第54 -虹歌8

 世が世なら天下取れちゃうくらい運命値が高く、ラックが極振りしてるような女を「聖女」と呼ぶのだと言う。


 私もだけど、半分だけらしい。


 本当にパパは余計なことをする。


 まあ、それ言っちゃうと、私が生まれないし、それこそがママより私の方が運命だとする根拠なワケだし良いんだけど。


 まあ、それならなんでパパなんかと、とも思わなくはないけど…。



「でも、前はそうでもないって言ってなかった?」


『多分ママさん、はいぱーいんふれーーしょん状態』


「何十年前の馬鹿話よ…インフレ率、年率換算12875%って意味よそれ。ギャグっしょ」



 100円のものが一年後いくらになると思ってんのよ。


 供給力のない後進国ならともかく、この先進国で信じるなんてどうかしてるわ。


 尤も、それもそろそろ怪しいけど。このまま衰退すれば、遠い未來じゃないかもね。


 逆説的予言ってやつね。



『凄そうが伝わるかなって使ってみた。でもそれくらいの運命値。愛が供給されたからかな』



 …じゅんくんのことか。


 じゅんくんのことかぁーって供給違うし!



「それ奪ってるだけだし! サキュバスだしっ! あのBBAァァッ!」


『ご、ごめん。そ、そうそう、今からどうするの?』


「……一応…今のところ味方…だし、敵対しないように…掻い潜る…それも楽しそうだし…そう、そうよっ! プラン的にはそこまでハズレてないし! 家に入れればこっちのものだし! ふ、ふふ。キュートなヒップでズキンドキンさせるんだからッッ!」


『う、うん、わかった。そんなに悔しかったんだ…』


「…あ゛? なんか言った?」


『う、ううん、なんでも。そ、それにしてもやっぱりケーザイ詳しいねっ』


「…まあ、それで稼いでるし。じゅんくんに対する想いだし…目に見える形だし…」


『う、うんうん。そうだね。偉いすごい偉い。他の人には真似できないよ』


「……でしょ」


 

 私は配信で稼いでたりする。


 その中には経済のチャンネルもあって、スパチャとかスパステを貰ったりして稼いでいる。



「そうだ。思考実験してみましょ」


『う、うん? うん、いいよ』



 例えば配信で投げ銭貰った場合、私が100%黒字で、フォロワーさん達は100%赤字だ。


 当たり前だけど。


 この場合、例えば100万稼いだとして、私はお金の取得者でプラス100万の黒字。フォロワーさん達がお金の供給者でマイナス100万の赤字。


 

「この二つを足すと0になる。超簡単な輪っかの出来上がり」


『…首飾りの痕、根に持ってるって話…?』


「違うわよ。ちゃんとした経済の話」


『ちゃんとしてないの?』


「ちゃんとしたら稼げないの」


『う、うん?』


「いいから聞きなさい」



 私とフォロワーさん達に、例えばじゅんくんを足してみる。すると私が99万じゅんくんに貢ぐはず。その場合私プラス1万、じゅんくんプラス99万、フォロワーマイナス100万となる。



「足して0。当たり前だよね」


『う、うん。でも貢ぎ過ぎじゃあ…』


「だまらっしゃい」


『は、はい』



 関係はそのままで、例えばじゅんくんがフォロワーさん達の中から何か20万買ったとする。その場合私プラス1万、じゅんくんプラス79万、フォロワーマイナス80万になる。



「全部足すとやっぱり?」


『0…? 不思議…だね…?』


「ふふ。そうね」



 海外は別として、この数字をそれぞれ変えたりとか、この三つの関係の数を一万とか、それこそ無限に増やしていっても同じことが起こる。


 全て足すと0になる。


 この首の痕のように。


 

「それが実体経済の理ね」


『…根に持ってるよね。絶対』


「何か言った?」


『い、いいえ』



 そして例えば政府と国民の二つに分けても同じことが起こる。


 その場合、国民が黒字でいるためには、政府が赤字でなければ成り立たない。


 私プラス100、フォロワーさん達マイナス100と同じこと。


 これが国の借金というパワーワードの正体ね。


 フォロワーさん達の投げ銭には実際借金もあるかもだけど、政府は通貨発行権を持っている。


 それこそ例えば明治元年を1とすると、今でおよそ3670万倍もの膨大なお金を国民に供給し続けてきた。


 それが政府。それが歴史。


 まあ、間にルールチェンジは何回か起こったけど、それはまあ置いておいて。


 というか誰に対する借金なんだし。


 純粋な国の借金というか負債は過去に実際あった。戦争に負けた時にした借金だ。でもそれはすでに戦勝国に90年までに返し終わってる。


 しかも英語もそうだけど、国の借金なんて言葉、他国のどこにもないっての。


 考えたやつは天才…じゃないか。


 みんなただの勉強不足よね。



「…あるいは洗脳ね」


『あ、ならわかる』


「なんでよ」


『恐怖の大王と同じってことだよね』


「ああ、そうね。今じゃ誰も信じてないわね」


『えへへ…ホラーは得意だよ』


「ホラーじゃないし……というかアンタのは笑えないのよね…」



 ま、まあ不況だし、赤字とか借金とか怖くなるのはわからなくはないけども。


 昔から恐怖による情報操作…いや扇動ね。


 それはずーっと私達の隣にいて、今もいる。


 つまるところ、発行した政府側が国民から税で徴収し、黒字に近づけるということは、国民側が赤字になるに決まってるじゃんって話で、これに気付かれるとまずい人達がいる。


 それが私ってこと。



「そもそも税負担率は精々三割くらいまでならわかるけどね。今や五割とか無理ゲー過ぎるっしょ」


『無理ゲーは嫌いじゃないけど』


「まあ、国無くなっていいなら止めないけど」


『現実の話?』


「経済って言ったっしょ」


『お金儲けの話?』


「それは経営って言うの」



 つまり、世の中からそれだけ税で徴収したら、そんなの当たり前に経済成長するわけがない。


 つーか出来たらそれこそ魔法だわ。


 その上増税やむなしとか馬鹿なのかな。


 予算って名前で新しくお金ゼロから作ってるじゃん。毎年。


 それ増せばいいだけじゃん。


 役割的には違うけど、硬貨にも何年って書いてるじゃん。毎年生んでるじゃん。


 多分予算って言葉がミスリードなんだろうけどね。


 誰だって予算って聞いたら限られた一定量しかないって思い込むし。


 思い込みってこれもある意味洗脳よね。


 国民自ら掛かっていくスタイルは、大本営発表と変わらない。



「まあだからね。家計簿みたいに考えちゃうのが本当に不思議って話」


『…お金作れる政府が魔王ってこと?』


「ふ、ふふ。そ。この実体経済の盤上に君臨していて、信用創造という魔法を使ってお金を0から生み出し、世の中に与えたり、奪ったりする魔王ね。でも今は実質50%くらいドレインしてることになるわね」


『国民さん魔力不足で倒れちゃう』


「実際倒れちゃってるわよ」



 もし仮に私が魔王の国があって、その王国1日目に税なんてないのにね。先にお金配るに決まってんじゃん。国民の手元にお金無いんだし。働いてもらうんだし。


 少し経って金持ちが出てきたら格差是正で多く取るし、貧乏な子は頑張れって税取らないで応援するし。


 税の応能負担の原則ね。


 そうやって国民全体を潤し、経済成長させて一番を目指していく。


 国民全てが私の王国に対して、同じ目線で、より良い未來について話し合うには、この格差が何より邪魔なの。


 だって金持ちと貧乏人で話し合っても話が合うワケないし。思い浮かぶ政策も違うものに当然なるし。


 だから王国にとって格差は敵で、それを税で調整する。


 もちろん全員同じ額になるように調整なんかしたら真面目に働くのがアホらしくなるから適度にするのは大前提。


 それにまだまだ税の役割はある。例えば景気の調整弁、上げたり下げたり。つまりビルトインスタビライザーね。払わないやつはタイーホとかもある。それが国の規律を守るし生むし、再分配なんかも、国民が私のために頑張ろうと連帯感を形成するためにある。


 それが税が持つ様々な役割なのよね。


 まあ、たまに物納認めてるから違うって人もいるけど、それも結局銀行で換金されてるだけだし。


 ああ、無税国家でいいじゃないかとかも居るわね。今言った税の本質をわかってない奴だからどうでもいいけど。


 そんなことしたらいずれ円以外が流通し出すに決まってんじゃん。


 外国人何人いると思ってんのよ。


 好き勝手し出すに決まってるじゃない。


 だから円でしか納税出来ないようになってんの。ドル認めた瞬間、この国の長い歴史はおそらく終わるわね。


 まあつまり税は財源ですキリッ、だなんてギャグかと。


 いや、ギャグなんて生優しいものじゃないわね。じわじわと王国を蝕む獅子心中の虫ね。



「私の王国なら即死刑ね」


『酷い。しかもさっきと違う』


「私が魔王ならってこと。衰退したらその分自殺無茶苦茶増えるし。そりゃ死刑っしょ」


『言論のじゆーは?』


「わかってないわねー。自由はあるルールの上でしか成り立たないの。例えば警察官減らしたらどうなると思う? 公務員減らせって奴は馬鹿なの? 減らしたらただ非正規増えただけじゃない。現代風に言うならサブスクタイプの奴隷商が仲介。そこが儲かるだけ。それにお金発行してんの私よ? 間違った認識を広めて王国を衰退させようだなんて、魔王としては許せないわ」


『ま、魔王様かっくいい。よくわからないけど、そこに痺れる憧れる』


「やめて。もう高校生なのよ」


『年下なの忘れてた』


「いっこだけじゃない。ちゃんと勉強しなさいよ」


『はーい、マオー様ー』


「やめろし」


『配信者ネームに近いからいいかなって』


「勝手に増やさないで。それにアンタが付けたんでしょ」


『…くすくす。そうだったね』



 まあ、魔王というか、皇帝なんて歴史上暗殺バッドエンドばかりだから、成りたくなんてないんだけど。

 

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