第4章

アラン達がラグーンシティーから帰還して2か月余り月日が経った。この2か月で失いかけた信頼を死に物狂いで取り戻し、さらに規模が拡大。アースショウトにパイプを残しつつ義勇軍の本部ともいえる専用の建物を所有する一大勢力にまで義勇軍は成長した。メンバーもラグーンシティーで仲間になった「最高レベルの魔導兵士フリット」と保留となっていた三人の志願者を含め15人になった。


「お前中々やるな!」


「いやいや、フリットさんに比べたら私などまだまだです。」


フリットの相手をしていたのは魚人で武闘家として名を馳せたハック


「フローラ、この魔法はこうゆう術式よ」


「そうなんですか!フェルトさんありがとうございます。」


フェルトに魔法について学んでいるのは治療魔法やサポート魔法を得意とし真面目でおっちょこちょいな魔法使いの少女フローラ


「また、少しずつ上達してきましたねシンジくん」


「クツォー。まだ一太刀も与えられないのかよ」


マルスと剣の特訓をしているのが、とある村から志願してやって来た少年シンジ。


「義勇軍もだいぶ大きな組織になりましたね。」


活動記録を書きながらピケと遊ぶアランに話しかけるミーナ。


「でも、まだまだだよ、義勇軍はもっと強力で強大な組織になるんだ。ようやくスタートラインに立ったったとこかな」


「アラン隊長失礼します。」


アランの部屋にメリッサが入ってくる


「ミーナ殿と談笑中でしたか、失礼しました。」


「大丈夫ですメリッサさん。なにかありましたか」


「ジングス殿がお見えです。」


「ジングスさんが!?」


すぐに玄関に向かう。


「お~お~お~お~!!随分立派な建物じゃないか、うちのギルドもそろそろ改築すっかな」


「ジングスさん。どうしたんですか?」


「おお、ミーナ久しぶりだな!義勇軍も今や立派な一組織だもんな、お前らがいなくなって俺は寂しいぜ」


「依頼ですか?」


「・・・。ったくつれないなアラン隊長さん。そうだ。お前達も独自に各々が依頼を受けているだろうが、全てキャンセルして引き受けて欲しい緊急の依頼だ。」


「内容は?」


「メンバーを全員至急集めろ。話しはそれからだ。」


それから少し時が経ち義勇軍全メンバーが会議室に集まった。


「隊長よ緊急招集とはどういうことですか?わざわざ今受けようとした依頼をキャンセルしてまでの用件とは?」


レオは不満げな表情でアランに問い詰める。


「今回、全メンバーを緊急招集したのは、依頼主が緊急の依頼だと仰ったからだ。」


「依頼主とは?」


「すまんな、俺だ」


「ジングスさん!?」


「正確にはアースショウトへの依頼でな、依頼主はターパン行政府だ」


驚く一同。


「最近、ターパン郊外にあるとある村が魔物に頻繁に攻撃を受けるようになってな、そこは山々に囲まれていて行くのに一苦労する場所だ。近くに砦を築いて応戦しているがこのままではいずれ突破される。仮にその村を占領されるとなると、ターパンはこれまで以上に魔物に襲撃されちまう。援軍を出したいがなにせコッチも町中の魔物で精一杯でな、援軍を出す余裕がない、そこで少数精鋭のお前らに援軍として行ってもらい、砦とその村を守って欲しいんだ。」


「とある村とは?」


「エダー村ってんだ。」


「確か、その地形ゆえに村には武器すら置いてないといわれる平和な村ですよね?」


ガシャーン


食器が落ちる物音が鳴り響く。


「どうした、シンジ。ビビってんのか?」


「そんなんじゃね~よ。」


シンジをからかうレオ、それを抑えるムウ。


「とにかく、準備が出来次第すぐに向かってもらいたい、なんせ中に入ることに一苦労するような場所だからな、報酬はそれなりの額になるはずだ、。」


「聞いてのとうりだ、準備が出来次第出発する皆なるべく早く仕度を済ませてくれ。解散!!」


「仕度を整えたらここに来てくれ。ターパンの兵士が100人待ってるはずだ、馬も何頭か支給されるみたいだから使うといい。」


翌日、義勇軍は100人のターパン兵を連れエダー村を目指していた。


「アランさん、シンジくんの様子についてどう思います?」


俯き気味に歩くシンジを心配そうに見つめるミーナ。


「あの時の様子からしてエダー村と関係があるんだろうけど、まさかな」


「シンジ君の出身地・・・。」


「その可能性が高いかな。」


「守りましょう絶対!!」


「もちろんだよ。」


砦に着くと砦を守る兵士達が魔物と奮闘していた。


「義勇軍の方々ですね、話しは伺っています。申し訳ないのですが、すぐに戦闘に加わって頂きたい。」


「了解しました。マルス・メリッサ・乱丸・レオ・フリット・ハックそしてシンジは俺と一緒に最前線で戦ってくれ。ムウは、ハドソンさんとツバイを率いて後方支援に回ってくれ。」


「了解です。アラン隊長。」


「ミーナとフローラは砦に残って負傷兵の治療を、フェルトは後方支援しつつ負傷者の治療に当たってくれ、」


「了解。」


「アランさん、お気をつけて。」


「うん。行ってくる。」


最前線は魔物と砦の兵士が入り乱れていた。


「義勇軍だ!」


「お~。義勇軍だ!!」


「義勇軍が増援としてこの戦いに参加させてもらいます。皆さん踏ん張りましょう。」


「オー!!!」 


士気を揚げた兵士達の力もありその戦いは魔物を退ける。しかし魔物は容赦なく第二陣・三陣と時間を置いては次々に砦を攻めてきており、義勇軍も砦を守る兵士も疲弊していき三日間守りとうしてきたものの、疲労の色が濃くなるばかりであった。


四日目の夜、疲弊している砦を守る人達を労いにエダー村の人々が差し入れを持って砦を訪れて来た。


「シンジ?シンジじゃない!!」


エダー村の人と思われる一人の女性がシンジを見つけると泣きじゃくりながらシンジに駆け寄った。


「かっ、母さん!やめろよ。」


「あんた、しっかりとやってるみたいね良かったわ。指揮官の方は?」


「あそこにいるよ。」


シンジのお母さんがアランに近寄る。


「シンジの母ミサトでございます。息子がお世話になっているようで」


「義勇軍隊長アランです。シンジ君にはいつも助けてもらってます。」


「そうですか・・・すいません。私達の村なのにこんな辺境の地まで守りに来ていただいて。」


「いえ、素晴らしい心掛けだと思いますよ。平和のために武器をとらずにあろうとすることは、難しいことです。そんな意志の強い場所を守ることは今後のためにも非常に重要なことだと思いますよ!」


「ありがとうございます。良かったら村にいらしてください。」


「しかし・・・」


「隊長さん。行ってきなさいよ。」


砦の兵士が後押しする。


「皆さん・・・。宜しいのですか?」


「構いませんよ。その間は我々がしっかりと守りますから!坊主!!お前あの村出身なんだろ行ってこいよ。」


「いや、俺は・・・」


「シンジ君。ここはお言葉に甘えて良いと思いますよ。」


「ミーナ・・・。じゃあアランもミーナもついてきてよ。」


こうしてアランとミーナはシンジとミサトと共にシンジの故郷エダー村を訪れた。


 二人はシンジの実家に泊まらせてもらった。


「ごちそうさまでした。お母様おいしい朝食でした。」


「あら、ありがとう。・・・シンジどうしたの?」


「こんなことしてていいのかな・・・って。こうしてるうちにも魔物が」


「心配するな、さっきムウから連絡があって魔物は現れなかったそうだ。」


「でもよ、アラン・・・」


「大丈夫だ。義勇軍の仲間を信じろ。」


「オウ・・・。」


「お二人さんこの村を存分に堪能してくださいな。シンジしっかり案内するのよ」


トントントン。


ドアを叩く音がした。ミサトが嬉しそうに扉を開けるとシンジと同い年くらいの少女が立っていた。


「レイちゃん、いらっしゃい。」


「おばさん。今日も・・・。シンジ?」


「レイ・・・。」


「!?」「おばさんまた明日来ます。」


足早に去っていくレイ。


「もう。素直じゃないんだから」


「ミサトさんあの子は?」


「レイちゃんよ。シンジの幼馴染なの」


「彼女はなにをしに来たんですか?」


「それは秘密よ。それよりもこの村を楽しんでくださいな」


三人は家を出て村を歩き回ることにした。


「村の皆さんとても笑顔が素敵ですね」


「争いごととは無縁の村だったからね、自然と皆笑顔でいられるんだ。」


「あの子さっきの女の子じゃないのか?」


アランの視線の先ではレイが複数の悪ガキに囲まれていた。


「あいつら」


シンジは一目散に走っていく。


「レイまたお前シンジの母ちゃんのところでおママごとしてんのか」


「・・・。」


「あんなへなちょこのためになにしてんだか、ハハハァ」


「シンジはお前らなんかよりずっと立派だ、お前らがシンジをバカにするなデブ。」


「なっ。相変わらずの減らず口だなそんなにコテンパンにしてほしいか」


「やめろ~。」


怒りの形相のシンジが間に入る。


「おや、これはこれは行方不明だったシンジさんじゃありませんか?立派な戦士にでもなって帰ってきましたか?所詮口先だけの・・・」


「シンジ君は義勇軍の仲間として日々一生懸命戦っています。勝手なこと言わないでください。」


ミーナが割って入る。


「なんだこの女、邪魔だ」


悪ガキの一人がミーナを突き飛ばす。突き飛ばされたミーナの身体を支え悪ガキ達を睨むアラン。


「いっ、行こうぜ。覚えてろよ化け物女。」


悪ガキ達は慌てて立ち去った。


「大丈夫か。」


「アランありがとう。レイなんでまたケンカを吹っ掛けるんだ?」


「!?」「貴方には関係ないでしょほっといて。」


レイは走って去ってしまう。


「アランさん私、彼女を追いかけます。」


「わかった。ミーナ気負つけてな。」


「はい!」


追いかけに行くミーナ


「どこかでお茶するか。」


シンジの肩に手を置き再び村の中を歩き出した。


 「レイさん待ってください。」


必死に追いかけるミーナ。とある橋に差し掛かったところでレイは立ち止った。


「貴女は私の知らないシンジを知ってるの?」


「どうゆう意味ですか?」


「私、ずっとシンジのそばで過ごしてた。でもシンジ突然いなくなった。貴女私の傍からいなくなった間のシンジのこと知ってる?」


「・・・そうですね。仲間ですから、良かったら聞かせて頂けませんか?シンジくんと貴女のお話しを」


近くのベンチに座る二人。


「私の家。特別な家。村の人表に出さないけど皆私の家恐れてる。」


「レイさんの家はどう特別なのですか?」


「ご先祖様が昔強大な敵と戦うために創り上げた『生きた兵器』を管理してる。」


「『生きた兵器』ですか・・・」


コクリと頷くレイ。


「その兵器を封印してる場所管理してる。皆その兵器が動き出すこと恐れてる。私の家その兵器を恐れる事無く管理してる。皆気味悪がる。」


「そうなんですか。」


「でも、その兵器が封印されながら発生させている結界でこれまで皆幸せな生活送れてた。私それ知ってる。」


「それがエダー村が武器の無い平和な村でいられている理由・・・」


再び頷くレイ


「これ、秘密。他の人に話しちゃダメ」


「わかりました。」


「シンジの家私の家に普通に接してくれる唯一の家。だから私好き。シンジのお父さん好き。お母さん好き。シンジも・・・」


顔を真っ赤にするレイ。


「シンジ。優しい。いつも私。守ってくれた。シンジ皆に優しい。いつも皆のことを第一に行動する。シンジ凄い。『英雄になる』夢諦めずいつも一生懸命。私そんなシンジ・・・。」


再び真っ赤な顔をするレイ


「大好きなんですね。」


優しく微笑むミーナに頷くレイ。


「でも、シンジ『力』。無かった。私守ってくれる。でもいつもボロボロ。」


不安そうな表情をみせるレイ。


「大丈夫です。シンジ君は義勇軍の一員として立派に暮らしています。」


「そう・・・。シンジ強くなった?」


「レイさんの言う強さがどんなことを言いたいかは解りませんが、レイさんが言うようにシンジ君は元々強い人だと思いますよ。」


再び笑顔を魅せるレイ。


「仲直りしに行きましょ。」


レイの手をとりミーナは歩き出した。


 「気になるのか?」


どこか落ち着かないシンジととあるカフェを訪れたアラン。


「あら、シンちゃんじゃない元気してた?」


「おばさん。ご無沙汰してます。」


「最近、うちに来てくれなかったから心配してたのよ。もしかして、またレイちゃんとケンカ?」


「そんなところです。俺はいつもので。アランは?」


「そうだな・・・。シンジと同じモノください。」


「わかりました。じゃあシンちゃんゆっくりしていきなさい」


「ありがとう。おばさん。」


腰をふりながら意気揚々と席を離れるおばさん。


「よく来てたのかこの店?」


「うん。家族で来たり。レイと来たりしていたよ。」


「で、話しを戻すけど・・・」


「レイと出会ったのは5歳くらいだから8年前だったかなアイツ小さい頃からあんな感じで口数少ないし、表情固いしようやく話すと思えばなんか言葉にトゲあってよくアイツらにイジメられててさ・・・」


思い出に浸るシンジの表情に安堵するアラン。


「そんなアイツを偶然助けたのがキッカケで関わるようになってから助けるたびに放っとけなくなってさ、それに関わってく内に少しずつ笑ってくれるようになったんだ。」


徐々に明るい表情を取り戻すシンジ。


「でも、アイツを守るたびにボロボロになる自分が許せなかった。守りきれないこともあったし、『力』が無いことが苦しかった。そんな時に義勇軍の存在を知ったんだ。」


「そうか。」


「嬉しかったんだ。元々人の役に立ちたいとは思ってたし、『力』をつけることもできる理想的なところだと思った。だから義勇軍に参加したんだ俺。最初はやっぱ『力』の無さを痛感したんけど、皆と戦っていく内に自分に『力』つくのがわかるから充実してるんだ。」


「それは良かった。」


「それに、皆といると楽しんだ。レイと一緒にいるだけで何故か皆近寄らないからああやって大勢の人に囲まれて暮らす日々を経験したことがなかった。アイツにも体験して欲しいんだ。義勇軍の皆といる日々を」


「好きなのか彼女のこと?」


少し頬を赤くするシンジ


「好きとは違うかな、放っとけないというかなんというか、それに俺が好きなのは・・・」


「アランさん。こちらでしたか」


レイを連れたミーナが二人を見つける。


「よくわかったね。」


「レイさんが教えてくれたんです。もしかしたらココかもしれないと。なにをお話ししてtんですか?」


「なっ!なんでもないぜ、男同士の重要な会話さ」


「どんなお話しですか?」


「秘密だ!秘密!!なっアラン隊長?」


「あっ、ああ・・・。」


「そうですか。」


他所をみるシンジを納得した顔でみるアラン。その顔に困惑するミーナ。


「あのねシンジ・・・。」


「うちで飯にしようぜ、そろそろ母さんの晩御飯が出来てる。レイも来いよ!」


「・・・。うん行く!」


なにか言いたげな顔をしながらもレイは余程嬉しかったのかシンジの誘いに笑顔で返した。シンジの家に向かう道中兵士が四人目がけて走ってくる。


「隊長さんこちらでしたか」


「どうしたのですか?」


「魔物の大群が砦を突如襲撃。義勇軍の方々が必死に応戦して頂いてくれていますが、ムウさん曰く厳しい戦況につき隊長さんを呼んできて欲しいと伝令を頼まれました。」


「わかった。案内してくれ」


「アラン。俺も」


「お前はせっかくの故郷なんだろ。もっと久しぶりの故郷を堪能してろ。」


「でもよ・・・。」


「・・・。ならこの二人を守るそれがお前の任務だ。」


「!!」「わかった。」


「終わり次第すぐに戻るよ。」


そう言い残し兵士の案内のもとアランは砦へ戻った。


 「あら、三人揃って元気ないわね。」


シンジの家で夕食を頂くも箸の進まない三人。


「くっそー。アッチはどうなんてんだ。」


「シンジくん、アランさんを義勇軍の皆さんを信じましょう。」


苛立つシンジに声をかけるミーナの身体は小刻みに震えていた。


「・・・ミーナはアランのことどう思ってるんだ?」


「えっ。ど、どうしたんですか急に?」


「べっ、別に・・・ほらあのカフェで秘密だって言った話あれ恋愛の話しだったんだ」


「皆、いや世界のために立ち上がった立派な御人と慕ってます。」


「本当にそれだけ?」


「それはですね。その・・・。そんなことよりシンジ君はレイちゃんのことどう思ってるんですか?」


「!?」「なっ、なに!?」


顔を赤くしシンジを見るレイ。台所でナイスと言わんばかりにガッツポーズをするミサト。


「レイは・・・大事な妹だ!妹。放っとけない妹。」


重たい空気が流れる。


「おばさん。ご馳走様でした。今日はこれで失礼します。」


足早に立ち去るレイ。


「あっ。レイちゃんまたいつでもいらっしゃいね・・・。シンジあんたね」


ミサトの表情が一変する。


「そうですよシンジ君。酷いです。」


「だって俺が好きなのは・・・」


「魔物が出たぞ!!」


突如、村中が悲鳴と物の壊れる音に包まれる。


「そんな、魔物は皆が砦で抑えてるはずじゃ」


「とにかく急ぎましょう。レイちゃんも心配ですし、お母様も避難を。」


「ええ。シンジ気をつけなさいよ」


「うん。行ってくる母さん。」


村の中には数体魔物が入りこみ破壊活動を続けていた。


混乱する村の人々。そのなかで今にも魔物に襲われそうなレイを見つける。


「やめろ~」


レイに襲い掛かろうとした魔物を斬り倒す。


「大丈夫かレイ?」


「うん。」


「俺の後ろを離れるなよ。」


「・・・わかった。」


レイを後ろで庇いながら一人奮闘するシンジ。一瞬の隙を突かれ後ろから攻撃を受けそうになる。


「シンジ君!!」


ミーナが二人を押し倒し九死に一生を得る。しかし魔物は庇ったミーナ目掛けて攻撃しようとする。


「ミーナ危ない。」


思わず目をつぶる一同。


「グォ!!」


魔物が倒れる。後ろに立っていたのはアランだった。


「アランさん!!」


「すまん。遅れた。皆無事か?」


「はい。無事です。」


「シンジ。やれるな?」


「はい。」


二人の奮闘で村に侵入した魔物は全て退治できた。


「すまなかった。取り逃がした魔物の侵入を許してしまった。」


深々と頭を下げるアラン。


「アランさん。顔を上げてください。私達はアランさんのおかげで助かったんです。」


「隊長。俺・・・。」


「一人でよく持ちこたえてくれたなシンジ。レイちゃんも大丈夫か?」


「ええ。ありがとう。」


「それで悪いがシンジ。今砦が魔物の一部を突破させてしまうような状況だ。早朝俺達三人は砦に戻るぞ。」


「わかった。」


「今晩はシンジの家に泊まるか」


厳しい表情を隠そうとアランは振る舞い家に戻る。そして朝はすぐに訪れた。


「お世話になりました。」


深々と頭を下げるアラン。


「こちらこそ昨夜はありがとうございました。シンジをよろしく頼みます。」


「はい。」


「シンジ・・・。」


レイは今にも泣きそうな顔でシンジに近寄る。


「どうしたレイ?」


「これ、家に伝わる御守り。きっとシンジの『力』になる。」


「ありがとう。レイ。じゃあ行ってきます。」


こうして三人は激戦の地に再び足を踏み入れた。


 エダー村の砦に援軍としてやって来て一週間が経った。義勇軍を中心としてなんとか砦を守り通してきたものの砦の兵士は疲弊しきりギリギリの状況であった。そんな中。


「大変です。アラン隊長。」


メリッサが慌ててアランに報告にくる。


「どうした?」


「アースショウトからの緊急の連絡でターパンが魔物の大群に襲撃を受けており援軍が欲しいとのことです。」


「なんだと!?」


「マズイですね、ここを離れればエダー村が魔物に占領される危険性が高まる。かといってこのままにしておけば仮にこの村を守り抜いたとしても我々の拠点であるターパンを失う恐れがある。」


報告を聞いて考えこむムウ。


「二手に分けるか?」


「しかし隊長。義勇軍全員で対処してこの砦の状況です。戦力を分担してはとてもこの砦は守れません。」


「メリッサ。向こうだけでなんとかなりそうにないのか確認してくれないか?」


「それが、各ギルドやターパンの兵士総出で対処しているのですが、あまりの規模に怪我人が続出しかなりの損害が出ているようです。」


「俺達の本部は?」


「報告によると、町のまだ外側のため内部に被害は出ていないようです。」


「どちらにしろこのままではあちらもマズそうですね。」


頭を抱える三人。


「アラン。俺がここを引き受けるよ。」


いつの間にかシンジが立っていた。


「シンジ!聞いてたのか」


「俺とここの砦の兵士達で持ちこたえてみせるぜ。」


「シンジ君。我々全員でこの状況だとても君達だけで守り抜けるとは思えない。少なくとも得策ではない。」


「ムウさん。言いたいことはわかる。確かにそうだよ。でもここを守り抜いても帰る場所がないんじゃ意味ないじゃん。だったら向こうの戦いをさっさと済ませて戻ってきてよ。それまでなんとしても持ちこたえてみせるからさ。」


「シンジ君・・・」


「信じていいんだな?」


「隊長!!」


「アラン・・・。ああ任せろ!それに俺にはこの村の・・・いやアイツのご加護があるからさ」


「・・・そうだな。」


首を傾げるムウとメリッサ。


「よし、皆を集めてくれこの方向で行こう。」


夕暮れ時、アランは砦にいる者を集め説明した。


「隊長さん任せてください!この坊主と一緒に皆さんが戻られるまで持ちこたえてみせますよ」


「皆さん。本当によろしいのですか?」


「な~に。皆さんが来られるまでは我々だけで戦っていたんです。心配することありませんよ」


笑いあう兵士。


「ありがとうございます。皆さん」


その晩にはシンジを砦に残し義勇軍の面々はターパンに戻ることにした。


「じゃあシンジ。頼むな」


「そんな顔すんなよアラン。皆がすぐに戻ってこればいい話なんだから」


「そうだな。」


「シンジ君。」


抱きしめるミーナに思わず照れるシンジ。


「気負つけてください。」


「ミーナ・・・。うんありがとう。」


シンジは肩に手を置くと


「ミーナ・・・。俺・・・。ミーナが好きだ!!」


突然の告白に驚く一同。顔を赤くする女子勢とシンジ。


「私も義勇軍の皆さんが大好きです。勿論シンジくんも。」


まさかの返しに唖然とする周囲。


「あっ。そうゆう意味じゃ・・・。まっいっか」


顔を逸らすシンジ。


「じゃあ改めてシンジ。砦を頼むな!義勇軍一同。一刻も早くターパンでの戦闘を終わらせここに戻るぞ!!」


鬼神の如き速さで義勇軍は砦を後にした。


 「くっそどこからか聞きつけたのか?坊主早速敵さんのお出ましだ。」


翌朝魔物はいつになく意気揚々と砦を攻めてきた。


「皆さんよろしくお願いします。」


「おう」


抵抗する砦の兵士達しかし徐々に劣勢にたたされる。シンジも一度に数体の魔物と対峙し奮闘していた。しかし連戦続きで普段よりも隙を作ってしまう。魔物の手が伸びる。


「坊主!!」


(やべ~ここまでか・・・)


「いつまで座っていやがるバーカ。」


シンジを囲っていた魔物が倒れる。


「あっアンタは・・・」


「レオ!!どうして?」


「隊長さんの指示で来ただけだ。」


「・・・嘘だろ。」


「・・・半分ホントだ。それよりどうすんだ現場指揮官よ」


「フッ。後ろは任せたよ。」


「俺が助けに来てやったんだ。死ぬなよ。」


「勿論。」


互いの背を託し彼らは絶望的な戦いに身を投じた。


 「急げ、休むのは後だ今は砦に戻ることだけに専念しろ」


三日かけてターパンを襲撃した魔物倒し、砦へと急ぐ義勇軍一同。


「シンジくん・・・」


「ミーナさん。信じましょう彼を。」


励ますマルス。


「そうですよね。」


怪しげな雲行きになる中、義勇軍一同は急ぎ砦へ馬を走らせた。


「こっ・・・これは」


「そんな。」


砦に到着すると周りは打ち倒された魔物と息を引き取った兵士達であたりが埋め尽くされていた。


「シンジを・・・いや生存者を探せ。」


声を荒らげるアラン。一同は隈なく砦の周辺に生存者がいないか探し回る。


「隊長か・・・?」


林の茂みからボロボロのレオが出てきた。


「レオ!無事だったか?」


「なんとか・・・。すまね、シンジと逸れちまった。」


レオはフローラに治療を受けながらこれまでの経緯を話した。


「最初の内は二人で戦ってたんだが二日目に崖側が劣勢だという一報が入ってシンジが向かっていったんだ。それでしばらくしたら突然辺りが強烈な光に包まれてついさっきまで気を失ってたみたいでよ・・・」


「すまなかった。無理を言って。」


「なんで謝るんですか?俺が隊長に無理言ってココに残してもらったんですから」


「けど・・・」


「アラン隊長。こちらに来てください。」


崖側からマルスが高らかに声を上げる。急ぎ向かうアラン。


そこには一本の剣に御守りが結びつけられ地面に突き刺さっていた。


集まる一同。


「この御守りは・・・。そんな」


アランとミーナはすぐにこの剣の持ち主がわかった。すると御守りから温かな光が漏れ始める。


(皆、短い間だったけど俺を仲間として義勇軍に迎えてくれてありがとう。上手く言えないけど皆大好きだ。)


温かな光から聞き覚えのある声が流れてくる。固まる一同。その光が各々の記憶を呼び覚ます。


(フローラこれ貰うぜ)(やめてよ~シンジ君返してよ~)(返してほしけりゃ取り返してみなハハハッ)


「シンジ君!!」


泣きじゃくるフローラ。


(ハックさんこうかい?)(違う。腰をもっと落として。身体の軸を固定させるんだ。)(魚人拳法難しいな~)


「シンジ殿・・・。」


こめかみを抑えるハック。


(フリット。魔法教えてくれよ)(バカ、お前じゃ無理だ諦めろ)(チェ、ケチ)


「・・・。」


その場を立ち去るフリット。


(シンジ君これはあちらにお願いします。)(ムウさん大変ですね、毎日こんな量の書類整理だなんて)(そうでもないですよ、それに今日はシンジ君のおかげで非常に楽ですよ)(エヘヘ、そうかな・・・)


「シンジ君・・・。」


天を仰ぐムウ。


(俺が助けに来てやったんだ。死ぬなよ。)(勿論)


「すまなかった。力になれなくて」


近くの木にもたれかかり剣をじっと眺めるレオ。


(乱丸さん今日はよろしくお願いします。一緒に頑張りましょうね!)(・・・。)(聞いてたとうり無口なんですね。まあ話す気になったらもっと話しましょ!!)


「・・・。」


物陰からじっとあさっての方向を眺める乱丸。


(フェルトさんいつもありがとう)(毎回毎回傷だらけで戦い方を工夫したらどうですか?・・・あと鼻の下伸ばしていると氷漬けにしますよ。)(すっすいません。)


「シンジ。」


フェルトの頬に一筋の涙が流れる。


(いいかシンジ女ってのはな・・・)(おっおう。なっ成程)(ツバイ!シンジに余計なことを教えるな!!)(イッテー。メリッサちゃん痛いよ~あっ待ってよメリッサちゃ~ん)(くるな変態野郎)(そんな~)(ハハハッ)


「クッソォー」


近くに落ちてたタバコを拾い慣れない手つきで吸いむせるツバイ。


「バカ者が・・・。」


近くの壁に拳を打ち付けるメリッサ。


(少しずつ上達してきましたねシンジくん)(ダメだよマルス。このままじゃもっと『力』をつけないと)(『力』はそう簡単につくものではありません。焦らず今の自分にできることを全力でやる。コツコツ積み重ねたモノがやがて自分の『力』になるのです。)(マルス・・・。そうだね。わかった。じゃあもう少し修行に付き合ってくれよ)(わかりました。行きますよ!!)


「シンジ君・・・。」


剣の前で呆然と立ち尽くすマルス。


(へえ~ハドソンさんって結構苦労してんだね)(な~に大したことね~よ。シンジ俺を憐れむなら全うな生き方しろよ!)(別に憐れんでないよむしろカッコいいなって・・・。)(!!大人を冷やかすんじゃねえ)(ハハハッ)(笑いごとじゃねえぞ・・・。クッハハハッ)


「ちくしょうが・・・。」


帽子を深々と被るハドソン。


(お前、ホント可愛いヤツだな)(キュピー!!)


「キュー・・・。」


細々とピケの啼く声が響き渡る。


(ミーナ・・・。俺・・・。ミーナが好きだ!!)


「シンジ君!シンジ君!!シンジ君!!!」


その場に泣き崩れるミーナ。


(俺シンジって言います。少しでも人の役に立ちたくて義勇軍に参加しようと思いました。実戦経験はないけど、これからなんとかします。最終的にはこの世界を救った英雄になるんで、よろしくお願いします。)


(アラン。俺アランのことマジ尊敬してるけど、先に英雄になるのは俺だからな!)(フッ、競争だな)(オウよ!絶対負けないからな)


(シンジやれるな?)(はい。)


「よくやった。お前はよくやったよ。お前は俺達の誇りだ。間違いなくエダー村の英雄だよ。だから、だから戻って来いよシンジーーー!!!」


降りしきる雨の中アランの叫び声が空しく響き渡った・・・。

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