第19話:璃音カーネーション09
「あ?」
浴室と脱衣所を仕切る扉を見やる。バインボインがいた。張り詰めた胸に曲線美のお尻。女優も目じゃないプロポーション。金髪碧眼で艶々の肌。言うまでも無くフレイヤ=ゴールドーンだ。
「何してんだテメェ……」
うんざりと吐く俺に、
「母親に向かってその言い方はないんじゃない?」
彼女は不満そうだった。
「言ったでしょ。金也ちゃんにお母さんらしいことをしてあげたいって」
「鍵かかってたはずだろ」
「ああ、私のカードキーはマスターキーだから。こと私においてはアンチェインでファイナルアンサー」
――タチが悪い。
それが俺の心底からの本音だった。
「風呂は先に入ったんだろ?」
少なくとも男である俺が最後の入浴だと使用人から聞いている。
「うん。だから使用人は連れてないでしょ?」
「何しに来た?」
「子どもと一緒にお風呂に入るのはお母さんの夢なの」
「犯すぞ」
「いやん」
どうやら脅迫は通じないらしい。俺は足を組んでもう一人の自分を押さえつける。それはフレイヤにも十全に伝わった。
「ん。もう。恥ずかしがらなくていいのに。親子なんだから」
「今のお前はフレイヤだろう?」
「お母さんって呼んでもいいのよ?」
「善処するよフレイヤ」
皮肉る他に出来ることはなかった。
「なんか出会ったときから思ってたけど……」
「何か?」
「金也ちゃんって捻くれてるというか斜に構えてるというか……」
「……んだな」
その根幹について……今は話したくなかった。
「駄目か?」
「ううん。可愛らしいよ」
「全力で母親目線だな」
「母親だもん」
「だったな」
であるから決定的な言葉を俺は恐れているのだから。
洗髪も洗体も終わっているためフレイヤは直に入浴した。俺のすぐ隣。風呂の水面におっぱいが浮く。おっぱいが水に浮くってのは本当だったのか……。
もう一人の俺が破裂しそうなくらい主張していたが、三人目の俺がそれを何とか封じていた。
拮抗状態。
「ところでフレイヤは俺たちと同年齢なんだろ?」
「うん」
「しかも融通の利く大財閥の御令嬢」
「だね」
「何でこの時期に現れた?」
本当に生まれたときから璃音の意志があるのなら、もっと早い段階で接触してくるのが道理だ。そう云うと、
「あー、あはは……」
苦笑して、
「家のしきたりでね。ゴールドーンの令嬢なら大学くらい出ろって言われて今年の初夏までは大学に通ってたの」
「大学?」
「うん。MIT」
「裏口入学?」
「失敬な。ちゃんと正式に入学しました」
「フレイヤは頭がいいんだな」
「いや、私の場合生まれた頃から人より体感時間が長いじゃん? だから基本教養を押さえてチョロっと勉強すれば大学くらいは簡単に」
「理屈は分かるがそれでもなぁ……。MIT……ねぇ?」
「んで飛び飛びで単位取得して十五歳で卒業。鉄ちゃんと金也ちゃんの事情を調べてこっちに引っ越してきたってわけ」
「何を専攻したんだ?」
「AI」
アーティフィシャルインテリジェンス。
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