第20話:璃音カーネーション10


「ほら。私ってアクセサーでしょ? 精神と魂について考察することが多かったの。だからAIを通じて人の精神と魂の有り様を研究していてね。人間に近いAIももうすぐ出来る。その上でAIが人間の精神と寸分違わなくなった場合……そこに魂はあるのか。自我はあるのか。自己同一性はあるのか。大学時代はそんなことばっかり考えてた」


 似ている。


 そう思った。母親を殺したことで死について考察するようになった俺だから、フレイヤの因果な考察も当然だと腑に落ちる部分があった。


「結局ちょこっとだけAIの進歩に貢献して、それを卒論にして晴れて卒業。後は鉄ちゃんと金也ちゃんのために時間を使いたいって思ったの」


「精神と魂の研究は打ち切るのか?」


「続けるけど別にネットワーク社会でなら日本にいても研究は出来るし、まれに所属していた研究室の教授に研究を依頼されて論文書いたりもあるしね。グローバル社会なんだからこの程度の距離は距離とは言わないんだよ」


「その年で大学卒業ってことは英才なんだろ? よくもお家が手放したな」


「中に入らないと分からない実感かもしれないけど、基本的に働かなくても金銭が流入するシステムを構築しているのが財閥なんだよ。働かなくとも利権と株を握っているだけで口出しして世界をコントロールする。マスメディアを動かして世論を動かすことさえ不可能ごとじゃない。強力な地盤が出来ているから人類が滅びるまでこのシステムは崩壊しないんだよ」


「そんなもんか」


「そんなもん。で」


 で?


「話を戻すよ」


「何のだ」


「お母さんらしいことをしたいって言ったでしょ?」


「だったな」


 広い浴室をあえて狭く使っている俺たちだった。すぐ隣にグラマーな美少女。そんなフレイヤは自身の巨乳を持ち上げると、こちらに「どうぞ」と云った具合で差し出す。


「金也ちゃん?」


「何よ?」


「私のおっぱいを吸って?」


「…………」


 言っている意味がようとわからんのですが……。


「正気か?」


「無論」


「本気か?」


「それも無論」


「母乳が出るのか?」


「出ないよ?」


 さもあらん。


「で、なんで俺がお前のおっぱいを吸わにゃならん?」


「金也ちゃんにお乳をあげるのが私の夢だったの。母乳が出ないから正確ではないけどおっぱいを吸ってくれると嬉しいな」


 巨乳がたゆんと揺れた。


「はぁ……」


 嘆息。


「お前のおっぱいはいらねぇよ」


「ちょこっとでいいから」


 重たそうな乳房をゆさゆさと揺らす。ソレにあわせて風呂の水面がチャプチャプと波紋を広げるのだった。


「父親に頼めば? 喜んでくれるだろうよ」


「鉄ちゃんは既に吸ってくれたよ? 転生する前の話だけど」


「聞きたくなかった……」


 生々しい話を実の息子に聞かせて誰が得するんだ……。


「ちょっとだけ。ね? ちょっとだけ」


「そういうプレイは望んでねぇよ」


「じゃあ乳首を噛むだけでいいから」


「余計嫌だな」


「お母さんは金也ちゃんにおっぱいを吸って貰いたいのです」


「…………」


 俺は言葉を封じ込めた。


「――――ないのか?」


 そんな決定的な疑問が口から飛び出そうになったからだ。一日たりとも欠かさず考察していた疑問。その答えがフレイヤの形を以て提示されている。後は聞くだけで答えを得られる。それなのに……どうしても俺は勇気を持てなかった。


「先に上がる。お前ものぼせるなよ」


「金也ちゃ~ん」


 だから言ってるだろう。


「お前のおっぱいはいらねぇよ」

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