第53 -虹歌7
『絶対殺すマンと思ってた』
「何言ってんの。死んだら何も生まないでしょ」
すぐ殺すとか死んだらいいとか、よくいるのよね…この世から逃げるとか以前に、みんなみんな私の糧なのに、相談くらいして欲しいわ。
それは私が断固止めるし。
ちなみに私が入ったクラスには、いじめがない。
いいえ。
例えあったとしてもいずれ無くなる。
それは小学生の頃からの私の社会実験で、毎年起こすルーティン。
最初のキッカケはもちろんの運命の日に誓ったことだし、じゅんくんの自殺未遂もあったけど、徐々に面白くなっていったのは否定出来ない。
やり方は単純で、まずはクラスの中で人気とか成績とか親の資産とかイケメンとかブサイクとか可愛いとかブスとか陽気とか陰気とか、何でもいいから格差を強く意識させる。
対立軸を明確にし、妬み恨み辛みなどで裏切りを頻繁に起こさせる。
そうしてお互いを疑心暗鬼にし、お互いを攻撃させ、クラス崩壊を引き起こす。
そして用意した偽の原因に誘導し、生徒VS教師にする。もしくは生徒VS学校でもいい。
まあ政治家がよくされるアレだ。
大マスコミを使って、国民に攻撃させるやつだ。
そういう時は、だいたい裏に何かある。
クラス崩壊の裏に私がいるように。
大事なのは明確な敵を作り同調圧力によって一丸となること。脊髄反射で反対する意見は、また前の状態に戻りたいのかと周りを焚きつけ脅して封じる。
その同調圧力は、戦時に強いこの国の特徴で、平時はまったくと言っていいほど役に立たないけど、上手く誘導させれば、平和にもいじめにも使えてしまうのだ。
もちろん政治にも、経済にも。
それでも力こそパワーなやつとか超お馬鹿とかは、もっと強いやつをあてがうとか、金とか異性とかスキャンダルで黙らせる。
同時に、お金のない子や時間のない子は勉強を教えてあげるし、生き方を知らない生徒とか先生とかは豚として生きる意味を教えてあげる。
その為に作った学習アプリや、マッチングアプリ、いじめ相談室アプリに誘導して課金を促したりする。
学校イベントは、その同調圧力の最大値を高めるチャンス。体育祭や文化祭、各種イベントで一致団結させる。
そうすれば飛躍的にクラスメイト達は成長を遂げるし、いじめも自殺者もいなくなるし、争いのない幸せなクラスが誕生する。
そうしてみんな私の意見の手駒になっていく。
知らないうちに糧になっていく。
まあ、中にはヒーローちゃんみたいな一等星がいて、イレギュラー過ぎて排除するしかないんだけどね。
たまにママみたいな子いるのよね…素質っていうか、嗅覚っていうか、パラメータが尖りすぎていて、大衆実験には適してない綺羅星が。
というか、過程より結果を大事にして欲しいのに、あの正義厨の石頭め。
嫌いじゃなかったのに。
「流石にそこまではいいわよ。ママのことそこまで嫌いじゃないし」
『わたしはすこぉーし悔しい』
机の上には、タブレットが無造作に積み上がっていた。彼女が用意した罠は、エンディングで開花するのだと言っていた。
ママと私が入れ替われるようなエンディングが。
そこに辿り着く前に、様々な手順を踏ませる必要があって、彼女曰くゲームが適してるんだけど、その悉くを壊された。
今度は介入も改ざんも破壊も突破も出来ないと彼女は自信満々に言っていたのにタブレットは沈黙し、うんともすんとも言わないこの有様だ。
「嘘おっしゃい」
『うん、嘘。結構悔しい』
「ふ、ふふ、珍しい」
『む。もうちょっとお金くれたら勝てたもん』
「なんでよ。結構出してあげたでしょ」
『だよね。質が悪くなったからかなぁ…全部高くなってるし…』
「負け惜しみ…でもないか。この国の経済腐ってるし」
この国の経済成長率って、戦争とか内戦してる国並みだからね…腐ってやがる、ってやつだ。
国民税負担五割なのに増税って恐ろしい国だよね。
その納めたお金を市中から消してるようなものなのに。
でも、そんな苦しい時代だからこそ、私は生きやすいんだけど。
私が生まれたこの時代は、単純な言葉と見せ金と色と数字、あとは情報操作で、驚くほど簡単に人が信者になっちゃう時代だ。
苦しい時代こそ、救世主を求めるのだろうけど、それ故に利用されていることに気づけない。
ほんとエリート主義って楽な時代よね…
だいたいの歴史で、政商やエリートを有り難がるということは、政治腐敗も末期も末期ってことなんだけど。
気づいた時にはもう遅いってのが、まさに今で、歴史のままに進んでる。
尤も、真のエリートって哲学嗜んでるものなんだけど、今はエリート=金持ちなんてなっている。ただのラッキーなのに、なんでみんな知らないのかな。
この世にはイケメンもいればブサイクもいる。私のように超絶可愛い子は稀だけど、可愛い子もブスも相対的ブスだっている。
良い悪いではなく、それが事実だ。
つまり、同じように努力しても稼げるやつもいれば稼げないやつもいるのが当たり前。
可愛いからって、努力しても一番にはなれないのがまさにそれ。運も偶然の出会いも必要だ。
だけど、努力が足りないからだと人は言う。
努力自体は否定しないし、じゅんくんみたいに頑張れば良い。
けれど、家庭環境もスタートも、ましてやパラメータなんて人それぞれ違うのに、努力を謳う。
ということは、逆に自分で自分を、ましてや他人までもが、初期設定が同じの大量生産品だとでも思ってるとしか思えない。
まさに画一的な思想。
あるいはスポ根ね。
今の時代にそんなの古いだなんて言うくせに、稼ぎがないのは努力が足りないとか、ダブスタ野郎の多いこと多いこと。
ただの不況なのに年収マウント攻撃とかウケる。
年収の中央値ズレたせいだし。
そのくせそんな奴こそが多様性がどうとか言うし、まずお前が画一的なんてギャグかと。
まあその豚共のおかげで、私なんてたまたま金稼ぎが上手くいった人間でしかないのに、そんな奴らこそが有り難がって持ち上げてくれるし、庇ってくれるし、新自由主義ってマジボロ儲け。
こんな不況なんだから、右とか左とか以前に、修正資本主義とか社会主義とか大きな政府政策とかに大きくゲームチェンジしないとどーにもなんないのに、感情論とかイデオロギー合戦とか超ウケる。
好きとか嫌いではなく、それが事実だ。
でも出来ない。
国家観の前に経済を学ばないと間違える。
事実貧困に向かえば、私のクラス崩壊一歩手前と同じような現象がもう始まっている。
そう、いじめだ。同じクラスなのに、助けようではなく、足手纏いと切り捨てようとする。
酷いクラスメイトよね。
ちなみに経済って略語だし、お金儲けじゃないんだけど、意味知らないのかな。
意味と言えば無駄を削れってのもわかんない。
だってそれって市中に新規のお金流すなって意味なんだけど、わかって言ってたらすごいよね。
家計簿じゃないんだから無駄を削れとか身を切るとかギャグかと。
そんな国民総家計簿脳のおかげ様で、天秤はますます金持ち有利に傾いたままが、過去20年ほど続いてる。
なのに自分で自分の首を絞めるなんて、ちょっとどうかしてる。
ドマゾなのかな。
まあ、気持ち良かったからわかるけども。
『わからないけど…』
「ふふん、お子様ね」
ゲームの為とは言え、じゅんくんとの行為を見せてあげたっていうのに、刺激が強かったかな。
まあ、人は一次情報を信じるし、疑わないし、知ろうとしないし、掘り下げない。
信じたいものを信じるのよね。
『いくら言っても無理なものはむーりー』
「わかってないわねー」
この世に無駄な穴なんてないというのに、お金と同じで道徳が邪魔をする。
『それ違うと思う…それにお尻は
「それは…まあ、そうね」
まあ、それってあなたの感想ですよね、って言うやつくらい私的でどうでもいい話よね。
『…何の話だっけ。あ、そうだよ。材料もそうだけど、ママさん強ーいんだもん』
「…聖女ってやつ?」
『そう。ズルーい女』
ママ、天川綾香は、無自覚な災害なのだと彼女は言うけど、あんなの凄女か性女でしょ。
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