第5章
エダー村を守る戦いから一週間が過ぎようとしていた。あれ以来、雨が降り続いている。義勇軍の面々はあの悲しみから立ち直ろうとしていた。一人の男を除いては・・・。
「アランのヤツ、まだあの調子なのか?」
降りしきる雨を窓越しに眺めるアランの姿はいつもの覇気が感じられない。
「仕方がありませんよハドソンさん。隊長は初めて仲間を失ったんです。しかも自分を慕ってくれていたんですから・・・。」
「お前も可愛がってたじゃねーか。もう大丈夫なのか?」
「私はこれまで多くの騎士仲間を失ってきましたから、ただ今回はこれまでと比べるとキテます。」
「そうか・・・。ミーナは?」
「ミーナさんは隊長程ではないですが落ち込んでますね。」
「そうか。・・・やまねーなこの雨」
「そうですね。これはまるで・・・」
「マルス殿。聖都マリクリシアより召喚令状が着てますよ。」
ムウがマルス宛の手紙を渡す。
「これは・・・。そうかもうそんな時期か」
「どんな内容なんだ?」
「お祭りの招待状です。」
「お祭りの招待状?」
「聖都マリクリシアで年に一度その年の最強の騎士を決める。『決闘祭』の招待状です。」
「『決闘祭』か!懐かしいな~。よく誰が優勝するかで賭けをしたもんだぜ。」
「伝統と格式ある祭りでなんてことしてるんですかハドソンさん!」
「昔の話だよ。マルスも出るのか?」
「聖都に所属する騎士団員は出場する決まりになってますので私もでますよ。メリッサさんにも届いていると思います。」
「でもアイツの居た騎士団壊滅したんだろ?」
「確かにそうです。私設騎士団ですから普通は呼ばれませんね。」
「どうゆうことだ?」
「前回大会でベスト16に残った騎士の方にも招待状が届くんですよ。参加不参加は自由です。」
「へえ~。メリッサって凄いんだな。」
「あれ?二枚重なってる・・・あっ!隊長にも着てますよ」
「なにが?」
「お祭りの招待状です送り主はタケルさんです。」
「タケルか!元気にしてるかなあの野郎。」
「誰ですか?タケルさんって?」
「おお、フローラか!タケルはな義勇軍の初期メンバーにして隊長の最初の仲間だ。」
「へぇ~どんな方なんですか?」
「一言でいえば純粋な少年だな」
「そうですね。あの真っ直ぐな瞳は少年そのものでしたね。今頃一人前の騎士になっているでしょう。」
「隊長。参加しましょうよ『決闘祭』私そのお祭りすごく気になります。」
「そうだな、行くか。」
気の抜けた返事ではあったが決闘祭に参加することが決まり喜ぶフローラ
「そうと決まれば急ぎましょう。開催日は三日後です。」
そのあと話し合いの結果、アラン・ミーナ・マルス・ハドソン・フェルト・フローラ・メリッサが、聖都マリクリシアに向かうこととなった。
「おい、空気重すぎないか。」
聖都マリクリシアを目指す一同、その雰囲気はどこか影があった。
「先頭歩く隊長があの調子じゃあ無理もないが」
「なにか言ったか?」
「いや、なんでもないぞ隊長。」
後ろに睨みを効かして前を向くアラン。
「ハドソンさん。そこに触れるのはやめておきましょう。」
「でもよ、ミーナはアランを心配そうに見てるし、フェルトとフローラも立ち直りつつあんだろ。いつまでもあの調子じゃあリーダーとして困るんだよ。」
「それはそうですね・・・。ところでメリッサさん。」
「なんだマルス。」
「先程から険しい顔をされてますがどうかなさいましたか?」
「いや、あの事件以来の聖都だと思うとちょっとな」
メリッサにとってあの事件はエダー村の件と同等の悲しみであった。
「そうですよね。正直来たくなかったのでは?」
「いや、いつかは自分の中でケリをつけなければならんことだ。丁度良い機会だと考えてるよ」
「おい、魔物に襲われてる人がいるぞ。」
一同の先では馬車が立ち往生し周囲で魔物に抵抗している人々がいた。
「助けるぞ」
ハドソンを筆頭に急ぎ向かう一同。
「隊長なにしてんだ?」「・・・・・・。」「おい隊長!!」
一人アランはその場を通り過ぎようとしていた。
「!?、スマン。」「しっかりしてくれよ!」
急ぎ襲われている馬車に向かうと魔物は駆けつけた騎士達に打ち倒されていた。さらに近づくとミーナとマルスは騎士の一人と話しをしていた。
「よお、アラン。久しぶりだな」
二人と話していた騎士はアランを見つけるとすぐに近寄って来た。
「・・・。タケルか」
「なんだよ久しぶりに会うっていうのにやけに冷めた反応だな。」
「タケル君実はですね・・・。」
アランの異変を感じたマルスはタケルに事情を説明した。
「なるほどね、俺の居ない間に色々あった訳だ。こんな所で話すのもなんだし一緒に聖都に行こうぜ」
アラン達はタケルとタケルの引き連れた騎士達と共に聖都マリクリシアに入った。
「聖都に来たのはあの手紙の内容か?」
「そうだ。」
「にしても、俺の居ない間に義勇軍は一大勢力だもんなビックリしたぜ。」
「当然だ。」
「仲間はここにいるメンバーだけか?」
「本部にも何人かいる。マルスと話した内容から察しろ。」
「わっ、わるかったよ。そんな怒んなよ」
なかなか噛み合わない二人をミーナは心配そうに見ていた。
「ミーナ、どおしたの?」
「フェルトさん。前はあんなにギスギスしていなかったので、悲しくて」
「大丈夫。隊長が立ち直れば、ミーナの思う本来の二人の関係に戻るはずよ。」
しばらく歩いていると町の人々はまるで英雄が帰還するかのような黄色い声援を送り始めた。
「タケル隊長お疲れ様です!」
「タケルさんこっち向いて~」
「キヤー、タケルさん~」
驚くアラン達と堂々と歩くタケル達
「凄い人気だなタケル。てかお前今部隊長なのか?」
「そうだぜハドソンさん。今の俺は、マリクリシア騎士団七番隊隊長なんだぜ」
「凄いですタケル。」
「ミーナ。なんか照れるな。」
顔を赤らめるタケル。
「タケルさん初めまして。私フローラって言います。こちらはフェルト先輩です。」
「自己紹介位自分でするわよ」
「すいません。フェルトさん~」
「ハハハ。改めましてタケルだ。よろしくな二人とも」
「アハハ~。想像以上のイケメンさんです~。」
「ハハハ・・・。それはどうも、ところでマルスさん先程から元気がなさそうですがどうしました?」
「先代の隊長はどうしてますか?」
「先代の隊長は異動になって今は別の騎士団にいますよ。」
「そうですか。・・・今の貴方は権威上は私よりも上なのですね。」
「まあまあ、気にすることはないですよ。それよりも早くアドラス卿の所へ行きましょう!」
様々な思いを抱えながら義勇軍はマリクリシア騎士団の本部に着いた。
「見ない顔も居るが皆久しぶりだな。活躍は常々聞いているよ。」
「兄上ご無沙汰しております。」
「忙しいなかわざわざ決闘祭のために来てくれてことに感謝しているよ。」
「あのアドラスさんなぜアランさんまで招待したのですか?」
「あの件から半年経ちどれだけ実力を付けたのか気になっていた時に丁度決闘祭の時期が来たので良い機会だと思ってタケルに招待させたのだ。」
「俺もそろそろ義勇軍の皆に会いたかったしアドラス卿からお願いされたときは滅茶苦茶嬉しかったぜ。」
義勇軍一同を見渡すアドラス卿がある人物に気がつく。
「メリッサ君じゃないか、義勇軍に入ったのか。」
「はっはい、お久しぶりでございますアドラス卿」
声をかけられると思っていなかったメリッサは動揺していた。
「クオート騎士団の生き残りの調査を独自に進めているが、申し訳ない。成果はない。」
「いえ、アドラス卿が気にして下さっていることを知れば亡き我が同胞達もきっと喜んでくれているはずです。」
「ただ・・・。一つ不可解な噂が町に広がっていてな、大隊長が生きているという噂だ。」
「ギルが!?」
「誰ですか?」
「クオート騎士団大隊長ギル。クオート騎士団のリーダーだった男です。その実力は兄上も目を掻けていた程です。」
「何が不可解なのですか?」
「報告によれば、大隊長が敵にやられクオート騎士団は総崩れになり壊滅したとされている。」
「私も亡骸は確認している。やられた瞬間は見てないがあれは間違いなくギルだった。」
「もしかして幽霊ですか~恐いです。」
「居る訳ないでしょ幽霊なんて」
「そうですよね、すいませんフェルトさん。」
「そのようなこともあり私の見解では今回の決闘祭は嫌な何かが起こると考えられる。諸君明日はくれぐれも気負つけたまえ。」
マルスはアドラスに用事があると本部に残り、他の義勇軍の面々は本部の近くにある酒場に腰を下ろした。
「どうするよこの後」
「明日、決闘祭が行われるコロシアム前に集合。それまでは各自自由行動でいいぞ。」
そう言って席を立つアラン。
「おい隊長」「アランさんどちらに行かれるのですか?」「一人にさせてくれ」
そう言い酒場を去った。
「すまない。私は宿舎で休ませてもらう。」
メリッサも席を立つ四人は何も言わず見送った。
「ミーナ。アランを追いな、心配なんだろ」
「えっでも。・・・ありがとうございます。すいません。」
ミーナは急ぎアランを追いかけに行った。
「なんだか皆が泣いてますね。」
「そうね・・・。」
「チッどいつもこいつも好き勝ってやりやがって。今日は飲むぞー!お前ら付き合え。」
「私達未成年よ」
「いいんだよ気にするな。サーセン!ビール3つ」
「ハドソンさんなんで3つも頼んでるんですか!?」
「しょうがないわね一杯だけ付き合うわ」
「ダメですよフェルトさん!フェルトさ~ん」
その頃マルスはアドラスと共にとある訓練場の一室にいた。
「珍しいな、お前の方から決闘を申し込んでくるとは」
「私は兄上に成長した姿を肌で感じて頂きたい」
「ほう。・・・対抗心が垣間見えるな」
「!?。どちらのほうが上だと兄上は感じてますか?」
「・・・。少なくとも今の彼はあの時のお前より数段格上だ。」
「そうですか・・・。」
「だが、この半年ただ時間だけを浪費したのではないのであろう。魅せてみろこの半年のお前の成長を。」
「はい。行きます兄上。」
こうして二つの剣は激しくぶつかり合った。
(アランさんは、どちらにいらっしゃるのでしょうか。)
町中を探し回るミーナは一向にアランを見つけられないでいた。
(どうして、アランさんは一人で抱え込もうとするのでしょう。困った時や苦しいときこそ私達を頼ってくださればいいのに・・・。)
「アランさんのバカー」
ドゴーン!!
突然、大きな爆発音と共にアランが吹っ飛んでいく姿を目撃した。すでに剣を抜き誰かと戦っていた。ミーナが急いで向かうとアランは男と激しく斬り合っていた。
「ハッ。お前、前の俺と一緒の目をしてるな。」
男はアランに話しかける。
「なに。」
「仲間が死んで守りきれなかったことが悔しいのか?」
「・・・。」
「自らが憎いか」
「黙れ!!」
怒りの一振りで男を薙ぎ払う。
「アランさん!!」
チャンスと見るや一目散にアランに駆け寄るミーナ。
「ウン?ホーお前がアノ男の言っていた組織のリーダーか」
「なに?」
「今日は昔の仲間を見かけたりとなかなか面白い日じゃないか。お前、明日の決闘祭出るんだろ?決着はその時に着けようか。」
そう言い残し男は姿をくらました。
「アランさん大丈夫ですか?」
「ミーナ。大丈夫だよありがとう。」
そう言うとすぐに立ち歩き出した。
「どちらへ?」「ゴメン。一人にさせてくれ」
立ち去るアランの姿はまだトゲトゲしく近寄りがたいものがあったが、ミーナは今の会話に一瞬普段のアランを垣間見ることができたと何故か感じるのであった。
決闘祭当日、空は厚い雲に覆われていた。
相変わらずのアラン。元気を取り戻したミーナ。複雑な表情を浮かべるメリッサ。ボロボロのマルス。
「あのフローラさん。ハドソンさんとフェルトさんは?」
「・・・二日酔いです。」「えっ。」「マルスさんはわからないかもしれませんがあの後二人で飲みまくってベロベロになってしまいまして、大変だったんですよ!ハドソンさんは手当たり次第に女性をナンパしだすしフェルトさんはすごく毒舌で周囲の人を傷つけだすし、挙句の果てにフェルトさんがナンパしてきたハドソンさんを氷漬けにして大喧嘩ですもん。」
「そうですか・・・。」
「まあいい、重要なのは俺とマルスとメリッサが揃っていることだ。二人は休ませておけ。」
「では、行きましょう。」
コロシアム内はすでに多くの騎士と観客で埋め尽くされていた。
「決闘祭に出場する方はコチラに観客の方はあちらにお進みください。」
「では皆さん健闘をお祈ります」
「ああ。」「ありがとうございます。」「では失礼する。」
フィールドへ向かう道中タケルと対峙する。
「三人ともよろしく頼むぜ」
手を差し出すタケルを一礼するメリッサと無視する二人
「ったく。祭りなんだからもっと気楽に行こうぜ」
三人の対応に頭をかいて見送るしかなかった。
また、少しするとアランを襲った男とすれ違った。振り返る二人
「ギル・・・。」
思わず呟いたメリッサの一言が新たなる火種を生む予感を感じさせた。
「さあこの時期がやってまいりました。決闘祭、聖都マリクリシアで年に一度その年の最強の騎士を決める伝統と格式があり幾多の名勝負を生みだしたこの祭り、今回はどのような名勝負が生まれるのでしょうか?間もなくトーナメント予選のバトルロワイヤルスタートです。」
司会の実況でコロシアムのボルテージも徐々に上昇していく
「フローラさん。決闘祭は毎年こんなにも盛り上がるのですか?」
「私も生で見るのは初めてで祭りの情報しか分からないんですけど、凄い盛り上がるって聞いています。」
「バトルロワイヤルは16人になるまで参加者全員で戦って頂きます。ルールは騎士の精神に則って戦うことと相手を殺めないことです。今回の参加人数は325人さあ、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!ではスタートです!!」
「325人・・・。多いですね。」
「コバレル大陸中の騎士が参加出来ますからね。皆さん勝ち上がれますよねミーナさん。」
「信じましょう皆さんを」
325人の騎士が入り乱れフィールドは大混乱、次々と脱落者が出る。マルスとタケルは次々と相手を倒し観客から喝采を浴びていく。メリッサも負けじと相手を倒していきあの男を見つける。
(ギル・・・。)
覚悟を決め近づいたメリッサの足が止まる。
(なんだ・・・。この雰囲気、ギルはこんなに恐ろしい雰囲気だったか、それに凄く殺気だっている。これはまるで別人じゃないか。本当にギルなのか、それに・・・。)
「オイ。来るのか来ないのか?」
男に問われ思わず距離を置く。
「後ろががら空きだぜ女。」
背後から襲って来た騎士を槍で薙ぎ払いそのまま距離を取った。そしてある異変に司会が気づく。
「バトルロワイヤルが始まり10分が経過しましたが凄いぞフードを被った騎士の周囲には誰も近づいていないぞ、そして物凄い威圧感だ!」
メリッサがギルではと疑う男の周りには誰もおらず近づこうともしない。観客が珍しい現象に湧く。
(あの人昨日アランさんを襲ってた人・・・。)
ミーナは心配になりアランを探すとすぐに見つかった。アランは男の反対側で腕を組んで立ちアランもまた周囲に全く人を寄せ付けないでいた。司会も気が付く。
「なんだなんだ、もう一人周囲に人を寄せ付けてない者がいるぞ」
観客のボルテージはさらに高まる。
「隊長!」
「さすがアラン。」
(すでに目覚めつつあるのか・・・。)
二人の異常な現象を余所にバトルロワイヤルは佳境に入っていた。華麗な剣技を魅せるマルスと騎士の剣術と身軽なフットワークで戦うタケルを中心にどんどんと絞られていった。そして
「バトルロワイヤル開始から30分。ついに16人にまで絞られましたのでトーナメント予選を終了とします。そして休憩を30分挟み決勝トーナメントを始めます。皆さんしばらくお待ちください。」
アラン、タケル、マルス、メリッサの四人は無事決勝トーナメントに進出した。あの男も・・・。
「観客の皆様お待たせしました。これより決勝トーナメントに移りたいと思います。」
待ちくたびれたと言わんばかりに歓声が鳴り響く。
「休憩中に決勝トーナメントに進出した16人の騎士の方々にはくじを引いて頂きその結果を対戦組み合わせとさせて頂きました。ご覧ください。これが今大会の組み合わせです。」
スクリーンに組み合わせが写し出される。
「アランとは・・・準決勝か。楽しみだぜ。」
「オホン。隊長と戦うのは私です。」
「ゲッ、アランの前にマルスさんかよ」
「負けませんよ。」
「俺だって負けないぜ。」
(ギル・・・。当たるとしたら準決勝か隊長達とは決勝でしか戦えないのか・・・。)
「メリッサ。」
アランに突然呼ばれ動揺するメリッサ。
「あのフードの男。さっき呟いていたがギルなのか?」
「恐らくですが間違いないかと。今は仮面の男で出場しているようです。」
「・・・決勝か、面白い。」
アランの不敵な微笑みにメリッサはただ困惑した。
決勝トーナメントが始まり四人は順当に準々決勝へ駒を進めた。
「さあ、準々決勝第一試合はメリッサVSポーです。始め!!」
対決は圧倒的にメリッサが優勢だった。
「メリッサさん、戦いに集中できてない気がします。」
「ミーナさんもそう思いますか。」
「はい。いつもの気迫が感じられ・・・アッ」
メリッサは槍を弾かれベスト8に終わった。
「お疲れさまでした。」
「前回より一つ上でしたねメリッサさん。」
「二人とも・・・ありがとう。」
客席に戻ったメリッサを労う二人。
「次はアノ仮面男さんですね。相手はケロッグさんです。」
「ケロッグはマリクリシア騎士団期待のルーキーと聞いたことがある。」
「わあ~楽しみです。」
勝負は一瞬で着いた。仮面男の一振りを防いだケロッグは地面に叩きつけられ気絶した。
静まり返る観客。
(当然か・・・。しかし、あの戦い方お前は変わってしまったのか?)
「次は隊長さんです!!」
「メリッサさん。対戦相手のマスタングさんはどんな方かご存じですか?」
「彼はマリクリシア騎士団三番隊隊長の中々の手練れだ。」
「大丈夫でしょうか隊長さん。」
「我々の隊長です。きっと大丈夫ですよ」
「そうですよフローラさん。アランさんなら勝ち進んでくれますよ。」(アランさん・・・。)
一方。
「マスタングさんか、アランも厳しい相手に当たったな」
「君と同じ隊長クラスですよ?」
「嫌味言うねマルスさん。知ってるでしょマリクリシア騎士団の隊長が1に行く程強いってことあの人総指揮官で一番隊隊長も兼任してるアドラス卿抜いたら二番目に強いんだぜ」
「知ってますよ。隊長・・・。」
「アランなら大丈夫だろ」
準々決勝第三試合であるアランの試合も一瞬で終わった。開始の合図と同時にアランは斬りに掛かり、マスタングが抜刀する前に首元に剣を立てた。
「マスタング隊長を剣を抜かせずに倒すとは・・・。」
「言ったろ、アランなら大丈夫だって。さあ次は俺達の対決ですよマルスさん。」
「準々決勝第四試合、皆さんが最も注目していた試合ではないでしょうか、元マリクリシア騎士団七番隊副隊長マルスVSマリクリシア騎士団七番隊隊長タケルです。始め!!」
観客のボルテージは最注目の対決とあって最高潮、お互いの剣が交わるたびに歓声が上がった。
「凄い歓声ですね。」
「未来の騎士団を担う逸材と称されている二人と言われているみたいですからね、しかしタケルという男なかなか面白い戦い方をしますね。」
「私もビックリです。タケルがこんなにも強く逞しく成長しているなんて!メリッサさんから見てタケルのどんな面が面白いと思われますか?」
「彼の戦い方は騎士としての基礎基本を徹底して行いながら、おそらく騎士としてやっていく前に身に付けた戦士の動きが良い具合に共存し力になってます。一度手合せして頂きたいものだ。」
メリッサの戦いを見る目はギラギラと輝いている。
「彼は義勇軍の一員です。いつでも手合せはできますよ。」
「そうでしたね。それにしても、マルス殿はらしくないですね。」
「アァー!メリッサさんもそう思いますか。やっぱり変ですよねマルスさん」
「ここからでも判る、彼が・・・。」
「焦ってません?」
一方的に斬りにかかるマルスに突然タケルが話しかける。
「なにを。」
「なんか、前に指導して下さった時と比べると大振りだし力任せで剣筋が読みやすいです。」
「それは今、劣勢に立たされている貴方の負けた時の言い訳ですか?」
「・・・。なんか残念ですマルスさん。」
これまで全て剣で弾いていたタケルが横にステップし攻撃を躱すとすかさず反撃。
(なんだ、これがタケルくんなのか、この半年で物凄く成長してるじゃないか。)
一転防戦一方の展開となり動揺するマルス
「決めるぜ。」
軽い足取りでマルスの後ろを取り素早く鋭い剣を振り抜く、マルスの剣は弾かれ勝負が着いた。
「決まった~!!勝者はタケル。これでベスト4が出揃いました。」
観客の拍手で立ち上がるマルス。
「マルスさんありがとうございました。」
「強くなりましたね。」
「また対決しましょ。マルスさんが本来の戦い方を取り戻した時に」
「僕の戦い方・・・。そうですね。また次の機会に」
二人の握手で準々決勝は一通り終わった。
「ここでお知らせします。準決勝第一試合のポーVS仮面男ですが、ポーさんが辞退したため仮面男さんの不戦勝とさせていただきます。なお第二試合のアランVSタケルは10分後に始めます。」
ざわめく観衆。
「どうしたのでしょうか?」
「準決勝で辞退・・・。嫌な予感がします。」
「私が調べましょう。」
「マルスさんお疲れ様です。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。わかり次第報告します。」
マルスは休むことなく調査へ向かった。
「何があったのかな・・・。」
「騒がしいな。」
「せっかくアランと対決できるってのに穏やかじゃないな」
「そうだな。」
「なあアラン。話しはいろいろ聞いてるけどさ、過去に囚われ過ぎじゃないか?」
「・・・何?」
「確かによ、過去を振り返って反省したり過去から学ぼうとすることは大切だと思うぜ、でもよ今、そしてこれからのことを考えようぜ、失ったものは戻ってこないし、今のアランを見たらアランに託して先に行っちまったヤツらは・・・」
「お前に何が分かるんだ!」
胸倉を掴みタケルを壁に押し付けるアラン。
「わからねー。確かに俺はそこにいなかったから分からないけどよ、俺だって離れていたが義勇軍の一員として一言言わせてもらえばな、いつまでもクヨクヨしてんじゃねーよ。俺はそんなお前についてきた覚えはないぞ!!」
「タケルお前・・・。」
「アランさん、タケルさん間もなく準決勝第二試合始めますので準備をお願いします。」
腕を振りほどき先に控え室を出るタケル。
「今のアランなら俺負ける気がしないぜ。」
「お待たせしました観客の皆様。準決勝第二試合アランVSタケル間もなく始めます。」
観客は待ちわびたと言わんとばかりに声を張る。
「アランさんとタケル・・・・。」
「どちらが決勝に行きますかね?」
「難しいですね。二人とも底知れる実力を秘めているように見えますからね。」
「アッ始まりました。」
コロシアム内が凍りついた。準々決勝のように素早く切り込むアランの剣を間一髪でタケルが防いだ。
「いかん。」
場内がざわつく。アランの攻撃はタケルの首を斬らんと観客でもハッキリと分かる殺気に満ちていた。
(これは・・・ヤバい)
攻撃を受け止めながらタケルも察していた。
「いかん、隊長」
メリッサはアランを止めようと動き出す。受け止め続けたタケルだが不意の強力な一撃に吹っ飛ばされた。止めを刺さんと言わんばかりに突っ込むアラン。
「やめて!!」
ジャキーン!!
アランの剣はタケルの顔まで数㎝で何者かの剣に止められていた。
「ア・アドラス卿。」
二人の目の前にはアドラスが立っていた。素早くアランの腹に拳を撃ち気絶させる。
「この対決はアランを失格とし勝者タケル。」
コロシアム内は静寂に包まれた。
(おい、おい小僧)
(誰だ?誰かが俺を呼んでいる。)
「起きろ小僧!!」
勢いよく起きると殺風景の空間にあの男が立っていた。
「ソウル・・・。」
「自分が何をしたか分かっているか。」
「あぁ。」
「悲しむなとは言わん。仲間の死を割り切れるようなヤツはお前の目指す高みには到達できんし、俺はそんなヤツ嫌いだ。」
「・・・。」
「乗り越えろ。これからお前はどんどん失うことになる。一つ一つにそのような感情移入をしていては、やがてお前は壊れることになる。」
「分かってるんだ。だけど。」
「お前の仲間はあの小僧だけか?」
「!?」
「小僧、お前にはまだ数多くの支えてくれる仲間がいるはずだ、この仲間達を失わないためにはどうすればいい?」
「強くなる・・・。」
「答えは出ている。幸いお前の仲間は皆お前を想ってくれている。必ず力になってくれる。一人で背負い込むな、道は開けているのだから・・・。」
「気が付いたか?」
目覚めると身体はベットの上にあり、アドラスが本を読みながら座っていた。
「自分がなにをしたか・・・。」
「大丈夫。やるべきことがようやく解った。」
「そうか・・・。おかえり。」
「!?」「ただいま。お祭りは?」
「今、決勝の最中だ。」
「大変ですアドラス卿」
青ざめた兵士が勢いよく部屋の扉を開ける。
「なにごとだ?」
「コロシアム内に魔物が現れました。」
「なんだと!?」
「観客を避難誘導していますが、突然のことでパニックを起こしています。魔物には騎士と義勇軍の方々が対応しております。」
「案内してくれ」
アランはすでに臨戦態勢になっていた。
「任せてもいいのだな?」
「・・・はい。」
「では頼んだ。君この者をステージまで案内してくれ、私は避難誘導をしよう。」
「ハッハイ、ではついてきてください。」
アランは急いでステージに戻った。
「さあ、ついにここまでやって参りました。決勝戦。始め」
先程の静寂が嘘のようにコロシアムは盛り上がっていた。
「タケル。優勝出来ますかね?」
「相手があの仮面男さんですから、なんとも言えませんね。メリッサさんどうかしましたか?」
「いや、何でもない。」(ギル・・・。)
再びコロシアム内が静寂に包まれた。両者は全く動く素振りをみせない。
「どうしたんですかねタケルさんにあの仮面男さん。」
「おそらくお互いを牽制し合っているのだよ、それだけハイレベルな対決なんだ。」
両者を固唾を呑んで見守る観衆、先に動いたのはタケルだった。
鋭い先制攻撃はかわした仮面男の纏った衣服を裂いた。湧く観衆
「甘い。」
すぐさま反撃の剣がタケルを襲う。間一髪剣は空を切ったがタケルの髪が数本斬られた。
「あぶね~」
「運がいいな、小僧。」
「小僧って言われる程年の差ないでしょ元クオート騎士団大隊長ギルさん?」
「!?。何故そう思う。」
「ギルさんの死と噂とアンタが出現した時期が同じであることと俺の勘あとは・・・。」
「なんだ。もったいぶって。」
「アンタのかつての仲間で俺達の仲間がそう確信していること。」
「そうか、やはりアイツは気が付いているんだな。」
そう言うと仮面男は自ら仮面と身ぐるみを剥がした。
「おい、あれギル大隊長じゃないか?」
「でも彼は死んじゃったはずじゃ。」
コロシアム内に動揺が走る。
「だが、ここにいる人達が知るクオート騎士団大隊長ギルはもう居ない。」
するとギルの周囲が黒い霧に包まれ霧が晴れると魔物が現れた。コロシアム内は悲鳴と混乱が錯綜しパニックとなる。
「アンタ・・・。」
「これが俺のなれの果てさ」
魔物は分散しコロシアム内で暴れ回る。応戦する騎士達。
「仮面男さんから魔物が!?」
「私達も手伝いましょう。・・・メリッサさんどちらへ?」
「ここは任せます。私は・・・。」
そう言い残し走りさるメリッサ。ミーナは追いかけようとするが見失ってしまう。
「ミーナさん、フローラさんご無事で何よりです。」
マルスが慌てて戻って来た。
「メリッサさんはどちらに?」
「はぐれてしまいました。」
「そうですか、今更このような情報は無駄ですが、準決勝を辞退したポーさんはかなり重症の怪我で今治療を受けていました。」
「えっ!?」
「恐らく何者かに襲われたのかと」
「そうですか。」
「ミーナさん。仮面男さんいなくなっちゃいました。」
「えっ!?」
ミーナがステージに目を向けるとタケルだけが残っていた。
「くっそ~、どこ行きやがった。」
「タケル大丈夫か?」
振り向くとアランが立っている。
「おっ、おうアラン。俺は大丈夫だぜ。」
「敵は?」
「それが逃げられちまった。」
「そうか、手がかりはないのか?」
「これといってだな、しいて言えば仮面男の正体が元クオート騎士団大隊長ギルだったってことぐらいでさ」
「そうか、どこに行ったんだ」
アランの様子の変化に気が付いてニヤつくタケル。
「なんだ。人の顔みてニヤついて。」
「いや、いつものアランだなと思って。」
「迷惑かけたな。」
「な~に、立ち直るってことは分かっていたさ、なんたって俺はアランの最初の仲間だからな」
「そうだな・・・。」
「!?、おいアラン後ろ」
そう言われアランが振り向くと・・・。
「やはり、ここに来たんだな」
ある石碑の前を訪れたメリッサ。石碑の前にはすでにギルが立っていた。
「よくわかったなここに来ることが」
「あの日以来お前は毎日ここを訪れていたからな、・・・あれはお前の責任じゃない。」
「あんな絶望的な状況で無謀な判断をし、多くの同志の命を散らしてしまった。」
「助けを間に合わすことの出来なかった私にも責任がある。」
「いや、君は悪くない。あの時私が君の助言に耳を傾けていれば・・・。いやこの話は終わりだ。さあどうする。今の俺はこの混乱を招いた張本人であり、魔物の出現源だ俺を倒さない限りこの混乱は治まらないぞ」
「私が止める。そしてこの過去との決着をつける。」
メリッサは槍を片手にギルに突っ込む。ギルは槍を軽く受け流す攻勢のメリッサだが、槍は一向に当たる気配がない。
「どうした昔のほうがキレも鋭く迫力があったぞ。・・・いや何を葛藤している?」
「・・・。」
「躊躇っているのか?戦うことを、俺は止まらないぞ。」
「それでも・・・私は・・・。」
「えぇい。」
メリッサは突き飛ばされる。
「そんな生半可の覚悟で止めに来るとは見損なったよ。・・・君も彼らのもとに行くといいその引導を私が渡そう。」
ギルの剣がメリッサを襲う。
ギャキーン。
「大丈夫かメリッサ。」
ギルの剣はアランの剣に止められていた。ギルが距離を取る。
「隊長なぜここが?」
「俺の相棒が教えてくれた。」
「キュウキュウ♪」
アランの肩に乗ったピケが得意げな表情を見せる。
「アラン!見つかったのか?」
あとからタケルとミーナが追いついて来た。
「皆、コロシアムは」
「コロシアムはマルスさんを中心に合流したハドソンさん、フェルトさん、フローラさんが騎士団の方々と協力して対処してくださっています。」
「そうですか。」
「いやあ、隊長くん。その目。どうやら悩みは晴れたのかな?」
「あぁ、俺からも一つ。アンタまだ葛藤しているみたいだな。」
「なに?」
「完全に闇に堕ちようとしている今の自分と過去の自分が狭間で揺れている。」
「・・・。」
「闇に打ち勝つことはアンタならできるはずだ。」
「黙れ!!」
ギルの今まで見せなかった感情に静まり返る。
「あの日のことは今でも忘れない。1年前とある魔物討伐依頼を受けたクオート騎士団は俺と数十名の同志を連れてその依頼を受けた。簡単な依頼のはずだった。あんなのが現れるまでは」
「あんなのとは?」
「今でも珍しい。知能を持った魔物の上位種それが依頼場所に3体いたという。互いに情報を共有し統率された魔物に苦戦しギル達は救援要請をしたが、当時クオート騎士団はその依頼と並行してマリクリシア騎士団と合同で大規模な魔物掃討戦に参加しており救援に向かうことができなかった。」
「当然俺も分かっていた。だから打開策として打ち立てたのが『一点突破』で撤退していくことだった。同志達はさぞ思っただろう。『無謀過ぎる』とだが大隊長だった俺の言うことだから皆反対することが出来なかった。そして実行した結果が俺以外の同志全員が死んだ。俺は悔いたよ、メリッサの言うとうりもっとバランス良くメンバーを構成すべきだった。とか他に方法があったんじゃないかってな。」
「当時の主力は全員魔物掃討戦に参加して、ギルは入隊2,3か月の新兵の育成も兼ねて依頼を受けたんだ。」
「今でも夢に出てくる。あの後悔の出来事が・・・。お前に分かるか?自分の判断ミスで大勢の仲間が死んでしまったこのやるせない気持ちが」
「それがどおした。」
アランの威圧的な叫びに鳥肌が立つ一同。
「アンタあの時言ったよな?一緒の目をしてるって、確かに俺もあの時仲間の死を引きずっていた。自分を責め続けた。もうそいつが戻って来られない決断をしたことを悔やんだ。でも仲間は一人じゃない。俺を信頼し俺を支えてくれる仲間はそいつだけじゃない。アンタもそうだろ」
「・・・。」
「だから俺は強くなる。これ以上仲間を失わないために、仲間を守るために俺は戦う。」
「面白い。なら守ってみせろお前の仲間を」
ギルは再び魔物を召喚し一同を襲わせる。
「アラン。こいつらは俺とメリッサさん任せろ。」
「タケル!ミーナを頼むぞ。」
「オウ。任せとけ!!」
魔物をタケルとメリッサに任せアランはギル目掛けて突っ込んでいく。その光景をミーナは目を潤ませながらどこか懐かしそうに見守っていた。
激しい攻防を繰り広げるアランとギル
「これで終わりっと、流石ですねメリッサさん」
「タケル殿も素晴らしい腕前、いずれ手合せ願いたいものです。」
「それはどうも。」
「ところで二人は・・・。」
徐々に明暗がハッキリとしてきた。
「まさかここまでとはな」
ギルが膝をつけることが多くなってきた。
「過去で止まったアンタに未来へと歩み出した俺が負けるもんかよ」
「それはどうかな?」
立ち上がるとギルは黒い霧に包まれ邪悪な鎧を身に纏う。
「行くぞ。」
その瞬間、アランの身体が宙を舞った。宙で体勢を立て直すアランだが刹那的スピードのギルについてゆけず連撃を食らい地面に叩きつけられる。
「アランさん!」
近づこうとするミーナを止めるタケル。
「さっきまでの威勢はどうした。」
ギルが剣を振りかざすと
「ヤメろ~」
メリッサが突っ込む
「邪魔だ!!」
ギルは即座に攻撃対象を変えメリッサに直撃する。その攻撃で飛ばされたメリッサは身体を壁に打ち付けられ気を失った。
「メリッサさん!」
タケルとミーナが急いで駆け寄る。
「貴様~!!」
アランの怒りの一撃を受け止めるギル。
「いつまで勘違いしてるつもりだ。アンタがその件以来悩んでたように、メリッサも悩んでたんだろ、そして彼女はアンタを支えようと常に気にかけてくれていたんじゃないのかよ」
「!?」
「なぜ、その思いに答えようとしないアンタにも支えてくれる仲間がいるじゃないか」
「なっ、なにを」
「その思いをまだ踏みにじるというのなら俺はお前を許さない。」
アランの怒りに答えるようにエナジーブレードがギルの鎧から出る邪気を吸収する。距離を取るギルは突然乱れ狂う。
(感じるか小僧。)
(ソウル・・・。感じるよ。自分のなかに封じ込めてる本来のギルが闘っている。それがエナジーブレードから伝わってきてる。)
(ヤツを解放してやれ小僧。)
「オウ。」
吸収した邪気はアランのオーラのようにアランの身を包む。斬りこむアラン。刹那的速度の攻防戦が始まる。
「二人が見えません。」
「僅かながら、アランのほうが速度で上回っている。」
やがてギルが地面に叩きつけられアランが上空で剣を振りかざしたところでミーナが目視できるスピードまで落ち着く。
「自分で作った殻をぶち壊せギル!!」
纏ったオーラをエナジーブレードに集約し止めの一撃を振りかざす。ギルの絶叫と共に鎧は砕けた。
「やった・・・。」
脱力する身体をタケルが支える。
「お疲れアラン。」
「タケルサンキュー。」
「アランさん。」
思わず抱きつくミーナに照れるアラン。
「良かったご無事で。・・・ハッ失礼いたしました。」
咄嗟に離れるミーナ
「ありがとう。アラン君」
目を覚ましたギルの顔からは自然な笑みがこぼれた。
「君のおかげで僕は自分で作った殻を破ることができた。」
「俺は手伝っただけです。」
「そういえば、どうしてギルさんは魔物を召喚出来るようになっていたんですか?」
「騎士団会議襲撃事件あったろ、あの時に出た魔物は僕が生み出した。」
「えっ、どうやって?」
「その日、『君に力を与えよう。誰よりも強大な力を』って言って力をくれた人がいたんだ。どんな人物か忘れてしまったけど、その人に貰った力が魔物を生み出す力だった。その日からだね僕が闇の力に取り込まれたのは」
「確か亡くなったのでは?」
「あの力を使えば死を偽装することは難しいことでは無かったよ。」
身体を起こすギル。
「さあ、タケル君僕を拘束してくれ、僕は今回の件の首謀者であり、騎士団会議襲撃事件の犯人の重罪人だ。」
「そうだな、立派な重罪人だ死刑もあるかもな。」
メリッサが目を覚ましギルに近づく。
「メリッサ。君には本当に酷いことをしてしまった。先に逝った同志達にも顔向け出来ないな。」
手を差し出すメリッサ。
「お前が刑期を終えるのを私はいつまでも待っている。刑期を終えたら二人でやり直そう。」
「いいのか?」
「あぁ、幸い今私が所属している組織のリーダーは懐が広い方だからな、志同じくする者は受け入れてくれる。」
「いいぞギル、俺達はいつまでも待ってる。」
「ありがとう。アラン君」
メリッサの手を借り起き上がる。
「おいアラン、勝手に決めていいのかよ。他のメンバーと相談とかさ、あと仲間入れる時ぐらい一報入れろよな!俺も義勇軍の一員なんだから」
「まあまあタケルいいじゃないか」
「タケル、小さいことは気にしない方がいいですよ」
「ミーナまでそんな扱いかよ」
自然と笑い合う一同。
「・・・。じゃあ行きますかギルさん」
「えぇ、お願いします。」
こうして一つのお祭りは幕を閉じた。
三日後、マリクリシア騎士団本部にて
「諸君今回の一連騒ぎでの対処は非常に助かった。ありがとう。もう帰るのか?」
「えぇ、招待して頂きありがとうございました。」
「気休め程度にはなったのかな?」
「はい。」
「アドラス卿」「兄上」
突然、タケルとマルスが一歩前に出る。
「どうした二人共?」
「俺、義勇軍に戻らせて下さい。」
「私を騎士団に復隊させて下さい。」
「ほう。何故だ?」
「俺、アドラス卿には本当に感謝してます。俺が騎士としてここまでこれたのはアドラス卿のおかげです。でも、ここ数日アランやミーナと再会して一緒に過ごして思ったんです。どんなときも第一に義勇軍のこと考えていたし、心のどこかに必ず義勇軍の存在がありました。俺はやはり今は『騎士タケル』ではなく『義勇軍のタケル』としてやっていきたいです。」
「兄上、私は義勇軍に参加したおかげでここでは体験することのなかった経験をたくさんさせて頂きました。この経験をマリクリシア騎士団に還元していきたいと思います。それと所属は一番隊を希望します。」
「ほう。」
「兄上を超えるために兄上の下で活動したい。」
「そうか、わかった。許可しよう。七番隊には新たに人員配置するとしよう。」
「ありがとうございます。」
「恐れながらアドラス卿。私はこのまま刑期は三日でよろしいのですか?」
ギルは恐る恐る頭を上げた。
「ギル、本当なら君の犯した罪は終身刑や死刑になっていたことであろう。しかし、君のその力をそのままにしておくのは勿体ないと判断し、義勇軍と共に行動し贖罪することを罰とした。」
「・・・。ありがとうございます。」
思わず涙を流すギル
「義勇軍よ、彼を頼む。」
「わかりました。では失礼します。」
マリクリシア騎士団本部を後にする義勇軍一同。
「隊長。半年間お世話になりました。」
「マルス。こちらこそありがとう。」
出発して暫くして。とある草原で
「やっぱり寂しいです。」
「フローラ、またいつでも会えるわ、生きてる限り。私達と彼は仲間なのだから」
「おおフェルト良いこと言うじゃないか」
「黙ってスケベ親父」
「なっ、まだあの時のこと根に持ってんのかよ」
「えぇ、一生の不覚だわアンタに付き合ってあんなことになるなんて」
「ハドソンさんなにやらかしたんですか?」
「大したことじゃないんだが・・・。その冷気抑えろフェルト!」
「いつもの賑やかな帰路ですねアランさん。」
「そうだな。」
「あの。」
突然ギルが声を出す。
「隊長やタケル君はその場にいたからまだしも他の皆さんは私がメンバーになることになんの抵抗もないんですか?」
「俺達は隊長を信じてるからよ、隊長が信頼してるヤツを疑わねーよ」
「私もです!!」
「・・・。私も」
「皆さん・・・。ありがとうございます。」
「これが、義勇軍だ。」
ギルの肩を組むメリッサ。
「メリッサ・・・。」
「おお、メリッサそいつがお前の男だったのか?」
「なっ、そ・そんな関係ではないセクハラだぞハドソン殿」
「満更でもなさそうだぞ」
「なっ、ギル貴様も何か言い返さんか!」
なぜか拳骨をぶつけられるギル。
「大体、そうゆうキャラはツバイだけで十分だ。」
「おいおいあの変態と一緒にしてくれんなよ」
「どっちも変わらないんじゃないかしら」
「フェルトてめー」
「にっ・賑やかですね・・・。」
「ミーナ顔引きつってんぞ。ところでよアラン。」
「タケルどうした?」
「決闘祭準決勝の再戦しようぜ」
静かな風が吹き流れる。
「あぁ、いいぞ」
「ここでやるんですか!?」
ミーナの呆れ顔を余所に周りはやるムードになる。
「おい、ギル!審判を頼むぜ」
「わかりました。ではこれより義勇軍所属アランVS同じく義勇軍所属タケルの決闘祭準決勝再試合を行います。両者騎士道精神に則り正々堂々と戦うこと」
「あぁ、」「おう」
「では、始め!!」
「行くぞアラン!!」
「来いタケル!!」
満遍なく広がる青空の下、二人はこれまでの空白の時を埋めるかのように凌ぎを削り合った。
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