第52話:罪の在処07


「お前如きが居たせいで」


 殴られ、蹴られる。


「げほっ……」


 呼気が逆流した。口を切って血の味を覚える。ボッコボコにされる。ただ骨は折れなかった。幸いにも暴力への不理解によるモノだろう。憎悪過多。暴力過小。


 けれどフレイヤを巻き込んだ時点で、俺の自業自得だろう。死んでも死後の世界に母親は居ない。それは身に染みて知っている。では、ここで殺される意味は?


「何をしています!」


 死についての一つ……結論が出そうになったとき、そんな声が掛かった。存分に聞き覚えのある声だ。俺を嘆息に導く声でもある。


「金也ちゃん!」


 フレイヤ。あるいは璃音か。


「ああ……! こんなにボロボロになって……!」


 フレイヤでも泣くんだな。それはちょっと意外だった。


「俺は大丈夫だ」


 血の混じった唾を吐いて、俺はホールドアップ。


「そう」


 夜気の気温以上に場の雰囲気が冷ややかに陥った。コキュートス。


「さて? 言い訳は?」


 フレイヤは碧の視線を三人の男子に向ける。面白いように男子たちは狼狽える。絶対零度の視線は、多分理想気体でなくとも消滅させうるに足る。地獄の再現。灼熱の憎悪と極寒の殺意は、在る意味で宣戦布告にして、在る意味で私的糾弾。


「悪いのは鐵だ! 俺たちの復讐は正当なものだ!」


 一字一句は間違っているも、そんな内容の言い訳をする男子たちだった。


「てか何でお前が居るんだ?」


「金也ちゃんと夜のお散歩がしたくなって。それよりも……」


 フレイヤはスマホに手を伸ばした。


「私。さらうよ。手引きして」


 そんな連絡の後、メンインブラック然とした使用人たちが男子三人を連れ去った。


「あんまり虐めてやるなよ?」


「金也ちゃんは病院に……」


「必要ない」


「でも……!」


「うだうだ言うな。鏡花と朱美に心配はかけたくない」


「ごめんね」


「何故お前が謝る?」


「私が強硬論を主張したから金也ちゃんが逆恨みを受けた……」


「それはアイツらの責任だ。別段俺は気にしていないしな」


「本当?」


「嘘でも構わんが」


「金也ちゃんの意地悪」


 ――お前のせいでな。


 さすがに面と向かっては言えないから心で呟くが。


「お前は俺が可愛いのか?」


「最愛の子どもだよ?」


「モンスターペアレントだな」


「金也ちゃんを守れるなら……それでいい」


 ――さいでっか。


「応急処置」


「アイスが食いたい。コンビニに行く」


「使用人に用意させるから。仮に軽傷でも金也ちゃんの怪我は大事なの」


「お前は俺に甘過ぎだ」


「だって……だから可愛い子どもだもの」


 そうだったな。


「あの三人だが……」


「煮た方が良い? 焼いた方が良い?」


「前科を付ける程度なら良いが、あまり不幸にはしないでやれよ」


「金也ちゃんは優しいね」


「心安らかに生きたいだけだ」


「だからソレを優しいって言うんだよ?」


「そんなもんかね」


「金也ちゃんは……」


「何だ?」


「ううん。何でもない。傷は痛む?」


「素人の暴力だからさほどでも」


 俺は肩をすくめた。

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