第13話:璃音カーネーション03
「セックスに慣れてきたら鉄ちゃん……(バキューンと銃声)じゃなくて(バキューン)に挿入させてくれってお願いしてきたよね。周到に(バキューン)まで用意して」
「な、何故それを……っ!」
「他にも(バキューン)を着せて(バキューン)させてくれって嘆願されたこともあったっけ? その時の私の返答も答えようか?」
「わかった! 理解した! お前はりんちゃんだ! だから……」
「ま、恥ずかしい過去なのは私も同じだけどにゃ~」
くっくと笑う彼女だった。あぁ。小悪魔だ、此奴。
「あなた?」
母親が父親に半眼を向けた。あわあわと抗弁する父親。
「いや、あの頃は俺も若かったというか……!」
「私との時にはそんな注文付けませんでしたよね?」
――そっちかよ。
俺と鏡花の心はここで等しく繋がった。
「なんで私にはそんなプレイを迫らなかったんです?」
「君の体を大事にしたかったから……では不満か?」
「むぅ」
拗ねてみせる母親だった。両親の生々しい話は子どもに聞かせるべきではない。マニアックなプレイに奔るのは二人の勝手であるも、こっちには耳障り。
「で、りんちゃん?」
「なぁに鉄ちゃん?」
「生まれ変わったってどゆこと?」
それは俺も知りたい。
「普通生まれ変わりっつったら少し時間が空くんじゃないか?」
「んーと……その辺りはアクセサーの能力にも因るしね」
「アクセサー?」
「そ。魂のネットワークにアクセスできる権限を持つ人間をそう呼ぶの」
「?」
フレイヤ以外の全員が首を傾げた。さもあろう。
魂て。
こと斜に構えた俺が嫌う言葉だ。所謂一つの非物質的生命維持機能。
「生命には魂が無いと死ぬ」
そんなありきたりなプロパガンダ。
有り得ない。
魂とやらが生命を維持しているのなら人間はどうして呼吸をして食事をして食べ物を酸化させて熱エネルギーを得る必要があるのか。
魂とやらが五感を支配し情報を統合するのなら目や鼻や耳や脳の意味は何処に消え失せるのか。
母親を殺した俺は死について常に考え続けているが、こと魂論は早々に見切りをつけた概念でもあった。
それについて話すと、
「ん~……」
フレイヤは唸りながら緑茶を飲む。
「ほ」
と吐息をついて安穏。カツンと湯飲みをテーブルに置く。そして口を開いた。
「一般的な魂の概念は金也ちゃんの言う通り。そもそもにして魂や幽霊が一般的な意味で存在するのなら人間は五感も脳も声帯さえも持つ必要は無くなる。うん。その通り」
軽やかに言ってのけた。
「てことは違うの?」
これは朱美。赤い瞳は不理解の色を見せていた。
「うん。一般的な意味合いでの魂じゃないね」
「では?」
と鏡花。
「ん~と……こっち側の人間の指す『魂』って言うのは単なる情報なの」
「情報?」
鏡花の言葉であって、フレイヤを除く全員の心象でもあった。
「私が言う魂は人間にしか存在しない」
つまり他の生命には魂は無いのだろう。ウィルスの定義もあるから、あながち強硬論とも言えない。
「形相って言えばわかりやすいかな?」
形相。
「つまり……」
「金也ちゃんは察しが良いね。その通り」
ニコリとフレイヤは笑った。
「肉体が質料ってことか?」
「然り」
なるほどな。
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