第13 - 敦志3
綾香が調子を崩してから一月ほど経ったある日の夕方だった。
『虹歌を実家に預けました』
そんなメッセが綾香から入っていた。
虹歌を実家に預けるなんて、余程のことが無い限りあり得ない。
尤もその理由はわかっているが、それにしても明日預けるんだと思っていた。
ああ、待ち切れないのはお前もだったんだな。
綾香は虹歌を産んでからまた一段と艶っぽくなった。元々抜群のスタイルに清楚な美人だったのに、しっとりとした艶まで身につけた。
種付け、妊娠、出産と自分の手で変わり綺麗になっていく様を眺めるのは格段の喜びだった。
そんな綾香がいつも誘ってくる時、飯や入浴に寝る時間に虹歌の機嫌、それらを気にしながら工夫して誘ってくるのが愛しくて楽しくて、ついつい邪険に扱ってしまっていた。
まあ、この一月は随分と溜まっていて、普段よりイライラとしていたが、余裕で耐えれた。
それにしても二人目か。
『あなた、産婦人科で相談してきたの』
もう欲しがるなんてな。
しかも禁欲してからしたい、なんてな。
そんな提案を恥ずかしくしながらも言ってくるなんて初めてで、感情が昂ったもんだ。
おかげでここ最近は上司に目が血走っていて怖いとまで言われてしまった。
「明日から幸福日か…」
こんなに溜めたのなんて初めてかもしれない。明日から必然的に三連休だし、今日からとことんまで愛し合おうか。
グツグツと腹の底から昂るこの情欲に、また脳が焼き切れそうだ。
「先輩、オナ禁ってなかなか良いもんっすよ…ははは」
「馬鹿言ってないで早く帰れ」
まあ、馬鹿になっているのは嘘じゃない。
◆
家に帰ると、綾香の姿はなかった。
玄関の鍵は空いていた。
散乱してるスリッパ。
作りかけの料理。
回りっぱなしのエアコン。
呼びかけても返事がない。
隠れんぼなわけがない。
すぐに綾香のスマホに掛けるが出ない。
スマホと同じように膝がブルブルと震えてくる。
「もしかして…攫われたのか…?」
するとフリーアドレスからとあるメッセージが入ってきた。
そのメッセージにはURLが記載されていた。
俺は深く考えることなく従い、案内されるがままにアクセスした。
この状況で届くなんて出来すぎている。
そこにはふざけた仮面の男と銀行強盗みたいな覆面の男と横たわる女がいた。
「お…おいおい…おいおいおいおいおいッ! 何してんだ…こいつら何してんだよッ!!」
目と口を塞がれているが、この身体に俺が選んだライトグレーの縦サマーニットの服に黒のタイトなスカート、何より結婚指輪。
綾香だ。
これは綾香だ。
多少遠景だが、俺が見間違えるわけがない。
音はミュートなのか、聞こえない。
足元がグラついているような気がする。グラグラと揺れているのは俺の三半規管か。
そして綾香は二人に犯され出した。
「な、何やってんだ…? 何やってんだよッッ!!」
喉がカラカラに乾く。
身体が冷えていくのがわかる。
それは俺の女だ。俺の妻だ。俺のモノだ。
例えここで叫んでも意味がないことはわかっているが、叫ばなければもっと頭がおかしくなりそうだ。
「やめろッ! 嫌がってんだろがッッ!! …あ……?」
いや…腰をくねらせて…あれは奥に誘っている動きだ…まさか…まさか感じてんのか?!
は! 禁欲か…!!
自分から腰振るんじゃねぇよ!!
誘ってんじゃねーよ!
おいおいおい、やめろ…やめてくれッ!! やめてくれよぉぉぉ…やめろっつってんだろがぁぁあああ!! ぶち殺すぞォォッ!
喉が焼けたのか枯れたのか声が出てこない。涙は枯れずに止めどなく溢れてくる。必死に魂で叫ぶもそのままそれは進んでいく。
綾香がビクビクと震える度に、気力を失っていく。
俺が丁寧に磨き上げた綾香が、綺麗なモノが汚されていくその様子は、俺の精神をゴリゴリと擦り潰していく。
画面はナンパシリーズモノみたいに隠し撮りだからわかりにくいが、男のケツが脈打ってやがる…ああ、これは中に…ひ、ひひ、ひはひ、ひひははは──
「ひゃは、ひひひッ!」
頭が真っ白になってくる。
痛いほどはち切れそうだった俺のブツのように、俺の過去が表に出てくる。
光り輝く未來のために、いつしか隠して蓋をしてきたモノが変われ代われと這い出てくる。
ああ、そうだな。
綾香、そうだよな。
不幸なやつは俺とあいつだけでいいよな。
あいつ? あー誰だったか…
ああ、幸せぶってた奴だ。優しい母とかクソみたいな幻想見せやがったあの洗脳野郎だ。
「ひゃははッ! ひゃはははッッ!!」
法じゃあよぉ。本当に不幸なやつは救えないんだわ。こんなやつらは八つ裂きにして殴り続けなきゃならないよなぁ。
「ひゃはははッ! ひゃはははははッッ!!」
ああ、今度は覆面野郎に交代か。
あああ、ああ、お前ら……全て「はい」と答えてもダメだなぁ。
警察なんて生温い救いは呼びやしねぇよぉ。
ああ、そういえばあいつは呼ばなかったなぁ。せっかくママを犯してやるって言ったのによぉ。なんだよそれ。ははっ。
「ひはははははは、はぁ…」
まあ、ここで泣き叫んでいるだけじゃああのクソ親父と変わらねぇ。それはただの宗教なんだわ。
こいつら二人とも俺の手でぶち殺さないと気持ちくイケやしねぇっての。
あの時みたいによぉ。
そう思った瞬間、俺の股間はドクリドクリと痛いくらい大きく脈打って吐精した。
「あーくそが。煙草は…どこだ? ちっ、途中で買うか……」
そして、俺はGPSを頼りに家を出た。
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