第64 -潤一26
綾香による自作自演──俺を絞め殺したことは覚えていないようだ。
ご都合主義的にはこの未來を手繰り寄せた最初のキッカケとも言えるが、思い出す必要はないだろう。
また災害にでも巻き込まれたら堪らないからな。
虹歌は、幼い頃からの初恋だと言ってくれていて、それ自体は嬉しくは思うものの、魔女故か、結納金なんて言い方をしながらとんでもない額のお金を用意していて普通に引いた。
そこまで俺にも金にも執着するなんて、あいつの親の属性を引き継いでいるのだろうとは思うが、その才がすでにいろいろとfireしていて、火傷では済まなそうで怖い。
同時に、二人を罠に嵌めてほくそ笑んでいるであろう性悪魔女が浮かんでくる。
あいつがどこの時点でこの未來を狙っていたのかは知らないが、碌なもんじゃねぇ。
「「パパ、今日、久しぶりにどうかな…?」」
「は、ははは…はは、は……」
「はぁ!? 次譲るっつってたっしょ!」
「よく考えてみたの。わたしの方が後がないのよ」
「あー大丈夫大丈夫。最近高齢出産流行ってっし」
「今何て言ったのかしら?」
「耳まで遠くなっちゃったの? 末期ウケる」
また妻…親子…母子喧嘩が始まるのか…。
こうなると長いんだよな…。
というか、今まで付き合ったことのない俺は、いきなりの新婚で、そういう夜の営みってのは、もう少しこう、比喩とか暗喩とか、そんな感じで確認し合うものだとばかり思っていた。
初めての時はいつの間にか宇宙だったし、二人とはアブノーマルなことばっかだったし、もう少し普通の…というか普通って何だっけか。
「奨学金なんて返してたら晩婚にも高齢にもなるでしょう!」
「何の話? てかママ大学行ってないじゃん」
「ぐっ、あなた本当なら高校生でしょう! せめて通信でもいいから行きなさい!」
「え〜? そんな義務無いしぃ〜」
「高校くらいは子供の義務でしょう!」
「違うし。義務教育って親に対する義務だし。子供にじゃないし。歯車にするために産業革命から導入しただけだし。もう時代遅れだし。てかもう人生のゴール決めてるし。あとダブルハット決めるだけだし。え〜? 将来の夢〜? 少子化末期だし、いろいろな血途絶えたら絶対支配できるし。ジュンくんで満たせるし。違う産業革命だし」
「…」
虹歌の発想が怖くてたまらない。
あと何言ってるかわからない。
というか日に日に複雑な感情が芽生えて仕方ないんだが。
当たり前だろ!
十何年封印されてたと思ってんだ!
最後の記憶、自殺直前で強制暗示状態だったんだぞ! しかもあれ絶対呪いだろ!
いや、待て、待つんだ。諦めるにはまだ早い。
上司に聞いた話だ。
なんでも昔後輩に言われるがまま貞淑な妻を開発したらしく、逆にミイラになったそうだ。
仕事を頑張って、なんとなく疲れたぁって空気を出せば割と拒否でき……いや…待てよ…?
綾香が超自然災害クラスの聖女で、虹歌がその血と執着魔女の系譜だろ…? 血が関係するのか、突然変異なのかは知らないが、おそらく虹歌も聖女候補なんだろう。
あまり考えないようにしてたけど、マジかよ…。
機嫌損ねたら洒落にならない…? 流れに逆らったら何が起こる…?! いや何がが起こるのは確実だ…!!
冗談じゃないぞッ!!
あっ…! くそッ! あのアマッ! 連絡取るしかねーのかよ!! これも見越してたんじゃねーだろぉなぁぁッッ!!!
◆
俺は少し走ってくると告げ、夜の公園に向かった。
『お久しぶりですね』
「…ああ」
月明かりの下、ベンチに座り、覚えている番号にかけたのだ。
『ようやくのお目覚め、と言ったところですか。ご機嫌いかがですか?』
「最悪に決まってんだろ。いきなりだが答えろ。なんで綾香の手を汚させた」
『はぁ。久しぶりだというのに、綾香の話ですか。女心をまるでわかっていませんね』
「知るか。それより答えろ」
あの白い首輪、お前が何か唆したんだろう? じゃないと綾香がそんなことするわけがない。
『…ああ、契約の際に記憶が混ざった…といったところでしょうか。流石は腐っても聖女ですね』
「最初から魔女にするつもりだったな?」
「ふ、ふふ。いいえ、いいえ、いいえ。そんなに簡単には
その言い方、やっぱりそうか…。
こいつは俺が欲しかったわけではなかったんだな…。
「俺の気持ちを弄びやがって。死ね」
『あん❤︎ ふふ、ジュ、宮田君も、もちろん好きですよ?』
「ッ、…ほんと死ねよ」
『私、概念推しなんです❤︎ 知りませんか? 石が好きな君が好き❤︎、みたいな感情』
やっぱりか。
お前……綾香好き過ぎだろ。
「誰が石だ。意味わからん事言うな」
『ふふ。杖でしたね。それにしても…その悪態、久しぶりですね…。でも最大概念で魂込めなければ届きませんよ❤︎』
そう、それだ。元々俺は怒りっぽい性格はしていないが、それでも流石にこれは許せないと怒っても、目覚めてからは特にそうだが、心で叫ぶだけで表に出てくる感情がどこか平坦なんだ。
聖女の探し当てた生贄ってのも要は主人公でチート野郎だ。それを抑え込むためにそう塗り替えたんだろうが…
俺チートも何にもないし主人公らしいことしたことないんだが?
今更主人公なんて言われても困るからいいけどよぉ。
『それはそうですよ。私がコントロールしてましたから❤︎』
「杖にする為にか…このサイコ女が。いつか絶対死なす」
『あん❤︎ 何よりの愛の言葉ぁ❤︎ でも違いますよ。綾香のせいです。久しぶりですし、言いたいことも聞きたいこともありますけれど、ふふ。それよりこんな夜に出掛けて掛けてきて…ニアを放っておいていいのですか?』
「…あん?」
放っておくも何も…いや、なんで、俺が出掛けたなんて…知っている…?
『早く帰らないと災害起きますよ? 』
「…どういう意味だ?」
俺が生贄としているからもう大丈夫なんだろ?
『堕落しかけの聖女なんて、例えばそうなるじゃないですか❤︎』
「…堕落…しかけ…? そう…なる…?」
『──首飾り、掛けれたらいいのですが❤︎ 』
「首飾り…? ……ッ!」
俺は首が落ちた時のことを思い出した。
おま、くそッ! あのアザ人質だったのかよッ!!
うぉぉぉおおッッ!! 綾香ぁぁぁああッッ──!!
俺は大慌てで家に帰った。
◆
「あ、綾香ッ、さん!!」
「ど、どうしたのですか? そんなに…慌てて…汗もすごいですし、真剣な目をして…ああ、ふふ、最近物騒ですものね。わたしもこの子も大丈夫ですよ?」
「そ、そうか……虹歌ちゃんは…」
「虹歌は…もう寝ましたよ」
「そっか…」
どうやら二人とも無事なようだ。焦ったじゃねーか…。おそらく安易に俺がこの輪から逃げないように、ってところだろうが…無茶苦茶だ。
『──愛に理由なんて不粋、無いんですよ❤︎ でもそうですね。免罪符が欲しい、と言ったところでしょうか。ふふ。では、私の為に綾香を──』
どこまでも俺の愛を弄んでくれやがる。
そんなこと、もうするわけないだろ。
「──潤くん?」
「ッ…はは、年甲斐もなく走り過ぎたよ。ははは、シャワーでも浴び──」
「あの…お養母様も、お休みになられたんです…」
綾香に裾を掴まれた。
俺は途端に固くなる。
もちろん照れもあるが、思考が止められる。
「お背中、流しましょうか♡」
その言葉に、流されそうなくらいの、大津波みたいな圧を感じるんだが…!? いや、流されない! 俺は流されないぞッ!
俺の愛は! 一途で! 純粋で! 頭のおかしい未那未に対してでも無償の──
「ダメ、デスカ…?」
「ッ、ウレシイヨ」
そして俺はザバンと流され、その後、精も根も尽き果て、さらに普通に会社に遅刻した。
くたばれ魔女めッ!!
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