第17話:璃音カーネーション07
「と……いうわけで鐵家の存亡と秤にかけて、金也ちゃんの居候の件を前向きに考えて貰えないかな?」
前向きもクソもほとんど選択権無いじゃねえか。てか事前に決定事項って言ってたな……そういえば。
「兄さんはどう思っているので?」
「別に遠く離れた場所に拉致監禁されるって話でもないんだ。お向かいさんに住居が移っても支障は無いな」
「やーん。母親想いな金也ちゃん素敵!」
滅んでくれ。
「鉄ちゃんもそれで良いでしょ? それとも生活保護を受けてみる?」
「ぐっ……」
と呻いた後、
「金也が納得するのなら条件を呑んでも良い」
つまり決定と。
「水月ちゃんは?」
フレイヤは母親に尋ねる。
「衛星画像から見ればお向かいさんなんて誤差の範囲だから私は全く構わないわ」
いつも通り、のほほんとしたお方だ。母親は。
「鏡花ちゃんは?」
「条件付きで肯定します」
「言ってみて」
「私もこの屋敷に住まわせること。それが最低限の条件です」
「構わないけど……いいの?」
「何がでしょう?」
「鐵家が鉄ちゃんと水月ちゃんだけになったら弟妹が出来るかもよ?」
「命の誕生は喜ばしいことです。貧乏人が子どもを生むのは殺人より酷い罪悪だと思っていますが、幸い鐵家は恵まれています由」
父親が編集者だから中流家庭には相違ない。
「義理とはいえ金也ちゃんの妹なら私にとっても娘みたいなものか。うん……いいよ。その条件で行こう」
「あたしも! あたしも同棲したい!」
朱美が焦ったように自己主張。
「あなたは関係ないでしょう」
とは鏡花の言。こと俺の事になると懐が狭くなる気質だ。ブラコンで片付けられる態度でもあるも、もう少し融通きかせようや。
「鏡花とフレイヤばっかり良い目に遭うのは不公平!」
まったくだ。茶をすする。
「私は別に良いけどね」
フレイヤの方は懐が深かった。
「やた!」
と喜ぶ朱美。
気持ちは分からんが想像は出来る。
朱美は鏡花を恋敵とする。
で、その恋敵が俺と一つ屋根の下で、自分はお隣さん。美貌はどっこいでも、勉強やスタイルの方面において朱美は鏡花に酷いコンプレックスを持っている。同棲事情もその一つだろう。俺と一つ屋根の下で暮らせることに喜びを覚えない方が嘘だ。
俺にとっては、
「よくそんなことで喜べるな」
なんて具合だが。
乙女心は複雑怪奇だ。
「んじゃ決定ね」
事案が済んでフレイヤ邸の食堂。そのテーブルに置いてある呼び鈴をフレイヤが鳴らす。すぐさま使用人が現れた。
「金也ちゃんと鏡花ちゃんと朱美ちゃんの部屋を用意。並びに元の部屋から必要な荷物をこっちに送ること。最優先案件と伝達なさい」
「承りましたお嬢様」
そして早速、
「どこから出てきたのか?」
とツッコみたくなる使用人が屋敷から現れて俺たちの移住を手早く済ませた。
「そういえば」
と茶を飲みながら俺。テキパキ働く使用人たちは無視の方向で。
「ゴールドーン財閥って言ったよな?」
「それが?」
「お金持ち?」
もっとも……この豪邸を建ててお金持ちじゃなかったら嘘だろう。
「一応今のところは世界財閥だね」
「…………」
沈黙する俺の横で、
「でしょうけどね」
鏡花が淡々と肯定した。
「知ってたのか?」
「知識としては。こうして実感するまでは同姓の偶然かと思ってましたし」
何でも傘下にオイルメジャーや大手メディアや大銀行を持ち、当国の軍需産業にまで枝葉が伸びているとのこと。ゴールドーンがくしゃみをすれば大恐慌になるとまで言われているらしい。
「意識してのことか?」
「それはそうだよ」
さいでっか。道理で。こうも首尾良く経済的に追い詰められるものだ。欧米財閥の一角ならなるほど……お茶の子さいさいだろう。
フレイヤ=ゴールドーンこと白銀璃音は、
「にゃは」
と照れたように笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます