第45話:涙の意味12


「兄さんは……」


「俺は?」


「フレイヤのおっぱいを吸いたいんですか?」


「そうならとっくにしている」


 何を言い出すんだ。


「やっぱりおっぱいは大きい方が良いですか?」


「胸に貴賤はねえよ」


「でしたら……!」


 でしたら?


「私を妊娠させてください」


「…………ん?」


 言ってる意味が分からんのだが。


「兄さんとセックスしたいと……言いました」


「何故?」


「母乳が出るおっぱいを獲得して……その相手が兄さんで……兄さんが私のおっぱいを吸ってくれたら……それは私の至福です」


「…………」















 ――どう答えろと?







「私は兄さんに救われたんです」


「俺の方こそ鏡花に救われたがな」


「涙を肯定してくれた兄さん」


「哀惜を仮託してくれた鏡花」


「だから好きです」


「愛してる」


「では交合しましょう?」


 何でそうなる?


「兄さんは私の体では不満ですか?」


「プロポーションが良くとれてると思うぞ」


「なら私でも抱いてくださって憂いは無いのですね?」


「そういうのは鏡花にはまだ早い」


「でもフレイヤはことあるごとに兄さんにおっぱいを吸わせようと……」


「あれは単純に馬鹿なだけだろ?」


 酷い言い草だが事実でもある。


「私だって少しはおっぱいあります……!」


「モデル体型だしな」


「兄さんに孕ませてもらったら幾らでも兄さんに母乳をあげられますよ?」


「それはお前の子どもに言ってやれ」


「兄さんとの子ならば……」


「鏡花が慕ってくれているのは理解しているつもりだが……貞操に意識を割いている女の子の方が俺の好みだぞ?」


「フレイヤは眼中に無いと?」


 ……そこまでは言わんが。


「私には兄さんしかいないんです……。どうか私を突き放さないでください……」


「それについては大丈夫だ」


 俺はクシャッと鏡花の髪を撫でる。


「お前は俺の大事な妹だから」


「私の涙を肯定してくれた兄さん」


 鏡花は心を振るわせて言う。


「泣き虫の私をあやしてくれる兄さん」


 鏡花は心を動かして言う。


「そんな兄さんだから……私は好きなんです……」


 孕ませて欲しいと妹は言う。俺の心を繋ぎ止めたい一心で。ソに対して何も返してやれない自分に腹が立つ。前後不覚に成るほどだ。鏡花が俺に惚れているのは今更だが、フレイヤに触発されてここまで思い詰めているとは思わなかった。


 そんなところだけ鈍感なのだ。この駄目人間は。結局のところ劣っているのだろう。ギュッと鏡花を抱きしめる。


「ありがと……な……」


 俺は他の答えを知らなかった。

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