第12話:璃音カーネーション02
「どういう意味だ?」
次に問うたのは父親……鐵鉄也。瞳に宿っている光は憤怒の残滓。怒るまでもないが怒りたくなる。そんな感情。
「久しぶりだね。鉄ちゃん」
フレイヤはあっさりそう言った。それがまた父親の神経を逆撫でする。
「巫山戯てるのか……」
「至極真面目だけど」
父親の怒気含んだ声にも動じない自称実母。
「フレイヤ=ゴールドーンは世を忍ぶ仮の名だよ。私の魂の名前は
「白銀……璃音……?」
この場にいる男二人が困惑した。俺と父親だ。
「白銀璃音」
それは俺の実母の名前だ。
後に鐵璃音と姓を変えることになる女性の名。
今はもう亡き人。
その名をフレイヤは紡いだのだ。
「りんちゃんは死んだはずだが?」
父親と実母は互いに、
「鉄ちゃん」
「りんちゃん」
と呼び合う仲だとは俺も知っている。さらに云えばりんちゃん……鐵璃音は俺が殺したはずなのだ。
「まぁね」
とフレイヤは淡々と。緑茶を飲みながら。特に必死に否定しようとも思っていないらしい。あえて言うなら「さもあらん」……そんな態度。
「で、その辺を説明するためにこの場を設けたってわけ」
引っ越し蕎麦は前座だったらしい。
「それで? どういうことだ?」
急かす父親。
「そんな難しい話でもないんだけどね」
軽く云うフレイヤ。
「んーと……」
しばし言葉を探してこめかみをつつき、
「正答じゃないけど……生まれ変わりって概念が一番近いかな?」
言ってのけるフレイヤ。
生まれ変わりとな。
転生。リインカーネーション。
要するに死者の記憶や人格を引き継いで再度この世に生を受けた人間を指す。仏教圏で云えば輪廻を指すだろう。
「お前がりんちゃんの生まれ変わりとでも云うのか……?」
「そう言ったじゃん」
まったく揺るがない精神をお持ちのようで。
「そんな馬鹿な話があるものか!」
「鉄ちゃんが馬鹿なのは十全に知ってるけど」
一応出版社勤めなんだがな……。
「どうやって証明する?」
これは当然の反応だ。少なくとも俺が父親の立場なら同じことを問う。
「そうだねぇ……」
フレイヤは茶を飲んで天井を見上げた。それからまた視線を水平にして意地の悪そうな表情になった。
「じゃあ夜伽について語ろうか?」
「夜伽……?」
「要するにセックスのこと」
「あ……」
確かにな。俺なんて存在がいる以上、父親と実母の間には交合が有り得たろう。
「私は鉄ちゃんに処女を捧げたよね?」
「むぅ」
呻く父親。
さすがにゴールドーンが優秀な興信所を持っていても二人だけの記憶まで調べることは不可能だろう。
が、証拠ならばちと弱い。
当てずっぽうでも得られる回答だ。
それはこの場の誰も等しく持ち得る思念だろう。
「んじゃもう少し深くつっこんで……」
ニヤニヤと笑いながらフレイヤは続ける。
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