第18話:璃音カーネーション08
そんなわけで早速今日からフレイヤ邸に移住することになった。使用人は要領よくテキパキと俺たちの移住事情を認識実行し、私室に彩りを添える。広い屋敷だ。使用人の部屋とは別に私室は幾らでもあった。寝室も別にあり、そこで寝てくれとは使用人の言。頷く他ない。
俺は俺に割り当てられた私室でボーッとしていた。
八畳間の畳部屋。もっと広い部屋も用意されているらしいも「俺が落ち着かない」との理由で八畳間の部屋を用意して貰った。
勉強机と仮眠出来るソファ、タンスに衣類が収まっており、本棚には俺のお気に入りが陳列されている。
ちなみに結果論で、血が繋がっているためか……フレイヤもビブリオマニアらしく屋敷の地下にシェルターと図書室があるとのこと。
基本的に俺は哲学書とラノベしか読まないのだが、色々と読んだことのある本が並んでいるのには、さすがに驚いた。
こういうところを「親に似た」と言うのだろうか?
「まぁいいか」
思念あるいは懸念を追い払う。
読書に没頭。
部屋は襖で仕分けられているが、あくまで見た目だけであってカードキーで開閉できる仕様だ。部屋に鍵がないと落ち着かないためそれはいいにしても。来訪者があれば部屋のインターフォンで知らせる仕組み。
ちなみにこれは浴室も同様らしく、一人に一枚のカードキーで施錠できるとのこと。
これはある意味助かった。
なんせ鏡花なんかは実家で暮らしていても、
「一緒にお風呂に入りましょう兄さん!」
などと頭が違えた提案をしてくるからだ。
男女七歳にして……でも無いが、一応妹の性事情に対して一定の義務を持つのが兄の役目だろう。
私室の側面にあるのは板張りの通路。ソレを挟んで向かい側にお付きの部屋と相成る。こっち一人に三人の使用人が付く。
「勘弁してくれ」
俺は言った。
幾ら何でも他人を顎で使えるほど俺のハートは毛が生えていない。
「とは言われても」
フレイヤは言った。困惑気味に、
「もう給料払っちゃってるし」
と絶望的な答えを。何かの妥協が必要なのだろう。どうにも譲り合うには一方的すぎる展開となった。
呼び鈴を鳴らさねば使用人は現れないらしいので、その通りにするしか無いのかもしれない。あっさりと移住して、竹林の庭の見える景色を窓から眺め、片手間に本を読む。
今日の夕餉は引っ越し蕎麦で腹をくちくしたため残るは入浴と睡眠……後は読書くらいか。
チャイムが鳴る。
「どうぞ」
そんな俺の声に反応して襖(っぽい仕切)のキーが解錠される。現れたのは和服を纏った使用人。なんか民宿に泊まっている気分になる。若女将的な雰囲気があった。
「ご入浴の準備が整いました」
「ども」
頷いてタンスを漁ろうとすると、
「金也様の寝間着はこちらに」
と使用人が恭しく示してくる。受け取ろうとすると、
「なりませぬ」
と拒絶された。
「何故?」
首を捻ると、
「脱衣および着衣……ならびに洗髪および洗体は使用人の領分です」
「却下」
「しかし……!」
「フレイヤにはこっちから言っておくから」
「私らめは不要でありましょうか?」
「朝起こして食事を作ってくれれば文句はないな」
それ以上を求めることをしない。使用人を罪悪感から下がらせて、俺は浴室に向かった。
屋敷は広いため浴室に行くだけで道案内は必要だったが。それからカードキーで浴室の扉を開き、一人で中に入るとカードキーで施錠する。これで浴室は現時点において俺以外の誰も入れない仕様となる。
丁寧に鹿威しの音が聞こえる浴室だった。
泳いで遊べるほど広い。
頭と体を洗って湯船に浸かると、俺は『雨に唄えば』を口ずさむ。一人で入るには広い風呂だが、かと言って誰かと共有できるはずもない。忍びなくて歌を唄った……そんな辺りが落とし処だろう。
そんな風に思っていると、
「映画……好きなの? それともアニメ?」
そんな声が聞こえた。
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