第42話:涙の意味09


 放課後の文化祭の準備を取りやめて帰宅。


 フレイヤ邸にてスイスイと運針する俺たち。ミシンで手の届かないところは自分で針と糸を持って生地と生地とを縫い合わせていく。時折使用人が用意してくれた茶を飲みながら。途中夕餉を挟んでまたスイスイ。


「ていうか何で俺は自分のメイド服を縫ってるんだろうな?」


 もう何度も繰り返した自問をまた問う。


「金也ちゃんが可愛いから」


 フレイヤの言も聞き飽きた。


「実際ウィッグ被ったら美少女だし」


「嬉しくねえよ」


 またしても嘆息。後に運針。


「ところでイジメの犯人はどうした?」


「即日退学。校長もこっちで説得したから」


「さすが財閥の御令嬢ってところだな」


「逆鱗に触れた相手が悪い」


「それは否定しない」


 運が悪かったとしか言いようが無い。フレイヤを敵にすることの愚かさを想像出来なかった虐めっ子たちにも一定の非があるだろう。高校の中退は学生にとって人生の歪みに相違ないし、こちら側の俺にはフォローも出来ない。する気もないが。


「金也ちゃんを害そうとする輩はどいつもこいつも死ねばいい」


 マジでフレイヤはそう言った。


「ですね」


「だね」


 鏡花と朱美も同意する。


「何それ?」


 曰くヤンデレって奴?


「そうとってもらっても」


 飄々とフレイヤは言った。


「にゃは~」


 と照れ笑い。可愛いが、その笑顔と実行された手段とは乖離している。心理においては鏡花と朱美も似たようなものだろう。


「愛が重いな」


 また嘆息。スイスイと運針。


「ちなみにその三人だが」


「何?」


「乙女解放同盟の所属だったか……」


 たしか資料を読む限りでは。


「だね」


 肯定が返ってくる。


「んだでば、こっから先も俺に対する悪意は続くのか?」


「シュプレヒコールを禁止させよっか?」


「そこまでしなくていい」


 運針。


「フレイヤにしろ鏡花にしろ朱美にしろ……」


 嘆息。


「超一級の美少女だからな」


 同盟の機嫌も分からないじゃない。


「羨望と嫉妬は友達だよ?」


「知ってるさ」


 ルサンチマン。負の感情を煮詰めた魔女の釜。


「俺は恵まれてるな」


 おかげでしがらみが纏わり付いてはいるのだが。


「別段高校を退学しても痛手にはならないと思うけど」


 ポヤッとフレイヤは言った。


「高認受ければ良いだけだしね」


 さすがにMIT飛び級卒業者は言うことが違う。

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