第44話:涙の意味11
風呂に入ってサッパリとする。いつも通りフレイヤと風呂を共にした。相手がマスターキーを持っていたため拒否のしようがない。結論、残念に終わるも。
「私のおっぱい吸いたくなった?」
「お前のおっぱいはいらねぇよ」
そんなやりとり。どうしてもフレイヤは俺におっぱいを吸って欲しいらしい。俺も思春期の高校生であるから何処まで保つかはあんまり自信は無い。とまれ、
「アイムシンギインザレイン……」
と風呂上がりに『雨に唄えば』を口ずさみながら俺はスマホをカシカシ弄っていた。趣味の小説執筆だ。今書いているのは自傷癖を持つ少年と心優しい少女のロマンス。一応ラストで少年が自殺する予定だ。こと俺が小説を書くとキャラが死ぬことは避けられない。死に対して一定の思案を持っているためしょうがなくはあるのだが。
「とはいえ」
フレイヤと話しているわけでもないのに嘆息してしまう。俺にしては珍しい。
「鏡花が読んだら泣くだろうな」
ネット小説サイトに投稿しており、ほとんど人気の無い趣味小説を書き散らしている俺に対し、鏡花は真摯に読んでくれる。ある意味で有益な読者だろう。結局泣かせることに相違は無いも。
「ジャスシンギインザレイン……」
カシカシ。俺が『雨に唄えば』を好きなのはとある映画が根底にある。あまり良い感情を得られる場面での唄では無いが、曰くアレは役者のアドリブだったとか。童貞の俺にはちと遠い表現でもあった。
と、コンコンと間仕切りがノックされる。
「誰だ?」
誰何する。
「鏡花です。兄さん」
「どうぞ」
俺は解錠のボイスコマンドを口にする。
――あるいはこの音声認識も、フレイヤが用意したAIによるものだろうか?
スラッと間仕切りが開いて寝間着姿の鏡花が目に入る。艶のある肌が輝いていた。
「どうした? また泣きたいのか?」
「いえ……その……」
もじもじとする鏡花。
「とりあえず入れよ」
「失礼します……」
そう言って鏡花は入室してくる。艶やかなブラックロングヘアーは俺に性的な衝動を植え付けるに不足は無い。残暑厳しい季節。薄い寝間着姿も鏡花のモデル体型を隠すこと無く朗々と表現していた。
「で? 何の用だ?」
「兄さんは……私の兄さんですよね?」
「戸籍上はな」
「私を置いて何処かに行ったりしませんよね?」
「今のところはな」
スマホをテーブルに置いて、俺はすり寄ってきた鏡花を抱きしめる。
「どうした? 悲しい事でもあったのか?」
「そんなものは幾らでもあります」
幾らでも有るのかよ。
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