第34話:涙の意味01
自意識を確立した頃から俺は一つの命題のみを考えていた。
「死とは何ぞや?」
母親の墓前に立つ度に、その思いは強まっていく。まるで機械のように演算と再入力を繰り返す。出力は得られない。思惑の迷路が俺を絡め取る。そんな折りだった。父親が今の母親……水月さんと再婚したのは。
「あう……あうう……」
必然、俺は義母の連れ子である鏡花と義兄妹の関係となった。
「あうう……」
父親と母親の馴れ初めは、この時点では聞いていない。後から知らされたが、いと普遍的理由だった。問題は鏡花。
「あうう……」
母親は最近夫を亡くしたらしい。鏡花にとっては父親を失ったわけだ。それから鏡花は学校にも行かず実父を想って泣くだけの存在だった。
「あうう……」
宛がわれた部屋の端っこで泣き続ける。涙が止まらないらしく登校拒否状態だった。ひたすら部屋の隅っこで泣き続ける鏡花に俺は声をかけた。
「何が悲しいんだ?」
もしかしたら……。
そんな思いがあった。
「もしかしたら鏡花は答えを知っているかもしれない」
俺が墓前に立つ度に強く成っていく疑問の答えを。
「あうう……」
泣きながら、両手で涙を拭って、
「お父さんが……いなくなった……」
「死んだってのは聞いたが……」
ガシガシと後頭部を掻く。体育座りで丸くなっている鏡花を、立っている俺が見下ろす形である。
「お母さんが……お父さんを……燃やした……」
「火葬な」
「お父さん……お父さん……!」
「俺の父親じゃ駄目なのか?」
「お父さんじゃないもん!」
「ま、そうだよな」
どこまで行っても代替物だ。
だから、
「羨ましいな」
俺は率直に言った。
「ふえ……」
鏡花の涙が止まる。信じられないものを見る目で俺を見た。
「お父さんが死んだのが……羨ましいの……?」
「そっちじゃねえよ」
「どっち……?」
「死んだ父親のために泣けるお前が尊いってだけだ」
「泣き虫……だから……」
「いいじゃないか。泣いて見送れるなら」
「お父さん……天国で……怒ってるかな……?」
「むしろ喜んでいるんじゃないか?」
「何で……?」
意味不明。
意思不明。
意図不明。
そう顔に書く鏡花。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます