第3章

騎士団会議襲撃事件から三月過ぎた。事件での活躍が認められ義勇軍は連日のように依頼されしっかりと遂行していた。また、事件後ハドソンが正式に義勇軍のメンバーになりあれから新に6人が参加を懇願し義勇軍は、聖都で日々鍛錬を励んでいるタケルを含め11人となり、おかげで仕事を受ける量も増えアースショウトの中のチームというより一つの組織として活動していた。


「アラン隊長!この依頼を引き受けてもよいか!」


彼女はメリッサ。壊滅したクオート騎士団で小隊長をしていた実力者。


「ああ、いいぞ。」


「メリッサちゃん~オレっちも連れてって~」


「わかったからそんなに近寄るなツバイ!!」


ツバイは腕利きのガンナーで銃の腕はピカイチ。


「フェルト、乱丸二人に付いて行ってくれ。」


「わかりました。アラン隊長」


「・・・了解」


フェルトは「歩く治療所」異名を持つ優秀な魔人で異名によって隠れてはいるが、強力な氷魔法を使う。乱丸は流浪人だった鬼人の剣士でシャイではあるが剣士として高い能力を持つ。


「隊長!只今戻りました。」


「てめーのせいで失敗するとこだったぜ」


「あれはお前を助けてやったんだレオ。」


レオはターパンにある暗殺系ギルドに前は所属していた。レオと喧嘩しているのはムウ、将来を期待された弓使いのエルフの若者で義勇軍の活動に興味を持ち故郷からこちらにやってきた。


「ミーナの調子はどうなんだアラン?」


ジングスが心配そうな表情で話しかけてきた。


「未だによくならない、フェルトは『エーテル・パトリック』欠乏症だといっていたんだが。」


ミーナは一月前から体調を崩し始め今では寝たきり状態になっていた。


「なんだ、その『エーテル・パトリック欠乏症』って」


「魔法を使う者達固有の病気だとしかわかりません。」


看病していたマルスとハドソンがやってきた。


「成程、それでフェルトの助言か」


「しかし、フェルトも詳しくは知らないと言ってましたし。」


「どうにかして、お嬢ちゃんを救えんもんかね・・・」


「そういえば!」ジングスが閃いた。


「俺の知り合いに『ラグーンシティー』で魔法の研究をしてるヤツがいたから紹介してやる。そいつを頼ってみろ!」


「『ラグーンシティー』って確か魔法使いの本拠地でしたよね?」


「行ってみる価値はあると思うぞアラン。」


「そうだな、ちょうど他のメンバーが仕事に行ってるから全員が戻り次第話し合おう。」


三日後、メンバーが揃い話し合いの結果。義勇軍をメリッサとムウに任せアラン・マルス・ハドソン・フェルトそしてミーナ一同は翌日、魔法使いの本拠地「ラグーンシティー」へ出発した。


 「大丈夫かミーナ?」


背中に背負うミーナを心配するアラン


「大丈夫です・・・温かいですね、アランさんの背中。」


照れるアラン。


「フェルトさんあとどのくらいかかりますか?」


「このままいくと、二、三日ってとこかしら」


「しかし、こんな崖を渡らなきゃいかんのか?」


「『ラグーンシティー』」は秘境にあることで有名ですしね。場所を知ってる者以外は辿り着くのは容易なことではないと聞きます。」


今にも崩れそうな崖を慎重に渡る一同


「そういえば、ジングスさんが紹介して下さった。『ハイド』さんって、元五傑星の方でしたよね?」


「あぁ・・・確か王国時代の時は『魔神』って呼ばれてたな」


「『魔神』ですか・・・」「なんでも、全ての魔法を超一流の質で使えたって噂だ。」「義勇軍って結構、王国の関係者と繋がりを持ちますよね・・・」


「静かに!嫌なお客よ!」


道の前を魔物達が埋め尽くしていた。


「こんな時に!」


「アランさんここは僕達で応戦しますのでミーナさんをお願いします。」


「わかった。」


狭い崖の上で激しい戦闘が始まる。


「しまった!アラン!数体そっちに行っちまった。」


「了解。ごめんミーナちょっと待っててくれ」


「・・・はい」崖の壁にミーナを授け応戦するアラン


「きゃ!」


「ミーナ!」


数体の魔物の相手している隙に別の魔物がミーナを連れ去ろうとする。


「お前!待て!!」


追うアランに魔物の攻撃が迫る。剣で弾くと弾いた攻撃がミーナを連れ去る魔物の足場を崩し崖が崩れる。


「あぁ・・・!!」


「ミーナ!!」


崩れ落ち行く崖と共に落ちるミーナをアランはしっかりと抱きかかえる。落下する二人「隊長~!!ミーナさん!!」


マルスの叫び声が響き渡るも、声が返ってくることは無かった・・・。


 (『私、大きくなったらアランくんのおよめさんになる!』『僕も君のおむこさんになるよ・・・』)


(あれは、子どもの頃の・・・。あの子は今、どうしてるだろう・・・)


「・・・ンさん。・・ランさん。アランさん。」


目が覚めると涙を流すミーナが身体をさすっていた。


「大丈夫だよ。ミーナは大丈夫なのかい?」


「アランさんが身を挺して私を落下から助けてくれましたから」


「そうか・・・よかった。ッウ!」


激しく身体を打ち付けたのか全身に痛みがほとばしる。


「アランさん!」


「大丈夫。身体の節々に痛みが走っただけだから」


「でも・・・でも・・・!」


「本当に大丈夫ですか隊長。」


近くからフェルトの声がする。


「こっちです。通信鏡です。」


通信鏡とは特殊な鏡に一定の魔力を流しておくことで所有者同士が遠距離で連絡をとれる通信手段である。


「フェルト!こっちは大丈夫だ。そっちは?」


「こちらも大丈夫です。しかしよくご無事で。ところでどういたしましょうか?これから・・・」


「君達は先に行ってくれ!こちらもあとから合流する。」


「・・・わかりました。先に『ラグーンシティー』に行き調査隊をそちらに派遣するように手配します。」


「すまない。助かるよ、こっちもなるべく早く合流する。とマルスとハドソンさんにも伝えてくれ。」


「了解しました。では失礼します。」


通信鏡が切れると同時に溜息を吐く二人。


「・・・どうしますか?」


「ミーナの体調も心配だしこのまま進もう。」


傷ついた身体でミーナを背負うアラン。歩きだしたアランを後ろで不安そうに見つめるミーナ。


「うっ・・・」


しばらく歩き身体のバランスを失うアラン。


「少し休みましょう。」


「いや・・・君の体調の方が心配だ。」


「私は大丈夫・・・で・・・。」


ふらつくミーナ。


「やはり急ごう。」


「でもこのまま進むとアランさんの御身体が・・・」


「道案内は私がしてみせよう。」


目の前で煉獄の騎士が立っていた。


「こんな時に・・・」


剣を抜くアラン。


「おいおい、今の君に私と対抗できる力があるとでも?」


「・・・やってみなければわからん・・・。」


「道案内しようとする者に対して無礼だとは思わないかい?」


「・・・本当にそれだけか。」


「嘘なら彼女を連れさっさと去っている。」


「アランさん。彼を信じましょう。」


「ミーナ!?」


「あの人を今は信用してもいいように私は思います。」


「・・・賢明な判断だお嬢さん。」


悩むアラン。しかし決断するのにそんな猶予を与えることが出来なかった。


「・・・頼む。」


敵に頭を下げたという屈辱の感情を押し殺し煉獄の騎士お願いする。


「では、早速。・・・」


次の瞬間二人は気を失う。


「アランさん・・・」


「ミーナ・・・」


目の前が真っ暗になった。


 (『町が燃えている・・・』『よいか、儂はアランを連れていく。ハイドは・・・をラドルフは・・・を連れて必ず逃がすのじゃ、そしていつかあの計画を遂行するんじゃ!よいな!!』『姉さん!!・・・!!』)


「ハッ!!」


気が付くと、どこかの部屋のベットの上だった。


「気が付いたんですね!アランさん!!」


その部屋にはマルスがいた。


「ここは・・・」


「『ラグーンシティー』の治療所です。ご無事でなによりです。驚きましたよ!あのあと、やっとの思いで町について調査隊の派遣をお願いしたら、町の検問付近でミーナさんを背負ったアランさんが見つかったんですもん!!」


「そうか・・・。ミーナは!?」


「隊長さんの隣のベットでまだ寝てるよ。」


この部屋のドアの前に立っていたハドソンが質問に応える。


「不思議なことにお嬢ちゃんこの町着いてから徐々に顔色が良くなってんだよ・・・」「それは、『エーテル・パトリック』が関係していると思われます。」


フェルトが一人の男を連れて部屋にやってきた。


「この方がハイド様です隊長。」


「旧友ジングスから話しは伺ってます。私がハイドです。」


「・・・よろしくお願いします。ハイドさん。」


「・・・よろしくお願いします。」


「ところでハイドさん。『エーテル・パトリック』とミーナさんの体調にどういった関係があるのですか?」


「『エーテル・パトリック』に関する質問は私が助手をしていて『エーテル・パトリック』の研究をされている方がいらっしゃるのでその方を紹介します。動けますか?隊長さん?」


「私もついていきます。」


「ミーナ!!大丈夫なのか?」


ミーナが目を覚ましていた。


「そうですね、貴方も自分のために聞いたほうがいいでしょう。」


そう言って5人をとある部屋に連れて来たハイド。


「先生、二人が目覚めたのでお連れしました。」


「入っていいわよ。」


部屋では若い美しく綺麗な女性が作業をしていた。


「母さん・・・」


「えっ!?」


アランの発言に驚く一同。


「・・・人違いじゃないかしら?」


「ハッ。すいません、亡くなった母に雰囲気が似ていたもので・・・」


「そう・・・。まあいいわ。」


「私はマリヤ。『ラグーンシティー』で医者をしていて、『エーテル・パトリック』の研究をしているわ。」


義勇軍一同が挨拶を終えるとマルスが問う。


「さっそくなのですがマリヤさん。『エーテル・パトリック』とはなんなんですか?」「『エーテル・パトリック』はこの世界の空気中に存在する魔法を使用するのに必要な粒子。魔法はこの粒子を体内の生命エネルギーと融合させ力に変換することで使用できるわ。」


「生命エネルギー?」


「『気』と言ったほうが解りやすいかしら?」


「空気中に『エーテル・パトリック』が存在するのになぜ、魔法を使える人が限られているのですか?」


「『エーテル・パトリック』は通常、空気中に0.01%しないから普通に生活していたら、存在に気が付くことはまずないわ。例外なのが、この『ラグーンシティー』。過去に魔法使い達が結界を張ったことで空気中でのエーテル・パトリックを99.9%に維持することに成功したわ。」


説明に頷く一同。


「ただ、一説には魔法使い達がこの町にエーテル・パトリックを集中させたことで、他の場所でのエーテル・パトリックが極端に減少したと言われているわ。」


「つまり、マリヤさんここまでの話しから察するに『エーテル・パトリック欠乏症』はこの町にいたらなることはないのですか?」


「・・・ハドソンさんその見解は残念ですが違います。実は魔法を使うことは自分の生命を縮めることになるのです。」


「なんですって?」


驚く一同


「先程、魔法はエーテル・パトリックと体内の生命エネルギーを融合して使用すると説明しました。しかし、それは『体内のエーテル・パトリックと体内の生命エネルギー』のことで体内で生成したものを使用しているに過ぎません。ですから、魔法はどれだけ体内でエーテル・パトリックを蓄えているかで魔法を使えるかが大きく左右され、魔法の知識を学び修行に励むことで、ようやく使えるようになるのです。」


「そんなに大変なんですね・・・」


ボー然とするマルス。


「さらに、魔法は無限じゃないわ。」


「えっ!?」


「ミーナさんは今、年齢はいくつ?」


「えっ・・・、18ですが・・・」


「・・・まだ大丈夫ね。エーテル・パトリックは大人に、つまり20歳以上になると体内に吸収できなくなるわ。」


「そうなんですか!?」


「さらに、20歳以上の魔法使用者は体内のエーテル・パトリックと生命エネルギーが結合し始めるから使用すればするほど寿命を減らすわ。」


「そんな・・・」


落ち込むミーナ


「フェルトは大丈夫なのか?」


「・・・隊長セクハラです。」


「いや、いや俺は魔法を使うお前を心配して・・・」


「言い訳結構。」


「フェルト怒るなよ、誤解だ!」


「・・・魔法を使用する二人はここでなるべく多くの時間を休むといいわ。他の場所だと1つの魔法を使うのに平均して必要なエーテル・パトリックを体内に吸収するのに10年はかかるけど、エーテル・パトリックが豊富なここなら1時間で吸収できるから。」


「ありがとうございます。」


「あと、むやみやたらに魔法を使わないことね、『魔法を使う=命を削る』ことを忘れないで」


「はい。」


静かに時が流れる。しばらくの沈黙からハドソンが口を開く。


「説明も終わったようですし、ここは自由行動とでもしますかな隊長さん?」


「そうだな・・・そうしよう。」


「私とフェルトさんはマリヤさんの御言葉に甘えてここで休ませて頂きましょう。」「そうですねミーナさん。」


「じゃあ我々はこの町を散策でも・・・」


「アラン君、すまないんだか話しがしたいんだ。いいかな?」


「大丈夫ですよハイドさん。」


「俺達二人でかよ・・・」


「まあまあハドソンさん、二人で楽しみましょう。」


「よし、じゃあしばらく義勇軍は自由行動ということで解散。」


この活動が、この町で起こる事件のきっかけの一つになろうとはこの時はまだ知る由もなかった。


 「すまない、帰るのにしばらくかかりそうなんだ。」


「わかりました。3人の志願者は参加候補生としてしばらく活動させます。」


「すまんがそちらは任せたよ。メリッサ」


「了解です隊長」


通信鏡を切るアラン。


「あれから一週間、連絡もなしに帰ってきませんね、マルスさんとハドソンさん。」


一時解散から一週間、十分すぎるくらいに休養を取った義勇軍は町を出発しようとしていたが、マルスとハドソンが帰ってこず。町に留まっていた。


「どうしたのでしょうかお二人は・・・」


降りしきる雨を窓から見つめながら心配そうな表情のミーナ。


「俺が探してくるから二人はここで待っていてくれ。」


そう言ってアランはマリヤの治療所から出た。降りしきる雨のなか手当たり次第に探すアラン。しばらく捜索を続けていると人とぶつかった。


「申し訳ない急ぎの用で・・・隊長!?」


ぶつかった相手はハドソンだった。


「ハドソンさん!?今までどこに・・・」


「その話しはあとで、ちょっと厄介ごとに絡まれまして・・・」


「居たぞ!!」


後ろから武装した兵士達が追いかけてきていた。


「どういうことですか?!」


「それは後でしっかり話すからこいつらをなんとかしてくれ。」


「・・・治療所まで一人で戻れますよね。」


「あぁ、すまん。マルスもどこかで同じ目に遭っているはずだから頼む隊長!」


兵士達を引き受けたアランは兵士達を軽くあしらい気絶させる。


「・・・マルスはどこに」


しばらく町中を歩いていると若い騎士に注意するようにという噂と手配書が出回っていた。


「隊長・・・」


微かに聞こえた呼び声に振り向くとボロボロのマルスが細い路地からアランを呼んでいた。


「マルス!なにやってたんだ!?」


「申し訳ありません。」


治療所まで急ぎ走るなかで、追われている人を助けたらその人が罪人で罪人を逃がす手引きをしたとして追われていると事情を説明し、しかし自分のなかでは本当にその人は罪人なのだろうかと疑問を感じているということだった。


「見つけたぞ手配犯!!」


いかにも危険そうな男が二人の前に立ち塞がった。


「この魔導兵団10番隊隊長グレゴ様が直々に貴様らを逮捕する。」


どす黒い炎を放つグレゴ、体力的にピークが来ていたこともありしばらく防戦していたが、二人は捕まってしまった。


 「お兄さん大丈夫?」


目を覚ますとアランを心配そうに見つめる少年がいた。


「ここは・・・」


「魔導兵団の監獄だよ」


「・・・そうかあんな奴に負けたのか。」


「誰かと戦ってたの?」


「グレゴとかゆう気色悪い奴だ」


「!!」


驚く少年。


「もしかしてマルスさんの仲間?」


「マルスを知っているのか!?」


「彼に助けてもらったんです。」


あの時、マルスが話していた罪人だと察したアラン。


「何をしたんだお前。」


「彼から聞いたんですね・・・。実は・・・」


その時、二人の見張りの兵士が


「そこの男ついてこい」


手錠でアランを繋ぎどこかへ連れて行こうとした。


「お兄さん、僕は何もしていない!それだけは信じて!!」


どこかへ連れていかれるアランに少年は叫ぶ。


「黙れこのガキ!」


二人の内の一人が鞭で少年を叩きまくる。少年の絶叫が薄暗い監獄に響き渡った。


 アランが連れて行かれたのは格式のある建物の内部だった。そこには三人の男が座っており、三人の前にボロボロのマルスが正座させられていた。


「君がアランだな。」


三人の中で一番年上そうな男が尋ねる。


「・・・だんまりかい、まあいい。そこにいる騎士を助けたのは事実かい?」


流暢にそしてなにか嫌な雰囲気を漂わせ口調。


「彼は、俺の仲間だ。」


男を威圧するアラン。


「お~怖い怖い。」


「ゲデルさっさとこいつらやっちまおうぜ!」


若い男が目をギラギラとさせアラン達を見続ける。


「フリット、お前はその戦闘欲を抑えろ。」


中央に構える若い男が目をギラつかせた男を抑える。


「俺は魔導兵団団長アウラだ、今日はお前達の罪を裁くために直々に来てやった。」


蔑んだ目で二人を見るアウラ。


「この若いのが1番隊隊長フリット、この年老いたのが2番隊隊長のゲデルだ、」


「アウラ様、年老いたといってもまだ、30代です。」


「・・・それはどうでもいい、で貴様らの罪だが・・・」


「俺達は人助けをした。それだけだ。」


威圧し続けるアラン


「その人助けをしたヤツが罪を犯しているんだ。貴様らは罪人を逃がした罪を掛けられている。」


「その少年は何をしたんだ?」


「・・・年齢を言った覚えはないが、そいつは人を何人も殺している。」


「その子が人を殺したという証拠があるのか?」


「罪人である貴様に教える必要があるか?」


「・・・」


「・・・」


激しく火花を散らす二人、


「そこまでだ!」


突然、建物の中に騎士が数人突撃してきた


「この裁判は認められない。」


凛とした騎士が場を制圧する。


「なんのつもりだ、フォルラン」


「アウラ、君は正式な手続きをしていない。よってこの裁判は認められない。」


「こいつらは、殺人犯を逃がしたんだぞ。」


「本当に被告は殺人を犯しているのか?」


「何?」


「噂によれば被告はとある件の被害者と聞いているが・・・」


「・・・まあいい、ずらかるぞ」


三人はフォルランと呼ばれている騎士を睨みつけながら格式ある席をあとにした。マルスの手錠を外す騎士達。


「ありがとうございます。フォルランさん」


礼をするマルス。


「知り合いか?」


「彼は魔法騎士団の騎士団長です。」


「魔法騎士団・・・ということは、先日の騎士団会議に?」


「ええ、魔法使いの代表として参加しました。噂は耳にしております。義勇軍隊長アランさん。」


「助けて頂きありがとうございます。」


「・・・助けたというのは少し違います。貴方方が擁護している少年は実際、人を殺しています。」


「そんな・・・」


「ですが、彼を罪に問えない事情があるのです。」


「どういうことですか?」


「場所を変えましょう。詳しいことはそこで」


 後日、ラグーンシティーにいる義勇軍のメンバーとハイドとマリヤは魔法騎士団の本部に呼ばれた。フォルランの腹心の部下に案内され忍びこむ一同


「義勇軍諸君よく来てくれた。」


「お二人までお呼びして申し訳ありません。」


ハイドとマリヤに気を遣うフォルラン。


「気にすることはない、フォルラン騎士団長」


「まずは、この映像を観てください」


そこには同じ年頃の子達を次々と殺めるあの少年の姿があった。


「そんな・・・」


落ち込むマルス。


「これは・・・」


驚くアランと義勇軍一同、


「魔導兵士か?」フォルランに問うハイド。


「・・・恐れながら、その通りです。」


「魔導兵士とはなんですか?」


ミーナが悲しみと怒りの感情を押し殺し尋ねる。


「魔導兵士を語るにはラグーンシティーについて知って頂く必要があります。ラグーンシティーには『魔法騎士団』と『魔導兵団』の二つの組織があります。」


「どう違うのですか?」


「簡単に言えば我々『魔法騎士団』は町の内部を警備することを仕事とし、『魔導兵団』は対外戦闘を中心に活動しています。」


「そして『魔導兵士』なのですが・・・」


説明しにくそうなフォルラン。


「『魔導兵士』はまだ、五種族が争っていた『五種族間戦争時代』に発案され導入された。『魔法使いの強化人間及び強化生物』のことです。」


ハイドが補足する。


「前に、魔法使いの力が有限であることを説明しましたよね。それにより戦闘中に魔力が減少し自分の死を恐れ、魔法が使えなくなる現象が見られるようになりました。そこで、『魔法騎士団』と『魔導兵団』は魔法の使用量を上げることのできる20歳未満の少年少女を戦闘専用の魔法使いとして造り上げる研究計画を立て実行しました。」


沈黙する一同


「計画は成功しました。極限まで強化した魔力と戦闘能力、死を恐れない姿はまさに計画の成功と言えました。ただ・・・」


「ただ?」


「『魔導兵士』は精神的に不安定で必ず精神面で欠陥を持っており暴走することもしばしばありました。そして『魔導兵士』として完成するまでに行われる数々の人体実験・・・、争いの時代を終えた時、冷静になった我々は、この計画が人智を超えたやってはいけない計画であったと悟り計画を凍結しました。」


「彼は『魔導兵士』になる途中ということですか?」


ミーナは激しく詰め寄る。


「恐らくは・・・」


黙り込むハイド


「どうして無くなったはずの計画が」


「それは、私が答えます。」


フォルランが重い口を開く。


「計画を続けているとすれば、我々『魔法騎士団』ではなく『魔導兵団』のほうです。理由は先程、説明した職務が大きく関係しています。我々『魔法騎士団』はこの都市の治安維持が中心の任務ですので、使うとしても少量の魔力ですし、この町にずっと居るに等しいのですぐ回復できます。しかし、彼ら『魔導兵団』は対外任務を中心に行っており、莫大な魔力を消費し回復も見込めないので、彼らには死の恐怖が常に付きまとっています。そういった点で『魔導兵士』の必要性がまだあります。そして中には完全な『魔導兵士』を開発しようとする研究者や、私利私欲のために研究を推進している人も中にはいます。」


「そんな・・・」


「『魔導兵団』は彼らを庇うことで『魔導兵士』の正当性を主張し、裏で研究を続けているといわれています。」


「つまり、彼がその『魔導兵士』開発計画の被験体の重要な証人という訳ですね。」


ハドソンが重い空気の中口を開く


「『魔導兵団』を捕まえることはできないのですか?」


「私達も過去に利用していたので彼らだけの責任問題ではありません。一方的に彼らを責めることはできない、何より彼らの主張も同じ魔法使いとして理解できなくわないのです。」


「ですが、それは我々大人の都合であって子どもは自由に生きる権利があります。その自由を奪いましては生命を奪う実験を認める訳には行きません!!」


沈黙が部屋を包み込む。


「そこでです。」


フォルランが依頼を持ち掛けた。


「義勇軍の方々に『魔導兵団』が『魔導兵士』を開発しているという証拠を掴み。計画に関わる資料や情報を全て破棄して頂きたい。」


「もちろん構わないが」


「ちょっと待て隊長!」


ハドソンが異議を唱える


「俺達は手配中の身、町中が敵だ!『魔法騎士団』も黙っちゃいないぜ」


フォルランも落ち着いた口調でリスクを告げる。


「そうですね、あくまで、私個人としての依頼になるので、支援どころか『魔法騎士団』は貴方たちを捕まえるために動くでしょう。」


「しかし、あの時、助けてくれたのはフォルランさん貴方ですよ!」


マルスが慌てた口調でフォルランに問いかける。


「公式には、仲間が裁判中に襲撃し連れ去ったことにしています。」


「そんな・・・」


「やろう、あの子を見過ごすことはできないし、どっちにしても義勇軍の信頼を取り戻さなければいけない」強い決意をした目にハドソンは反対しきれなかった。


「すまないが、よろしく頼む。」


こうして、ラグーンシティー史上かつてない事件が幕を開けた。


 「そうですか、最近依頼が少ないと思っていましたが、そちらでそのようなことが・・・」


「すまないメリッサ、そっちの皆によろしく頼む。」


「わかりました。」


「ムウはメリッサのサポートを引き続き頼む。」


「了解です。隊長」


通信鏡を切るアラン。


「行くのですね。」


心配そうな顔で見送るマリヤ、


「先生、大丈夫ですよ、彼らは強い。」


ハイドがマリヤの肩にそっと手を乗せ落ち着かせる。


「ミーナさんとフェルトさんはこれを持って行ってください。」


飲み薬を渡すマリヤ


「それは、私が開発したエーテル・パトリックと生命エネルギーの回復・・・つまり魔力を回復する薬です。試作品なので効果があるかは、分かりませんが。」


「ありがとうございます。」


お辞儀する二人


「では、行ってきます。」


マリヤの治療所を後にする五人をじっと見送る二人であった。


 「フェルト調子はどうだ?」


「大丈夫です。五人分の変装術を使うのにたいした魔力はいらないので」


「無事に入れましたね、魔導兵団の本部」


薄暗い町外れの古城に潜入した五人。


「案外、あっさり入れたのが怖いけどね。」


ハドソンが髭を摩りながら本音をこぼす、


「どうします?隊長」


「変装はバレなければ解けないので安心を」


「・・・まとまって歩くのはバレる危険が高くなるから、二手に分かれよう。」


「では、隊長とミーナさんで一班、私とハドソンさんとフェルトさんでもう一班というのはどうですか?」


「俺は構わんよ」


「・・・異議なし」


マルスの提案に返答する二人と頬を赤らめ頷く二人。


「じゃあ、あくまで魔導兵団が魔導兵士を開発しているという証拠を掴み。計画に関わる資料や情報を全て破棄するのが目的だから、戦闘は必要最小限度で頼む。」


「了解」


二手に分かれた義勇軍


「どうしましょうか?アランさん」


「とりあえず、上に行こう。」


「・・・上ですか。」


「どうした?ミーナ。」


「私が思うに、上は偉い人達がいるところで証拠となる物があるとは思えませんが」「それはマルス達に任せた。俺はヤツに真意を問いたい。」


「誰にですか?」


「魔導兵団団長アウラだよ、ヤツがこのことをどう考えているのか」


「そうですか・・・」


「おい、そこのお前ら!!」


遠くから声をかけてきたのは10番隊隊長グレゴだった。


「アイツは」


「アランさん、ご存じなのですか?」


「あぁ、よく覚えてる。ヤツに俺とマルスは捕まったからな」


「えぇ!!」


「大丈夫だよ今は負けない。」


「そこのお前達を呼んでいるんだ」


気がつくとグレゴは目の前に立っていた。


「見回りはどうだ?」


「問題ありません。」


「そうか。」


「では失礼します。」


「ウム。しっかりとな・・・と見逃してもらえると思ったか!!」


グレゴの炎を纏った腕が変装しているミーナをめがけ迫る。すぐにアランは抜刀しその腕を止めた。


「良い線の変装だ。そこらの兵では見抜けんが俺様は欺けんぞ!」


「仲間への褒め言葉と受け取っておこう。」


間合いをとる両者、同時に二人の変装も解ける。


「お前は、あの時の」


「時間が惜しいからなさっさと通させてもらう。」


「へっ、今度もぶっとばして・・・」


それは一瞬だった。素早く間合いを詰めてアランはグレゴに一太刀浴びせた。「なっ・・・に」


「勘違いしているようだから言っておこう、あの時は3割の力しか出せない状態だったからなお前に負けたが貴様くらいのレベルなら半分の力で十分だ、まあ言い訳にしか聞こえないかもしれないけどな」


「あれで3割だっただと・・・」


「急いでるからなこれで失礼する。」


立ち去る二人。その姿をみてただ笑うことしかできないグレゴであった・・・。


 一方、マルス・ハドソン・フェルトの三人は下の階を散策していた。


「なあ、どこにあると思う?証拠」


「資料庫があればそこだと思いますが」


「・・・恐らくこの階のどこかね、強力な魔力を感じるわ」


「ほおう、それは吉報。どの辺かわかるかいフェルトちゃん。」


「ちょっと待って・・・。あの奥の部屋ね。」


「兵隊さんに会う前にさっさと終わらせちゃおうぜ」


足早に部屋に向かう三人。


「おいおい君達そこで何をしてるんだい?」


後ろから老け顔の騎士が一人声をかけてきた。


「新任で道に迷いました。」


変装中のフェルトがとっさに答える。


「・・・そうか、ここは立ち入り禁止区域だからね。さっさと立ち去りなさい。」


「失礼します。」


老け顔の騎士を通り過ぎた瞬間、剣が三人を襲う


「クッ」盾で防ぐマルス。


「いや~良い腕してるね」


「それはどうも」変装が解ける。


「おっ君は。」


「どこで気が付いたんですか?」


「君達の姿を確認した時にはわかったよ、この城の兵士のはずなのにお嬢さん以外から魔力を感じないからね。」


「マルスこいつは?」


「魔導兵団2番隊隊長ゲデルです。」


「巻けそうににないな。」


「そうね。応戦しましょ。」


フェルトの魔法攻撃が飛ぶ。


「氷魔法か。良い質の魔法だね。」


「それはどうも」


「マルス。援護するから下がってこい。」


二人の遠距離攻撃を魔法を利用しながら巧みに躱すゲデル。


「くそ、マルス!目をつぶれ」


ハドソンが煙玉を投げあたりが煙に包まれる。


「あらまあ」


ゲデルが振り払うと三人はいなくなってた。


 その頃、アランとミーナは魔導兵団1番隊隊長フリットと彼の部屋で対峙していた。「まさか侵入者の方から俺の前に現われるとわな」


「すまない、ミーナ下がっていてくれ、コイツはさっきのヤツとは比べものにならない強さを感じる。」


「・・・わかりました。」


「いいね~俺はあの場でお前を見た時に闘いたいと思ってた。」


「・・・奇遇だな俺もだ。」


二人の笑顔はミーナにはとても恐ろしくみえる。緊迫した空気が流れる。部屋が震えだす。机のグラスが割れた刹那、勢いよくアランが斬りに掛かる。フリットは動く素振りを見せない。すると突然フリットの前に5個の円形の文字式が現れる。


「魔法陣!!」


5個の属性の違う魔法が一気にアランに襲い掛かる。


「アランさん!?」


爆煙に包まれるアラン。煙の中から斬撃が飛ぶ


「おっと斬撃を飛ばせるのか。面白い。」


「『魔法陣』は確か強大な魔法ゆえ発動に時間が掛かるはず。それを一瞬で5個も。」「俺はその辺の魔法使いや魔術師とは違うからな」


「だとしても人間技じゃ・・・。まさかお前『魔導兵士』か?」


「・・・ご明察。そうさ俺は魔導兵団唯一の幹部クラスの魔導兵士にして幹部の中でも最も強い幹部なのさ」


「じゃあお前も・・・」


「勘違いすんなよ、他の魔導兵士がどう思ってるのかはしらねーが、俺は進んで魔導兵士になったんだ。」


凍りづく二人。


「なっ、何故ですか?」


「力が欲しかったからさ、俺は誰よりも強くありたい。どんなヤツよりもな!そしていつかあの人を超える。」


「あの人?」


「ハイドだ。俺もヤツのように全ての魔法が使える。あとはヤツを倒して俺が魔神になる。お前達はその屍になるのさ。」


「悪いがそれは無理な話だ。」


「なに?」


「俺はこんなところで立ち止まってはいられねえ。」


「・・・そうか、やはり俺が見込んだとうりお前は面白い。じゃあとことんやり合おうぜ、互いのプライドとやらのために」


「そうだな。」


再び斬撃と魔法が激しく飛び交う。ミーナはただ、彼の勝利を祈ることしかできなかった。


 ゲデルに追われていた三人は魔導兵団の兵士達に見つかり応戦しながら証拠となるものを探していた。


「しかし、これでは証拠の捜索どころではないな」


弓を放ちながらハドソンは溜息をつく。


「フェルトさん大丈夫ですか?」


「えぇ。でもさすがにこれだけ連続で魔法を使うのは疲れます。」


「マリヤさんから頂いたあの薬を使った方が良いんじゃないですか?」


「あれはギリギリまで使いません。」


「なんのことかな~」


気が付くとゲデルが追いついていた。


「しつこい野郎だぜ。」


連続で弓を射るハドソン、ゲデルは全てを弾き斬りにかかる。しかしマルスが刃を防ぐ。


「いい連携だ」


一定の距離をとるゲデル。


「ちょうど良い、アレを試すか。」


指を鳴らすとゲデルの後方からあの少年が現れた。


「・・・君は!」


「あの映像の子どもですね。」


「№1009奴等を排除せよ」


「了解。マスター」


少年は魔法陣を素早く展開し三人を攻撃する。


「避けろ!」


三人は間一髪のところで攻撃を避けた。周りが一瞬で灰に包まれる。


「そんな・・・」


少年の変わり果てた姿に動揺を隠しきれないマルス


「あの映像の時よりそれらしくなってやがる。」


「マルスさん。残念ですが。彼はもう完全に・・・」


「貴様!!」


怒りの籠った一斬りをゲデルに向ける。それを防いだのは少年だった。


「どうしてなんだ」


「・・・」


(助けて)


「えっ」


「私の試作品に手をださんでくれないか」


ゲデルの一撃で吹っ飛ばされる。


「マルスさん。大丈夫ですか?」


「今、声が聞こえました。」


「声ですか?」


「フェルトさん、彼を助けたいんです。」


「しかし、彼はもう」


「操られている可能性は。」


「!?。そうですね十分あり得ます。」


「なら、助けてやろうぜ」


「ハドソンさん。」


「俺も今の彼が自らの意思で行動してるとは思えないからよ、手を貸すぜ。」


「お二人ともありがとうございます。」


「そろそろいいかな」


ゲデルの声がし振り向くと少年はとてつもない力の籠った魔法陣を形成していた。


「させるかよ」


弓の連続攻撃を少年が躱すと足場が氷で固められて足をつけた直後足が凍った。


「ごめんね。」


素早く後ろに回ったマルスが少年の後ろをとり首筋に一撃与えると少年は気を失った。「君達、よくも私の試作品を」


「アンタだけは許さない。」


憎悪に駆りたてられた表情でゲデルを睨み襲い掛かる。


「マルス。俺達が援護する。お前の怒りをその腐れ騎士さんに存分にぶつけろ」


後ろから二人の攻撃が飛ぶ。マルスは剣を思い切り縦に振り抜いた。


 激しい爆音と剣の音が響き渡る。


「相手の力を吸収し一時的に自分の力として利用する剣か、ハハハ。面白過ぎんぞ。」何かを満たしているかのような笑顔を見せるフリット


「アランさん・・・」


ボロボロのアランを心配するミーナ


「お前、そろそろガタきてるんじゃないか?」


アランの問いかけにさっきまで笑顔が嘘のように表情が変わるフリット。


「てめーもだろ」


膝から崩れ落ちる両者。


「次で決めるぞ。」


「へっ、ちょうどいい俺もそろそろ終いにしようと思ってたところだ。俺の最強の一撃でテメーをぶっ飛ばす。」


二つの魔法陣を重ねるフリット


「頼む。俺に力を。」


剣を構え直すアラン。


「いくぜ~」


技を放つフリット、アランはその技に真正面から立ち向かう。剣をぶつけるアラン。剣と魔法が激しくぶつかる


「へっ。自分の力に変換しきれるか」


爆炎と光に包まれるアラン。思わずミーナが目をつぶる、目を開けると両者が倒れていた。


「アランさん」


いち早くアランに駆け寄るミーナ


「アランさん!アランさん!!」


「・・・ミーナ」


「良かった。すぐに治療を」


「それよりアイツは」


「俺の負けだ」


大の字で倒れたフリットが力を振り絞り声を出す。


「アランって言ったな気に入った。今回は俺の負けだ。だが次に会う時はぜってー勝つ」


ミーナに支えられながら部屋を後にしようとするアラン。


「俺と一緒に来ればいつでも相手になるぞ」


「・・・ハッ。さっさと行けボケナス。」


顔を合わせず立ち去るアラン、両者の顔は自然と笑みがこぼれていた。


 「ハァー!!」


マルスの連撃に焦りの色を見せるゲデル。


「まさかここまでできるとは、私は少々貴方を過小評価し過ぎていたようですね。」


マルスには手ごたえがあった。ゲデルの鎧に何か所か傷が付いている。


「そのまま行けマルス!!」


ハドソンが怒涛の攻撃をし、フェルトは少年の看病をしている。勢いよく斬りにかかるが


「調子に乗るんじゃない」


ゲデルの後ろが突然黒い円状に包まれる。


「暗黒魔法。」


怯えた表情でその様子を見つめるフェルト


「なんだ暗黒魔法って」


「闇の魔法一種でしかも禁術指定された部類の魔法。全ての倫理や法則を覆す可能性を持った『禁忌の魔法』よ」


「さあ踊れ暗黒世界の住人よ」


ゲデルが合図をすると後ろから真っ黒な物体が現れた。それは人型や四足歩行型、鳥類型など多種多様。その物体が三人を襲う


「こいつ、弓がきかねー」


「私の氷魔法も」


「剣がすり抜ける」


たちまち追い込まれる三人


「これで終わりですね」


ゲデルの憎たらしい笑みに「貴方のような騎士がいることが許せない」


マルスは思いの丈をこの一言に乗せる。


「死ぬ前に一つ言っておこう。たとえ君が私の騎士としての資格を否定したところで君に任命された訳ではないからさ、なんとも思わんよ。君の勝手な騎士像で僕の騎士としての資格を否定されるのは心外だよ」


「騎士は少なくとも貴方のように穢れた存在であってはならない。自らを律し民と国そして自らの大切な人々を護るためにその剣を振るい盾で護るそれが騎士だ。貴方のような自分の欲望のために他者を犠牲にする人が」


「自分の価値観でモノを語るな」


剣を突き立てマルスに突進する。


「マルス!」


「マルスさん!!」


「グハァ」


倒れたのはゲデルだった。二人は驚いた。なんの変哲も無い剣が黄金に輝き、マルスの雰囲気が一変した。マルスがその剣を一振りすると周りを囲んでいた真っ黒い物体が全て消え去った。


「なっ、なんだと。暗黒魔法が破られただと」


動揺するゲデル


「聖なる一撃の審判を喰らえ」


振りぬいた剣はゲデルを斬り立ち上がることは無かった。輝きを無くすと同時に倒れるマルス


「おっと大丈夫か」


すぐさまハドソンが駆け寄り身体を支える。


「なにがあったんですか?」


「わかりません。ただ、やられると思い目をつぶり、突然声がするので目を開けたら、この剣の魂を名乗る人が力を与えるとそれで・・・」


「マルス、頭打ったか?」


「本当なんですよ」


「まあいい、それよりも早く任務を達成しようぜ、マルス動けるか?」


「えっ、はい」


「私が少年をおぶるわ」


「よし!行くぞ」三人は再び証拠探しを始めた。


 「アランさんもっと治療したほうがいいですよ。」


「大丈夫。それにこれ以上君に負担をかける訳にはいかないからさ」


ミーナの肩を借りてアランは魔導兵団団長アウラの居場所を探していた。


「まさか、フリットを倒すとはな」


突然アウラが姿を現す。


「お前は!」


「侵入者の報告を聞いて、様子を見ていたら君らでまさか幹部をこうも退けてくるとはな。目的はなんだ。」


「教える必要があるのか?」


「いや・・・大体予想はついている。私は逃げも隠れもしない。話し合おうではないか」


「・・・いいだろう。」


「では、待っているぞ。ちなみにこれは魔法による通信手段の一種だ、殺気だてても意味はないぞ」


そう言ってアウラは姿を消す。同時に発光体が目の前に現われ、道案内をするかのように進みだした。


「ついてこいということか?」


「行きましょう。アランさん。私はできることなら、話し合いで解決したいです。」「そうだね。行こうミーナ」


発光体の導きのままに進む二人。しばらく歩くと発光体が消え辺りを見渡すと大きな部屋で窓の外を眺める。一人の騎士がいた。


「アウラだな。」


「いかにも私が魔導兵団団長アウラだ。さて君達がこの魔導兵団本部に潜入した理由だが・・・」


「『魔導兵士』に関連した資料や情報を全て私達に渡すか、自ら破棄してください。」ミーナの決意の籠った眼差しがアウラに突き刺さる。


「やはりその問題かフォルランめ部外者に余計なことを話しやがって。」


頭をかくフォルラン


「罪の意識はあるのか?」


「そりゃあ、俺だって申し訳なく思う時はあるさ」


「でしたら。」


「けどさお嬢ちゃん。俺達、魔法を使う者達の苦悩を聞いてない訳じゃないんだろ。」「それは・・・」


「この研究はさ、魔法の根本的な問題を解決するためにも必要なことなんだよ。」


「もういい。」剣を抜くアラン


「アランさん!」


「ミーナ、こいつは引く気はないよ。なら力ずくで止める。」


「いや、君は最初からその気だったんだろ。」


「・・・。」ピリピリとした空気が流れる。


「エナジーブレードか。どうやって手に入れたんだ?」


「祖父から貰った剣だ。」


先にアランが動く。しかしそれを読んでいたかのようにアウラの魔法陣から獣が襲い掛かる。


「召喚魔法か」


「ご明察。さあ私のところまで来れるかな?」


次々に増える魔法の獣を蹴散らすアラン。が全ての魔法の獣を打ち倒した直後、魔弾が直撃する。


「グハァ」吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。


「アランさん!」


すぐにミーナが駆け寄る。


「やはり無理されてたんですね」


「お嬢さんの言うとうり、その状態で私に挑むなど愚かにも程があるぞ」「うぅ・・・」身体を起こそうとするアラン。


「無理をしてはダメです。」


「安心しろお嬢さん。今楽にしてあげるからさ」身の震え経つような強力な魔力をもった魔弾が二人を襲う


(ダメ!アランさんは私が護る)


すると、ミーナが首にかけた蒼い宝石が再び輝き出した。


「・・・ミーナ。」


「聖なる光の壁よ我らを護れ!ホーリー・ドーム」


二人を光のドーム状の壁がアウラの魔弾を無効化する。


「なんだ・・・その光は」


アウラも動揺を隠せないでいた。ホーリー・ドームが消えると同時にミーナが倒れこむ。


「大丈夫か、ミーナ!!」


「アランさん。良かった。」


お互いの身体を支え合う。もう立つこともままならない。


「次こそは仕留める。」


さっきよりも強力な魔弾が放たれる。


「おいおい、へばってんじゃねーぞアラン!!」


一瞬でアウラの魔弾が魔法にかき消されている。二人の目の前に立っていたのはフリットだった。


「フリットどうゆうつもりだ?」


「元々弱ってるところに止め刺そうだなんて卑怯なことすんなよなアウラ。コイツをここまで弱らせたのは俺だからよ。俺が責任持ってハンデを補ってやるよ」


「フリット・・・。」


「時間稼いでやるからよ、休んでな。」


「ありがとう・・・」アランはゆっくり瞳を閉じた。


 「おい・・・。おい目を覚ませ小僧。」


アランが目を覚ますと、殺風景の空間が辺り一面広がっていた。


「ここは。」


「ここは俺とお前だけの世界だ」


長髪で長身の全身黒ずくめの男がアランの目の前に立っていた。


「あんたは」


「俺か。俺はお前の剣の魂だ。名はソウル」


「何を言っているんだ?」


「この世のあらゆるものには魂が宿っている。お前達生き物だけでなく、植物やそしてお前達が‘‘モノ‘‘として扱っているもの一つ一つにな」


「・・・。」


「そして、中には一つの意思を持った‘‘モノ‘‘も存在する。まあ生き物や植物と違って意思を持った‘‘モノ‘‘は高価なモノや珍しいモノ、質の良いモノの中でも限られたものだがな」


「この剣の意思・・・」


「お前は、アランだったな」


「ああ・・・何故俺の名前を?」


「言ったろ俺は意思を持っているんだ。所有者の名前くらい憶えていて当然だ。ところでだ、お前は俺のことをどれくらい知っている?」


「・・・。」


「まあ、この空間に初めて来たんだ。知らなくても無理はないな、ったくアイツは息子に何も伝えなかったのか?」


「アイツ?」


「お前の親父だよ」


「父を知ってるのか?」


「知ってるもなにも、お前の前の所有者はお前の親父だ」


「そうだったのか・・・」


「まあ話しを戻すが、お前は俺を知らないが故に俺の力を全く使いきれてない。」


「なに!」


「今、お前の使っている俺の力はほんの一部でしかない。本来はもっと互いをさらけ出し互いの意思が統一されていく程、解放していくんだが、危機的状況だしな仕方ない。」


「なんだ。」


「一回だけ伝える。いつものように相手の力を吸収する時、お前の戦う理由をイメージしろ、それが俺の意思と合えば俺の持つ力が少し解放される。」


そうして消えていくソウル。再び周りが真っ暗になり目を開ける。


「よう・・・お目覚めか」


全身ボロボロのフリットが立っていた。


「アランさん。大丈夫ですか?」


「大丈夫。それよりフリットお前」


「私達が気を失っている間にずっと護ってくださっていたみたいです。」


「護りながら戦うって難しいな!でも悪くない」


倒れ込むフリット


「あとは・・・頼むぜ。」


力尽きるフリットと立ち上がるアラン。


「ようやくお目覚めか、フリットが邪魔をしたが故に立ち直ってしまったが、まあいいすぐに消し去ってやる。」


「やれるものならやってみな」


斬りにかかるアラン


「突っ込むことしか出来ないのか?」


アウラが先程のような強力な魔弾を放ち、アランが受け止める。


(ソウルってヤツが言っていた。戦う理由・・・少なくとも今は!!)


爆風に包まれるアラン。


「今度こそ終わりだ。」


「アランさん!!」


(ミーナを・・・彼女を護りたい!!)


爆風から光が漏れる。


「これは・・・。」


「ほぉう、力を使って・・・!?」


吸収した魔弾の力は、剣だけでなく、アランの身体をも包みこんでいた。


「力が湧いてくる。」


(アラン、お前の今の想いに俺は答えてやる。さあ暴れてこい。)(ありがとう。ソウル)


「これまでと様子が・・・」


アウラが呟く暇もなくアランは背後に回り一斬り与える。


「なっに」


抜刀が遅れ負傷するアウラ


「さあ、ここからが本当の闘いだ。」


「フッ、面白い来い。」激しい剣による決闘が始まった。


 「なんなんだ、どこから、どこからそんな力が湧いて出で来るんだ」


「まだ、3割だぞ」


「!?」


さらにギアを上げ追い込みを図るアラン。自分が防戦一方になることを想像していなかったアウラの顔は蒼白になっていた。


「どうやら蹴りがつきそうだな」


フリットが目を覚まし、ミーナの横で壁にもたれる。


「大丈夫ですか?」


「問題ねーよ。それよりも決着だ」


アランは全身の力を剣に集中させ特攻を仕掛ける。アウラが魔法の集中攻撃を繰り返すが剣を覆う力のエネルギーが盾となり弾き続ける


「魔剣特攻!!」


アランの渾身の一撃は当たり倒れるアウラ。剣も粉々に砕け同時にアランを纏ったエネルギーも無くなった。剣をアウラに向ける。


「殺すなら殺せ」


決意の眼差しをアランに向ける。剣を収めるアラン。


「どうゆうつもりだ。」


「俺達はただ、『魔導兵士』の開発を止めたかっただけだ、人殺しに来た訳ではない。」


アウラに背を向け歩き出すがすぐに足がもつれる。


「大丈夫ですか隊長」


「だらしないですよ」二人が肩を貸す


「ミーナちゃんは俺が背負って行くよ」


「ありがとうございます。ハドソンさん。」


「皆・・・」いつの間にかメンバーが揃っていた。


「証拠の資料は見つかったか?」


「見つけはしましたが破棄するかは隊長に判断してもらおうと思い残してあります。」「そうか・・・。帰ろう。」


「いいんですか?」


「ああ・・・。騎士団長と少し話がしたい。」


「・・・わかりました。」


魔導兵団本部を出ると。魔法騎士団が待機していた。


「ご同行願います。」5人は静かについていった。


 「依頼完遂ご苦労だったねアラン隊長。」


数日間の取り調べののち釈放された5人。アランは魔法騎士団の本部に呼ばれていた。「君達の働きで魔導兵団内で悪事を働いていた面々とこの町に蔓延っていた闇を一部取り締まることができた。」


「魔導兵団はどうなりますか?」


「組織自体に影響は無い。一部のメンバー例えば2番隊隊長ゲデルは禁忌魔法の使用疑惑と魔導兵士に対する非人道的な発言及び管理で追放。10番隊隊長グレゴが魔導兵士を奴隷として利用していた疑いで降格処分といったところだ。」


「そうですか。」


すると扉を叩く音がする。扉の向こうにはアウラが立っていた。


「どうしたアウラ。」


「ソイツに呼ばれたからよ」


「アラン君に?」呆気とられるフォルラン。


「傷は癒えたか?」


「・・・。フン」


「アラン君、どういうことだい?」


「俺達は今回の魔導兵士件は研究を続けて良いと考え、資料の破棄はしていない。」「!?」


驚く二人


「理由を聞こう。」神妙な面持ちでアランを見るフォルラン。


「俺はアウラとの闘いで魔導兵団が魔導兵士の研究を続ける理由を知った。そのうえで研究は続けるべきだと判断した。」


「だが、子どもを使った研究に君は否定的なのだろ?」


「ああ、だがある男との闘いで自ら魔導兵士になりたいと考える子も少なからずいるとわかった。」


「・・・。」


「だから、自ら望む子どもだけに魔導兵士の研究を進めれば良いと考えた。魔導兵士の研究が進み魔法使用に関する生命の消費という根本の問題を解消できるなら、そのまま研究を進めれば良いと結論を出した。」


「なるほど」


「悪くないな」


「そして、その研究は魔法騎士団と魔導兵団が共同で行うことだ、お互いが間違いをしないよう監視するためにも、そして責任者だが」


「私が責任者になりましょう。」


三人の目の前にハイドが現れた。


「ハイドさん!」


「元を辿れば私の時代から始まったこと、それを君達だけに背負わせる訳にはいかない。それに、私が助手をしている研究者の研究の発展に繋がると思いますし。」


「よろしいのですか?」


「魔法の発展のためなら喜んで。」


「では俺はこれで失礼する。」アランが席を立つ。


「アランさん依頼の報酬ですが・・・」


「依頼は達成してないから支払わなくてもいいです。」


「確かに、依頼は達成していませんが、我々に大きな利益をもたらしてくださったのでその分として報酬を支払います。」


「・・・それはありがたい。」


そういって魔法騎士団本部を出たアラン。すると門の前にフリットが


「どうしたんだ」


「俺さお前のせいで魔導兵団クビになったんだよね」


「・・・。」


「でもお前についていけばいつでもお前と闘えるんだよな」


「・・・ああ」


「俺を仲間に入れてくれ」黙って歩き出すアラン。


「・・・ついてこい」こうしてとても強力な魔法使いが仲間になった。


 「フェルトさん、実験の協力ありがとう。」


「いえ、お力添えできて良かったです。」


魔導兵団本部に潜入し終わり1週間、疲労回復とマリヤの研究の実験に手伝い長く滞在していたラグーンシティーを離れることとなった。


「マリヤさん色々とありがとうございました。」


「私は何もしてないわ、ミーナさん頑張ってね。」


「はい!」


「フリット君良かったのかい?」


「上官に刃を向けたからな、あそこに居場所はないし、俺はコイツともっと闘いたい。それが出来るんだ義勇軍に参加する価値はある。」


「おい、フリット!隊長に向かってコイツとはなんだ」


「あ~うるせえわかったよ」


「アランくん日々の鍛練を大切に」


「お世話になりました。魔導兵士の件よろしくお願いします。」


「ええ、責任を持って務めさせてもらいます。」


「では」


マリヤの診療所を後にしようとする義勇軍一同。


「アラン君」マリヤが呼び止める。


「どうしましたか?」「・・・頑張ってね」「・・・はい。」


立ち去る義勇軍。


「良かったのかい?」


後ろ姿を眺めるマリヤにそっと声を掛けるハイド。


「ええ、それにまた会える。そんな気がするの」


そう言って自分の机に戻るマリヤ。ふと机の上にある写真を眺める。そこには家族写真と弟・妹と写った姉弟の写真がそしてその前には黄金の指輪が置かれていた・・・。

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