第4

 久しぶりの実家。おじいちゃんになったパパは仕事、おばあちゃんになったママは居て、今日の出来事を話した。



「え? ちゃんと言ったわよ?」


「そうなんだ…」



 結婚式に招待したのに、結局何の反応もないまま二年が過ぎていた。ずっとモヤモヤしていたけど、どうやらちゃんと伝えてくれていたみたい。



「潤一君にも直接言ったわよ。おめでとうございますって言ってたわ。でもそういえば落ち込んでたような…でもそんなこと流石に口には出さなかったわよ」


「…当たり前よ」



 でも、落ち込んでた…?



「あ、そうだわ。だからあなたに言わなかったのよ、確か。気にすると思って」


「今更気にしないわよ。もぉ、いっつもなんだから…」



 うちのママは楽観的というか、自分の話ばかりでまわりが見えないことが多い。そして自分で決めて判断することも多々あった。


 でも、潤くんが落ち込むなんて、今更気にしてるなんて…いや、ないない。わたしが振られたんだから。でもあの時は本当に辛かったな…


 けど、あの後敦志がたまたま通りかかって慰めてくれて。


 心が助かったことを思い出すわね。


 ふふ。身体もだけどね。



「……」



 敦志、早く帰って来ないかな…


 そう思いながら虹歌の握る首飾りを見ていたら、ママが横から口を出してきた。



「それにしても、あなたも未練がましいというか…娘にそんなもの持たせて」


「そんなんじゃないわよ。それにそんなものって言わないで」



 この首飾りは、思い出の品だった。


 小学生の頃、毎年のように両家で出掛けていた海水浴。


 六年生の夏、わたしだけが体調を崩し、結局行けなかった。


 寂しかっただろうからって、ずっと続く海岸線を歩き、潤くんが作ってくれた。それは綺麗な貝殻だけを集めて作った首飾りだった。


 とてもとても綺麗な首飾りだった。


 初めてもらった時のことは、覚えてる。大粒の涙と感謝と恋の自覚。今は疎遠ではあるけれど、大事な、とても暖かい思い出を彼はくれた。



「…たまたま整理してたら出てきて虹歌が勝手に遊んでたの」


 それにしても、そんなことだけ目敏いんだから。



「敦志さんには言ってあるの?」


「ママのって言ってあるから大丈夫」



 潤くんとの思い出の何もかもは、敦志によって消去されていた。なんでそこまでとは思ったけど、愛の深さゆえだと思って止めなかった。



「あなたは本当に…昔からくだらない嘘つくんだから。だから…いえ、いいわ。私から返しておこうか?」


「…? なんで? いいわよ。虹歌これがないと寝れないし。それに…せっかくもらったものなんだし…」


「……そう…」



 そう言ってママは少し黙ってから口を開いた。



「ねぇ、綾香……今、幸せ?」


「何よ急に。見てわかるでしょ。当たり前じゃない。そりゃあ虹歌のお世話は辛いところもあるけど、この笑顔みたら吹き飛ぶわよ」


「そう…よね。うん、ならいいの。ほら、ご飯にしましょう。好きなもの言って。作ってあげるから。敦志さん出張なんだし、たまには娘扱いしてあげるわよ」


「はいはい。よろしくお願いします。お母様」


「あー?」


「ふふ、虹歌ちゃんもね〜おばあちゃんにお任せあれ〜」


「おーせ〜?」


「おばあちゃんがね、嬉しいんだって、虹歌」


「うしー、うしー」


「そうそう、嬉しい嬉しい、一緒一緒」



 なんだかママの態度が腑に落ちないけど、久しぶりに家事から解放されるとなんだか暇だわ。


 ならお掃除は…時間ないわね。無理か。ならアルバムでも虹歌に見せようかしら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る