第3
ある日のこと、お買い物に出掛けていた。ここは、少し遠いけどわたしの地元にあるスーパーだ。安さもそうだけど、品揃えが良いからと一月に二、三度は出掛けていた。
「あら、綾香ちゃん、久しぶりね」
「あ…おばさま? お久しぶりです…」
すると、わたしの幼馴染のお母さんに出会った。昔とは違い、随分とやつれていた。
おばさまは、私の全身を下から順に見てくるけど、虹歌を見るなり、ふいと目を逸らされた。
「可愛いわね。順調?」
「はい…」
ちゃんと見て言ってるのかしら…?
それにしても、潤くんと疎遠になってから久しく会ってなかったけど、こんなに…ご病気かしら。目元が窪んでいて少し怖い。
自然と虹歌を抱く力が強くなる。
「あはは。やだ、そんな顔しないで。取らないから」
「あ、いや、そんなつもりは…」
ふと、優しげな目元になり、ホッとする。潤くんと少し似てる、なんて昔思ったなぁ。
宮田潤一。生まれてから高校までいつも一緒に過ごしてきた幼馴染で、元カレ。
高校二年の時に一方的に振られた、好きだった人。今でもたまにあの日を思い出すけど、もう胸の痛みはない。
「ふふ。立派にお母さんしてるのね。結婚のこと、美智子さんに聞いてるし、大丈夫よ。気にしないで」
「え…? はい…」
美智子はわたしのママで、確かに結婚式の招待状も、出産報告も宮田家に頼んでたけど…結局潤くんも含めておじさまもおばさまも来てくれなかったし、おめでとうも言ってもらえなかった。
それにしても、気にしないでって、わたしのセリフなんだけど…少し腹が立ってくるけど、笑顔笑顔。
それから赤ちゃんのお世話の仕方とか、ちょっと役に立つこととか、教えてくれた。
わたしの母は猫可愛がりするだけだから参考にならないことが多くて正直助かる。
でも、別れ際にまた気になることを言ってきた。
「でも、潤一には会わないでね。あの子、やっと立ち直ったから…」
「…え?」
「ふふ。本当良かった。あなたじゃなくて。じゃあね。虹歌ちゃんも」
そう言って、おばさまは踵を返した。別に嫌味で言ってる感じはしない。ほんとに良かったなんて安心した顔してる。
あれはわたしと潤くんが夜遅くまで遊んだ時に怒られた後に見せた思い出と重なる。
二人で盛り上がってるところを見つかって、「そういうことは、結婚か婚約してからね」なんて怒られたあとに言われたっけ…
でも、あなたじゃなくて……?
「何よそれ…」
わたしを振ったのは潤くんじゃない…! 最後の最後、祈る気持ちで呼び出しても来なかったじゃない! たまたま通りかかった敦志が慰めてくれたんだから!
あの時のわたしの絶望した気持ちなんて知らないくせに…
「歳を取ると怖いですね〜」
「あー?」
精一杯の気持ちで、おばさまの後ろ姿に、わたしは口を出していた。
「なんでもないよ〜帰ってご飯にしようね〜今日はおばあちゃんの家だからね〜」
「う〜?」
「ふふ、楽しそうね。おばあちゃんも嬉しい嬉しいってきっと甘やかしてくれるわ」
やなこと忘れましょうね。
不思議そうな顔をした虹歌を見て、私はそう思った。
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