義が生まれていることは、僕としては知ってはいるが、俺として心から認めることは出来なかった。
俺の持論だが、アブノーマルはアブノーマルだからこそ良いのであって、ノーマルの権利を求めるなど、自らの首を絞めるだけだと思うのだが。
心のどこかに区別が立つからこそ、リスペクトなどが生まれると思うのだが。
言葉によって定義してしまうと、逆に差別や誤解を生むと思うのだが。
もしかするとこのような愛もいずれ弱まり、また次の時代が巡るのかも知れないが、俺にとってはやはり今の時代は歪に見えた。
マッチングアプリが普及したからか、不倫などは実際増えているように思えるし、パパ活なるものも流行っていて、それに比例するかのように、社会には法ではない私的な粛正が当たり前の空気になっていた。
そうなればなるほど、人は禁じられた遊びに夢中になる生き物なのだし、より強いスリルを求めるだけだと思うのだが、この時代のこの流れは止まらないのだろう。
それらを踏まえ、例えば鑑みたとしても、俺の今のこの状態は許されないと思うんだが。
「「パパ、今日、久しぶりにどうかな…?」」
「は、ははは…はは、は……」
遂に来たか…。
妊娠中なんだからやめておいた方が良いと思うんだが、どうやら多数決に抗えない仕様のようだ。
クソがッ。
ただ、それよりも、聖女に生贄を差し出す話に俺は疑問を持っていた。
いわば魅了とも呼ぶべきこの災害を、生贄によって封じたいのはわかるが、問題は封じた後だ。
それは町村には無理で、俺なら可能だったことでもある。
そこを未那未は語っていない。
だが予想はついている。
あいつは綾香をニアだと言っていたのだ。
ニア、ニアー…マニア。
あのクソ魔女が。
元から俺を用い、綾香を魔女にするつもりだったな。
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