ダンジョンで裸になるのは間違っているだろうか

尾上遊星

プロローグ

――私。舞蔵雅まいくらみやびが初めて剣を手にしたのは三歳の頃だ。


祖父が剣道の師範ということもあり、竹刀の素振り、剣道の勉強、実戦。を何千回も繰り返す日々。


中学校に進学すると、剣道部に入部。三年の春には全国大会出場が決まった。


私にとって剣道は人生そのものだった。


だが、全国大会の三日前。


全国大会出場を誰よりも喜んでくれた祖父が亡くなった。


原因は、金属バットでホームレスに暴行していた不良集団を注意したことで、逆上した不良集団に祖父も金属バットで頭を殴打され、頭蓋骨陥没。


父いわく、救急車に運ばれたときには既に手遅れの状態だったらしい。


弱いものいじめを止めた正義感あふれる最期。


そんな誇らしい祖父の葬式は、祖父の悪口で溢れていた。


"いくら歳とはいえ、あんな不良集団に負けるなんて情けない"


"勝てないなら、でしゃばらなかったらいいのに"


その日から、私の剣道は変わった。


試合で勝つための最善手よりも、人を殺すために有効な一手。


ただ、それだけを必死に求めた。


祖父が喜んだ全国大会も反則負けで一回戦敗退。


その後の試合もすべて反則負けで一回戦敗退。


それでも、私は自分が決めた剣道を貫いた。


試合よりも実戦で役にたたないと、祖父のような葬式になってしまう。


それだけが嫌だった。


そして、それから二年後。殺人だけを目的とした剣技を身につけることに成功した。


しかし、悲しい現実が私を待ち構えていた。


それは、剣の腕前は達人なのに、それを披露する場がない。まったくといっていいほど。


剣道の試合で披露しても、反則負け。またしても一回戦敗退。


試合以外で披露したら、傷害罪。


それこそ、祖父のような稀有なケースでないと、私の実力は世間に認知されない。


剣を追求したその結果、実力を発揮する場がない。


これほど悲しいことがあるだろうか。


以来、私は自分を責め続けた。


なんて、自分はバカなんだろう。


そう思っていた矢先、信号無視をしてきたトラックにはねられた。








そして、気づくと薄暗い洞窟にいた。


そして、青い液体のオバケや骸骨が突然現れて、私を襲う。


だが、幸いにも地面に転がっていた真剣を使い、私は奴らを返り討ちにした。


すると、岩場に隠れていた男ふたりが頭を下げて感謝の言葉を口にした。


そして、何も知らない私に対して、彼らはこの国"ハルート王国"について、説明してくれた。


彼らの話では、この洞窟。ダンジョンでは多くのモンスターが生息していて、夜な夜な近隣の村や街にまできて、人々を襲うらしい。


そこで、ハルート王国は対策として新たな職務を考案した。


それは、彼らのような武装した戦士の集団。


ギルドの発足ほっそくである。


ギルドはダンジョンに生息するモンスターたちを撃退し、毎月行われるダンジョンの調査で、生息数の減少が確認されると、固定給が貰えるとのこと。


さらに急激に生息数を減らせれると、ボーナスが発生するが、逆に生息数が増加すると固定給が減額。


また、ダンジョンも危険なモンスターの多さによって、ランク付けされており、上からS、A、B、C、D、E、と六段階あり、ランクが上のダンジョンを担当している方が固定給が高いらしい。


ちなみに、このダンジョンは一番下のEランクらしい。


そして、このEランクのダンジョンを担当する彼ら、ギルド名"ナイトパレード"は、リーダーがメンバーの固定給を持って夜逃げしたことで、戦力も装備も生活もままならないとのこと。


そんな状態で、ダンジョンへ挑んだものだから、モンスターの攻撃に太刀打ち出来ず、岩場に隠れていたところに私が現れ、モンスターを撃退した。すなわち彼らにとって私はヒーローなのだ。


彼らは言う。


「あなたの剣技は凄かった。是非俺たちのギルドでリーダーになってくれ!」


「…………」


それは、今まで自分が進んだ道が無駄なものではなかったと言われた気がした。


祖父の死は決して無駄なものではなかった。


そう思ったら、溢れる涙を止めることは出来なかった。


「泣くほど嫌か!? わ、悪かったよムリ言って!」


「ち、ちがう! …………リーダーになってあげるから、さっさとモンスター倒しに行くわよ!」


両手で涙を拭いながら、ふたりの男を従えてダンジョンの奥へ突き進む。


それが、あとに伝説のギルドとなる"ナイトパレード"の始まりだった――

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